第19回:胤森なお子 理事
(ピープル・ツリー/フェアトレードカンパニー株式会社常務取締役)

 

毎年5月の第2土曜日は「世界フェアトレード・デー」。

フェアトレード団体の世界的なネットワークである世界フェアトレード機関(WFTO)のメンバーが中心となり、この日に各国でさまざまなイベントを通じてフェアトレードをアピールする。

今年のテーマは「フェアトレード・ピープル」だ。

テーマに込められているのは、フェアトレードの原動力は、ものがつくられる現場から消費者の手に渡るまで一連のサプライチェーンに関わる「人」である、というメッセージだ。

 

昨年4月にバングラデシュのダッカで8階建てビルが倒壊し、中の縫製工場で働いていた1,138名が亡くなった悲惨な事故は、欧米諸国や日本の消費者が安く買い求める衣料品がつくられる現場で、安全基準を満たさない建築や過密な作業場でのひどい労働環境などが横行していたことを明るみにした。

このような「アンフェアトレード」がはびこる背景には、経済のグローバル化に伴って生産現場と消費者の距離がどんどん遠くなり、ものの背景にいる人の顔が見えなくなったことがある。

見えない相手に対する責任感は薄れ、サプライチェーンの各段階で起こる責任の放棄の連鎖が、アンフェアトレードを生み出している。

 

フェアトレードは、途上国支援のための慈善的なビジネスと誤解されがちであるが、もっと普遍的な、本来あるべき人と人との関係を取り戻す社会運動といえる。

フェアトレードの生産者たちは、ほどこしを求める弱者ではなく誇り高い職人たちだ。

自分の仕事やつくったものに誇りを持ち、それに対して正当な対価を求めている。

適正な価格を払ってそれらを買うことは、つくり手やものの背景への敬意や愛情も合わせて手に入れることなのだ。

そのとき消費者は、知らず知らずのうちに生産者の搾取や環境破壊に加担する無知な存在ではなく、責任ある選択者になれる。

フェアトレードは、生産者であれ消費者であれ、それぞれの立場で関わる「人」の存在を再認識させ、人の力で社会を再構築する試みなのである。

 

3・11以降、被災地では大小さまざまなソーシャル・ビジネスが生まれ、現地で作られたものを買い支えるという「国内版フェアトレード」も盛んになっている。

震災やバングラデシュの事故のような大事件をきっかけに、多くの人が自らの力に目覚めて現状を変えていこうとしている。

この流れの先には、人と人とが尊重し合い対等につきあうフェアな社会があると信じている。

 

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