第27回:藤井郁乃 評議員
(トヨタ自動車株式会社 総合企画部 CSR室 室長)

 

「CSR」の在り方が大きく変わろうとしている。

従来は主に企業に対して、その影響力の大きさからリスク面を重視したCSRが中心であったが、近年では、影響力とグローバルネットワークを逆に利用して、社会課題の解決を期待されるようになっている。

また、企業の不祥事や行き過ぎた短期利益主義への反省から、より中長期の視点で社会と共生する企業活動が求められるようになっている。

 

日本にとって「CSR」は欧米から輸入した概念であり、日本的経営に馴染みにくいとの認識が強いと思われるが、「社会との共生」という点では、日本企業は、その規模の大小にかかわらず、創業の精神として経営の根底に織り込んでいるケースが多い。

弊社でも豊田佐吉の遺訓をまとめた「豊田綱領」において、その第一の条項として、「上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を拳ぐべし。」とある。

豊田喜一郎も、「日本人の腕と頭でこの国に自動車産業を興したい。」と願い、トヨタ自動車は生まれた。

創業の頃の様子は、「LEADERS」というドラマとして今年3月にテレビ放送された。

この「LEADERS」というタイトルに実は深い意味が含められている。

つまり、喜一郎ひとりがトヨタを作ったのではなく、何人もの志を同じくするリーダーたちがこの国に自動車産業を興したという意味である。

今日では、海外での事業も大きくなり、「国」というよりは、それぞれ事業をさせていただいている地域社会であったり、国境を越えて課題に直面するグローバル社会に置き換えて事業に取り組んでいる。

 

これまでCSRの分野では、欧米から対応の遅れを指摘されることが多かったが、中長期視点が経営に求められる今日、企業の「社会との共生力」については、日本企業が先んじて主張できる時代となってきたと言えるのではないか。

 

しかし、それは伝える努力をしなければ、結局は宝の持ち腐れである。

では、どう伝えるか。

これが容易ではない。

「創業者の遺訓」などと言っても、「だから、それが現在の経営システムではどうなっているのか」と聞き返されるだけである。

「創業の精神の伝承」「企業文化の共有」日本人同士の同質的な組織において培われてきたものを、欧米流のガバナンス機能として説明することは、極めて難しい。

 

やや次元が異なるが、東日本大震災の際には被災地の様子を見て、図らずも世界は日本人の精神に注目し、またサッカーW杯でもゴミを拾う日本人が賛美を受けた。

世界には、「日本」に対する一定のイメージが残像のように残っている。

しかし、それは、草の根の実践の姿が、日本人が意図せぬところで相手の心を捕えたものであり、相手が勝手に説明をつけて褒めてくれているにすぎない。

 

折角ある種のステレオタイプがあるのであれば、大いにそれを利用し、日本企業は自らの経営の「社会との共生」についてもっと積極的に語るべきである。

(弊社においてもまだまだ努力不足である。)

また、かつて、「Japan as Number One」と言われた頃に、海外の大学や研究機関において日本の競争力に関する研究が盛んとなり、日本的経営への理解が進んだように、再びこうした日本研究を後押しし、日本発グローバル経営としての「社会との共生」に論理的裏付けが与えられることを期待したい。

 

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