お知らせ

2013.05.09 UPDATE

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

第15回『社会事業家100人インタビュー』

『まっとうに働く人が、まっとうに評価される社会に!』

~障害者福祉事業所の収益性を高める支援と場づくり~

 

ゲスト:関原深さん
株式会社インサイト 代表取締役

プロフィール:

マーケティング・統計解析を専門とし、全社戦略・事業戦略・新規事業の立案及び実行を支援。前職の銀行系シンクタンクでは、経営コンサルタントとして、多種多様な業界・業態の大手企業から中堅・中小、国内外のベンチャー企業まで幅広くサポート。現在は、ビジネスセクターでのコンサルティング・ノウハウを活かして、障害者雇用、福祉施設(授産)向けのコンサルティングや厚生労働省、財団等の障害者に係る研究事業等を実施。

(社)日本マーケティング協会アドバイザー、(特非)edge常務理事をはじめ、多数の役職を兼務。

東日本大震災後、被災地の障害者福祉事業所の製品を全国で販売する仕組み「ミンナDEカオウヤ」を複数企業・団体と共に立ち上げ、現在も運営責任者として奔走中。

<今回のインタビューのポイント>(インタビュアー IIHOE川北)

 「1歩先の視野と半歩先のプログラム」が求められる市民活動や市民事業を支援する者は、手法を紹介したり、課題を指摘したりするだけでは、その役割を果たしたとは言えず、「2歩先の視野」からその活動や事業の対象の未来を見据え、「1.5歩先のプログラム」を用意して、活動者・事業者にとって使える基盤をつくり、提供することが求められる。

 障害者福祉事業所の収益性を高める支援を続けるうちに、東日本震災で被災した東北の事業所を支えるために、多様な人々が、継続的にかかわれるしくみをつくりだされた経緯と、その工夫のポイントを、ぜひ学んでいただきたい。


“障がい×付加価値”で工賃を向上させる

 障がいを持つ人たちの月額工賃は、平均約13,000円(厚生労働省によると2011年度実績で13,586円)。これとは別に社会保険として受け取る障害者年金が、重度の人で月額8万円から9万円、軽度の人だと6万円から7万円程度。仮に一定レベルの生活水準で生活費を月10万円と見積もると、少なくともあと1万~3万円は足りないわけです。

そういう中での月額工賃が約13,000円。これはそもそも、1人の人間として生活する水準には足りてないということです。

工賃を増やすには、製作・販売している商品の売上を伸ばすしかない。そこにマーケティングの発想を入れて、利益を残せる商売をサポートしていこう、というのが私たち(株)インサイトの仕事です。

多くの福祉施設の事業が拡大できない最も大きな理由は、企画や生産から販売までバリューチェーン全体をやってしまっていること。自分たちで仕入れて加工しそれを販売する、それも本来の支援業務をしながら実施しなければならない。一般企業と比べたら厳しい戦いとなる。そこに「障がいを持つ人の福祉的事業である」という特性をつけたとしても、競争の中で勝ち抜くことは難しいでしょう。それだけでは足りないんです。たとえば、(愛知県豊橋市のラ・バルカが信州大学病院でカフェを開設する際に)タリーズなどのフランチャイズチェーンの「ブランド力」を使うなど、何らかの付加価値と「障がい」を組み合わせる視点が必要です。

 
ミンナDEカオウヤ、みんなで売ろうや!

 こうした、従来からの問題が改めて顕在化したのが、東日本大震災の被災地にある福祉施設でした。通常、福祉施設の商品は、その施設の近所に住む方たちに販売することが多いので、地域一帯が被災している状況では当然、商品は売れなくなってしまいます。13,000円の工賃が0円になってしまう。震災で生き残っても、その後の生活再建のための収入がない。その状況をなんとかしないといけないと思い、「ミンナDEカオウヤ」のプロジェクトが立ちあがりました。

ミンナDEカオウヤ」は被災地の福祉施設の商品を日本全国で販売して、被災した障がい者の収入や福祉事業所の経営を支えるプロジェクトです。以前からつながりのあった福祉業界の方々に頼んで、被災地で授産品をつくる施設を紹介してもらい、そこの商品を買い付けました。受託販売ではなく、“買い付け”にしたのがポイントです。売れ残っても返さない、売り切る、という覚悟です。しかし立ち上げ当時、インサイトの社員は私ともう一人の男性の二人だけ。だから私たち二人で売るのではなく、“みなさんに売っていただく”という事業モデルを考えました。みんなに売ってもらうための販売のシステム、プラットフォームをつくろう、と。

 たとえば、ある福祉施設の商品を販売しようとする場合、まず問い合わせをして、発注して、商品を受け取り、販売して仕入金を振り込む。福祉施設の側からすれば、受注→発送→請求と代金回収の事務を、発注先の数だけやらなければならないわけです。事務に慣れている施設はあまりありませんから、これだけでも大変です。

そこで我々は、販売の受発注や請求、回収代行だけに特化したシステムを作りました。それがあれば、発注者にとっても、複数の事業所のたくさんの商品を買い付けたい時に便利ですし、受注する福祉施設にとっても大幅な事務負担の軽減になる。それをもし、別々にやった場合には、銀行の振込手数料だけでもたいへんな金額になってしまいます。その手間を省くシステムを我々が提供し、1回5,250円のシステム利用料だけ利用者からいただいています。

さらに幸運なことに、積水ハウス(株)さんに梅田のオフィスビルの中にある店舗スペースを当初3か月間は無償で、その後も特別価格で提供していただき、自分たちで常設の販売拠点を持ち、販売員を配置して売る、というしくみもできました。

販売員の多くは被災地でボランティアを経験した学生たち。有償ボランティアという立場でたくさんの若者に関わってもらうことができました。販売員をつけて常に売る体制を持っている被災地商品はなかなかないので、被災地の福祉施設以外の商品の販売代行もやっています。

もちろん、被災地支援等のイベント店舗での販売もしています。自分たちが直接出店する場合はほとんどなく、実際は様々な企業や団体による販売代行です。私たちのシステムを使って販売したい商品を選んでいただき、販売時に面倒な、アイテムの商品名や価格札、紹介文なども全部リスト化し、ポップをつくってWEBでダウンロードできるようにしています。セールストークのための文書も提供しています。こうした結果、2013年3月末時点での累計売上高は6,957万円になり、商品を仕入れている福祉事業所は66事業所、商品数は365アイテムにまで増え、イベント出展実績も494ヶ所になりました。これは現地の工賃に換算すると、1,000~1,400人に月2,000円の工賃向上効果があった計算になります。

 周囲を巻き込んで大きな流れをつくる

自分がこれまでやってきたことは、「どう巻き込むか」、「どうやったら周囲を巻き込みながら大きな流れを作り出せるか」ということに集約できると思います。どう顧客を巻き込むか、どう社会を巻き込むか。その“流れ”を作り出すには一定の法則があります。最初は小さなゆらぎ。その状態を「創発」と言いますが、個々が一定の規則に基づいて自発的に活動している状態。そういう小さな創発がいくつも起きると、お互いに共鳴して大きな流れができてきます。大きな流れができると、そのメインストリームに周りは巻き込まれて流れが加速する。そうやって大きな変化が起こっていきます。

大切なのは、最初の「創発」を確実に起こすこと。そのためには、まず徹底した議論を行い、流入してくる情報や事象を受け止めること。そしてその議論の中で生まれたアイデアを必ず試してみること。さらにその時の失敗を振り返って考えること。そうすることで自分自身の流れを作り出すことができます。私は、「志」レベルを同じくする者同士が、自分の流れをつくって創発し、立場の垣根を越えて共鳴し合うことで、大きな流れができると信じています。ミンナDEカオウヤのプロジェクトがここまで大きくなったのも、たくさんの創発が共鳴した結果です。仲間と連携し、巻き込みながら大きなうねり、社会変革を生み出すこと。これからもその流れを作るために「どう巻き込むか」を考え続けていきます。

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