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2016.08.18 UPDATE

社会事業家の先輩にビジネスモデルを学ぶ!
社会事業家100人インタビュー第48回
2016年7月18日(月)18:00~20:30
於 国立オリンピック記念青少年総合センター
ゲスト 一般社団法人りぷらす 代表理事 橋本大吾さん

橋本大吾氏②

 

<プロフィール>

理学療法士。茨城県鹿嶋市出身。2011年、東日本大震災直後にリハビリテーション専門職による被災者支援団体を設立し、石巻市での活動を開始し、同年同市に移住。2013年1月「一般社団法人りぷらす」設立。「子供から高齢者まで病気や障がいの有無にかかわらず地域で健康的に生活し続ける事が出来る社会を創造する」を理念に活動。2014年1月リバイブジャパンカップ復興ビジネスベンチャー部門審査員応援賞受賞。

 

<今回のインタビューのポイント>(川北)

高齢者を対象とする取り組みのほとんどは、介護保険制度の創設以降、その枠内にとどまってしまっている。しかし本来なら、高齢者のくらしをより良いものとする、生活品質を高めるために、体力の回復や要介護度を下げるといった取り組みの方が、さらに意義も重要度も高い。このように、重要なのに担い手がいない課題に、被災地で取り組まれてきた経過と今後の展開について、しっかり伺いたい。

 

被災者支援活動を契機に石巻で起業

元々は理学療法士として関東地方で働いていましたが、東日本大震災の直後に災害支援団体を立ち上げて、被災者のリハビリテーション支援を始めました。
病院が被災し医療機関が0になった地区の担当で、仮設住宅に住む被災者や在宅に住む、主に高齢の方を中心にリハビリテーション支援を行っていました。
その地区の高齢化率は44%と、全国平均の30年くらい先、石巻市の平均からも20年先の姿です。仮設住宅から復興公営住宅に移る人がいらっしゃったりするなど、時の経過とともにコミュニティの在り方も変化している地域です。
起業しようと思ったきっかけは、ある高齢者の方が亡くなられたことでした。その方は、被災されるまでは70歳を超えてもとても元気な方でしたが、震災後に閉じこもりがちになり、足腰が弱り、ついには誤嚥性肺炎で亡くなられました。介護支援も受けていたのですが、この地域はリハビリテーションの専門家がおらず、また現状の介護支援は「改善」に重きが置かれていません。そんな人材格差や介護の在り方に疑問があり、自分が必要だと思う介護サービスを実現するために起業しました。

 

改善と予防を実現する介護事業を創る

始めたかったのは、改善と予防を実現する介護事業です。
現状の介護サービスは、介護が必要となってしまった人の対応をするための制度になっており、予防や改善ができるしくみになっていません。その状況を変えるためには、高齢者の方々が気軽に相談できる場づくりが必要だと考えました。
しかし現状の介護保険制度は、介護事業者にとって、利用者の生活を改善させていくことへのインセンティブが働かない、要介護度が高いほど報酬単価が高くなるしくみになっているため、利用者が改善していくことに財務上メリットを出せないのです。そんな状況を変えたいと思い、予防と改善のための事業を2013年から始めました。
これまで、りぷらすが運営するリハビリ特化型デイサービスでは、利用者の75%が改善につながっています。
改善効果を得る・高めるためには、まず当人の目的意識が重要ですが、サービス提供側の体制としては、効果だけでなく、効率とのバランスが重要です。介護は画一的にはできないものの、固有なものをいかに一般化していくかという視点も重要です。一般化することで、一定のレベルまで確保できるようしくみとして保障しつつ、効果をさらに高めるために個別的な要素を後で増やす工夫をします。
りぷらすのデイサービスは、高齢者だけでなく、障碍者の方も受け入れているのが、特徴のひとつです。視覚と聴覚に障害碍がある子どもが、高齢者とふれあいを通じて笑うようになるなど、さまざまな人がそれぞれの役割を果たすコミュニティが生まれています。

 

おたからサポーターとともに、地域の健康を支える

介護事業を行う事業者にとって、介護保険が適用される以外のサービスをどれだけ生み出せるかが、本来はとても重要です。このためりぷらすでは、介護だけでなく予防や改善に力を入れ、さらに、地域の健康増進にも力を入れています。
地域の健康増進事業としては、おたからサポーター(「おたがいさまカラダづくりサポーター」の略です)養成講座を行っています。地域住民から希望者を募って健康サポーターとして育成し、地域の集会所等で体操教室を開催していただいています。地域住民が講座を通じてカラダのしくみと体操の方法などを学び、参加者と一緒に体操を行いながら、自分自身と地域の健康を守る取り組みです。
2014年9月の開始以来、健康サポーターはこれまでに60名程度に達し、毎月12か所で体操教室が開催され、月間150名程度が参加してくださっています。
健康サポーターになるためには、12時間の講座を受講するとともに、4時間の現場研修にも参加し、教室の運営に参加していただく必要があります。3級から1級までの3段階を設けて、ステップアップしてもらえるしくみも用意しています。地域の健康の担い手になりたい方や、「震災時は世話になったので、今度は自分が貢献したい」という方が担い手になってくれています。毎年60名のサポーターを育成し2018年には月30カ所以上の地域で、体操教室を実施する予定で、事業を進めています。
現在は、りぷらすのスタッフが全体の運営を行っており、健康サポーター養成講座の受講料としてお一人3,000円いただいていますが、これを事業としてどう成り立たせていくのか。あるいは、ボランティアでやり続けるのか、模索を続けています。その反面で、増え続ける体操教室のニーズに対して健康サポーターの養成が追い付いていないことも課題です。
今後は、このしくみを他の地域にも移転していきたいと考えています。

りぷらす図②

被災地から、日本全体の新しい介護モデルを模索する

りぷらすの主な事業収入源は、介護報酬、障害者福祉施設報酬、おたからサポーター養成講座の受講費、公的・民間の助成金です。これまでりぷらすにとって事業が強みで、事業収益を増やそうときたことから、寄付金獲得は積極的には行っていませんでした。
しかし今日では、企業との協働プロジェクトも行っています。
デイサービスは今後、減っていく方向だと考えられるため、いかに新しい事業を生み出していけるかを重視しています。

日本全体では今後、高齢者は激増します。2012年と2025年を比較すると、埼玉県では58万人から117万人と2倍に、東京都では123万人から197万人へと1.6倍に、首都圏でも高齢者は増えます。
認知症の高齢者は全国で462万人から730万人に、高齢者世帯の全世帯に占める割合は2010年の20%から25.7%になります。
これに伴い社会保障費は増加します。2012年時点で既に約110兆円の社会保障費のうち40%は借金でまかなわれています。公的保険サービスはより重度な要介護者にシフトしていかないと制度が継続できなくなっており、軽度な方は、地域で支えなければなりません。
そのためには、地域で健康を支えるしくみが必要ですし、仕事をしながら家族の介護をしなければならない人も増加するので、それを支えるしくみが必要です。
地域互助のしくみが薄い首都圏だからこそ、そのしくみの必要性は高く、りぷらすが石巻で培ったノウハウを、いかに他の地域にも展開できるかに力を入れていきたいです。

りぷらすでは、介護報酬を増やすことではなく、利用者の状況が改善することで、どれだけ社会保障費を削減できたかを重視しています。社会的インパクト評価の指標を取り入れることも考えています。
専門職に頼るということは、税金を使うということを意味しています。自らで判断し、住民どうしで健康を支え合うようになれば、社会的な費用を削減していくことができるはずです。

(文責 伊藤)

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