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2017.11.06 UPDATE

社会事業家100人インタビュー第54回
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2017年10月19日(木)19:00~21:00 於:日本財団

(特)国際自然大学校 理事・アドバイザー 桜井義維英さん

桜井さん写真

 

桜井義維英さんは、83年に国際自然大学校(以下NOTS)を佐藤初雄さん(同会理事長)とともに立ち上げ、自然体験活動推進協議会(以下CONE)の設立(2000年)・運営に尽力されるなど、自然体験活動にかかわる人なら、なんらかの機会に必ずお世話になっているキーパーソンです。さまざまな組織でのご経験・ネットワークを基に、現在は、「すべての子どもが継続的に享受できる社会教育のしくみづくり」をめざして、個人としても日々汗を流しておられます。

今回のインタビューでは、まず、新たな組織やしくみの必要性に思い至った経緯を共有いただき、その実現に向けて、どのように信頼を積み重ね、制度や資源を活用するかなどについて、豊富なご経験の一端に触れました。

 

<今回のインタビューのポイント>(川北)

日本の自然体験活動が、個別団体の活動だけにとどまらず、「業界」として互いに連携できているのは、ひとえに桜井さんのお力によると言っても過言ではない。ご自身が所属される組織でも、また、個性的なリーダー揃いの他団体とともに進めるプロジェクトにおいても、常に要の「大番頭」役を担い続けてこられた桜井さんから、事業を束で育てる座組みについて学んでほしい。

 

自然学校は賞味期限切れ?

佐藤初雄さんとともに、NOTSを30年以上引っ張ってきたので、新しいことを個人的に始めようとしても、どうしても「NOTSの桜井が…」と言われてしまいます。そこで、2016年からフリーになりました。どこからもお給料はもらいませんが、自然体験活動業界からの引退ではありません。

いろいろなタイプの自然学校の立ち上げや運営に長らくかかわってきて思うのは、自然学校はもう「賞味期限切れ」だということです。自分たちがやりたい場所で好きな時に活動しているだけでは、とても生き残ってはいけません。特に東日本大震災以降は、地域おこし・活性化の担い手として注目されており、状況を踏まえて、事業や活動をデザインしなおす必要が出てきました。先をしっかり見て、進めていけば大丈夫。自然学校のスタッフは、個々人の持つスキルによって、地域の中核的な人材になる可能性を秘めています。

自然学校は全国に公称(注:調査に基づく最広義で)3000か所、しかし実質は300か所と言われます。安定した運営が成り立っている団体がそれだけ少ないということです。カリスマ的な創立者が引退したとたん、団体存続の危機を迎えるケースも多いのですが、だからといって突然活動をやめてしまうと、そこに来ていた子どもたちが行き場を失います。すでに、かつての参加者の子どもたちが来る時代に入っていますから、それはまるで母校の小学校がなくなってしまうようなものでしょう。そこでNOTSでは、そういった自然学校を実質的に吸収合併し、ブランドは残したまま活動を継続させることも積極的に手掛けています。スタッフを派遣して運営を改善したり、共通する事務を統合したりするなど、できることはいろいろあります。

 

番頭を育成し、組織基盤を安定させる

団体には、カリスマ的なトップだけでなく、番頭の存在が欠かせません。言うなれば「トップを狙わない二番手」です。NOTSは、大学の同級生である佐藤さんが校長、私が副校長というポジションを決めた時から、佐藤さんには敬語で話すようにし、団体内外に2人の立ち位置をはっきり示しました。「トップの寝首を掻かない番頭」がいるからこそ、組織基盤は安定します。しかし、トップの決断に無条件ですべて従うということではありません。重要な事項は、まずトップと番頭でしっかり共有・議論し、意思決定を統一すべきです。

ですから、議論も徹底的にしました。部屋から漏れてくる、佐藤さんと私の議論の声を聞いて、ボランティアの学生に「桜井さんは、佐藤さんと仲悪いんですか?」と聞かれたこともありました。そうではなく、佐藤さんの意思をできるだけ正確につかむためには、そういう議論は遠慮なくしなくてはならなかったのです。そしてきちんと納得したうえで、職員に対して、その方法論や、事業化を伝えていったのです。

自分がやってきたことを次世代に引き継ぐため、番頭を育成するための私塾「走林社中」を今年からスタートしています(注1)。7~8名限定の1年間のプログラムで、ブログ購読による遠隔参加も可能です。これまでの私の経験を1から10までなぞっていては時間がかかりすぎるため、私が現在直面している課題や問題意識について、一緒に考えていくスタイルにしています。

 

(注1)「走林」は、桜井さんのキャンプネーム。

 

囲い込まず、大きな目的のもとに協力体制を築く

個々の団体でできることは限られているので、(注:静的なネットワーキングではなく、動的な)ワーキングネットとして、業界としての存在感や協力体制をつくることも大切です。自然体験分野では現在、CONEと日本アウトドアネットワーク(以下JON)の2つがありますが、指導者・参加者の供給の観点からも、官民で分けず、将来的にはひとつのネットワークに作り直した方がいいと考えています。

ネットワークに加盟する団体の考え方や求めるものが異なるのは当然で、JONは「登りたい山は同じだから、道が違っても認めあおう」という緩いスタイルです。たとえば、自然を守れという団体とキャンプファイヤーをする自然学校とは、本来相容れないはずですが、大きな目的(注2)で合意しているのです。CONEは、「5つの憲章」(注3)への賛同が条件になっています。

 

(注2)「目的」(団体ウェブサイトより抜粋)

「アウトドアにおける諸活動の普及と振興を図ると共に、社員相互の情報交換をもって、日本の国内のみならず、広く世界各国の方々との交流を通じて、平和で、自立した豊かな社会を築く人づくり、町づくり、持続可能な地域環境づくり、そしてグローバルな人材の育成に寄与することを目的としています。」

 

(注3)「5つの憲章」(団体ウェブサイトより抜粋)

一、 自然体験活動は、

自然のなかで遊び学び、感動するよろこびを伝えます。

ニ、自然体験活動は、

自然への理解を深め、自然を大切にする気持ちを育てます。

三、自然体験活動は、

ゆたかな人間性、心のかよった人と人のつながりを創ります。

四、自然体験活動は、

人と自然が共存する文化・社会を創造します。

五、自然体験活動は、

自然の力と活動にともなう危険性を理解し、安全への意識を高めます。

 

家庭環境を問わず、一緒に自然体験活動に参加

自然体験活動は楽しいだけでなく、仲間と一緒に過ごす中で、たくましく生きる力を育むことができます。誰もが等しく活動に参加できるしくみを立ち上げたいのです。自然体験活動分野にも、貧困家庭の子どもたちだけを集めて実施する無料のプログラムはすでにありますが、私は、普通の家庭からも富裕層の家庭からも子どもたちが一緒に参加することが不可欠だと考えています。キャンプやスキーという非日常の体験を通して、友だちとしての力の貸し借りが自然に発生します。子どもの頃に生まれたこうした関係が続けば、将来、貧困から抜け出すチャンスに出逢う可能性も高まるからです。

貧困家庭の子どもたちの参加費と服や装備にかかる費用などは、寄付を募って充当したいと考えています。子どもはお互いの違いに敏感で、服装にはわかりやすく差が出てしまうので、些細なことのようですが、サポートが必要なのです。学校ではみんなユニクロを着ていても、富裕層の家庭の子どものようにキャンプ先でパタゴニアを着るのは無理。「お前、学校に行くのと同じカッコかよ?」と言われてしまいます。

 

親の不安を取り除き、期待に応える

また、自然体験活動に子どもを参加させるか、どこの自然学校に行かせるかを決めるのは、最終的には保護者ですから、情報の届け方が重要です。選びやすい・比べやすいように、情報を整理し、エリアごとにまとめて出さなければなりません。特に母親にとっては、子どもとの物理的な距離の問題が大きく、遠いところに行かせるのを躊躇するようです(母親の意識が突き抜けていれば、いきなり海外という選択肢もあるのですが)。

また、「自然学校に参加させれば、あなたのお子さんは将来、アウトドアのエキスパートになれます!」と言っても、響くはずがありません。危険な目に遭わせたくないし、将来アウトドア以外に何の役に立つのか、と逆に引かれてしまいます。安全であるのは当然として、学校教育以上の教育的効果を求められているのです。残念ながら、日本の自然体験活動業界は「こういうことを体験すると、将来こんな人になれますよ」といった、特別ではない普通の親たちを説得でき、子ども自身も憧れるようなロールモデルを示せていません。たとえば、米国では歴代の大統領をはじめ、社会で活躍し尊敬されている人たちにはボーイスカウト出身者が多数います。日本では、マスコミとタレントの巻き込みが必要です。

特に貧困家庭の親にとっては、まず子どもとの日々の生活(衣食住)に追われ、次に勉強、その次にスポーツ、その次にようやく自然体験活動への興味が来るか来ないか、といったところでしょう。その子どもにとって、長期的な観点から必要なもの・ことは何かを考え判断できる状況にはないわけで、ハードルを少しずつ低くするための、丁寧なアプローチとフォローが欠かせません。

私は、交通遺児育英会あしなが育英会にも勤務していたため、親を亡くした子どもたちや彼らを取り巻く環境の厳しさに触れる機会が多くありました。その子のせいではないのに、資金的に余裕がないという理由だけで、さまざまな機会への挑戦や興味を奪ってはならないと強く思っているのです。

 

企業や個人からの寄付を継続的に受けるために

企業の社会貢献として、寄付や協賛をつのるとしても、子どもたちが継続的に参加できるよう、多くの企業から支援し続けてもらえる枠組みを整えなければなりません。ある会社に寄付をお願いしに伺ったところ「株主に説明できない」と言われました。寄付先が信頼に値するのか、保証がないと無理ということでした。寄付を受けやすくするために、公益法人の設立(もしくはすでにある法人に受け皿になってもらう)が必要でしょう。

業界全体の人材育成の取組みの一環として、自然体験指導者個人の表彰は、昨年から「ジャパンアウトドアリーダーズアワード」(JOLA)をスタートしていますが、団体の評価制度は、これから委員会を立ち上げるところです。文部科学省の「こどもゆめ基金」などの助成は長くても3年間で終了してしまうので、民間の力だけで安定して実施できるよう計画中です。

 

小学校と自然学校の補完性を高めたい

現状日本では、小学校5年生全員が宿泊をともなう野外体験に参加することになっていますが、本当は、3~4年生に3泊4日くらいの日程で来てほしいです。受験などで忙しくなってしまう前に、血沸き肉躍る体験が存分にできれば、リピーターになってくれるかもしれないからです。その地が、いつでも帰ってこられる子どもたちの第2のふるさとになれば理想的です。ただ、引率する小学校の先生の負担を考えると、(アメリカのサマーキャンプのように)受け入れ施設のスタッフが責任もってすべて引き受けるシステムにしないとむずかしいでしょう。

反対に、田舎の子どもたちは、豊かな環境に囲まれていながら自然体験にそれほど興味を持たないという問題があります。実際、家と家の間が遠いので、家遊びが中心となってしまうのです。個々人の意識や習慣を変えるのはたいへんですが、自然学校のスタッフが地域に入り込めば、変えられる可能性があります。たとえば、地域のお祭りの日程を自然学校の活動に組み込んで、首都圏の子どもたちと一緒におみこしを担ぎ、交流できる機会にするなどです。

 

座組みは、教育と人脈から

これまでにない、大きなことを始めたいときには、セクターを超えて、これはという人に声がけし、新たなプロジェクト・チームをつくらなければなりません。いわゆる「座組み」ですが、あきらめず、あっためて、ずっと言い続けることです。こちらの企画をお話しして、その人に担ってほしいカード(食いついてくれるようなネタ)を示して、興味を示してくれたら、頼むのではなく役割を振ります。そして、やってもらいっぱなしではなくその後のフォローをこまめにします。政治家に対しても、陳情ではなく「一緒にしくみをつくりましょう」とアプローチします。

座組みを考えるとき、欠かせないのが人脈です。あしなが育英会のOB・OGには、政治家や企業の役員、官僚もいます。「これは!」という子にはあらかじめ目をつけておき、社会人になってもつながりを絶やさないようにしてきました。

あしなが育英会では、「将来稼げるようにするための教育」に積極的です。たとえば大学生の寮で、地域の名士や卒塾生等に講師をお願いして、定期的にセミナーを開催しています。社長が話せば、就職説明会になります。インターンシップにつなげることも可能でしょう。奨学金の返還率が高いのは、高校生の時から「目線を上げる」ための教育をしているからなのです。

奨学生は、厳しい環境に置かれていますから、「どうせがんばっても…」という負け犬根性に陥りがちです。そこで、貧困国でのスタディツアーでスラム街を見せて、自分たちがいかに恵まれているかを実感してもらったり、ハーバードやオックスフォードから大学生を呼び、寝食を共にするワークショップを実施したりしたこともあります。いずれも荒療治ですがインパクトがあり、3日間で奨学生の考え方は一気に変わります。自分が将来どうなるかだけではなく、世のため人のために何かしよう、そのためには今何をすればいいのか、と考えるようになるのです。

今考えている新しいしくみは、既存の団体やネットワークとも協働しながら、使える制度を活用しつつ整えていきます。それぞれのリソースや問題意識をこれからも共有し、継続的で垂直的な支援を一緒につくっていきましょう。

(文責:棟朝)

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