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2012.08.09 UPDATE

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

2『社会事業家100人インタビュー』

 

ゲスト:山本繁(やまもとしげる)さん

(特)NEWVERY理事長
日本中退予防研究所
所長

<プロフィール>

1978年東京都生まれ。1997年慶應義塾大学環境情報学部入学。

大学2年次に不動産投資商品の情報提供等を行う学生ベンチャーを設立。月450時間以上働いた結果、3年次以降は演劇活動に没頭。横浜市泉区民文化センターが主催した中学生・高校生のための演劇ワークショップのコーチを引き受けたのをきっかけに「教育の社会的価値」に気付く。

同大卒業(2002年)と同時に「若者たちが未来に希望を持てる社会を創る必要がある」と考え、NEWVERYの前身となる団体「コトバノアトリエ」を設立。約4年間のボランティアベースでの活動を経て、事業型NPOに組織転換。以後、ニートやひきこもりの若者しか入学できない「神保町小説アカデミー」や、ニートのためのインターネットラジオ局「オールニートニッポン」、漫画家志望の若者に格安で住居を提供する「トキワ荘プロジェクト」を立ち上げる。

活動を続ける中で「若者たちの社会的弱者への転落を予防できないか」と考え、09年3月には「日本中退予防研究所」を設立。複数の大学・専門学校で退学率抑制に関するアドバイザーを引き受ける他、書籍の発刊や勉強会の開催を通じてノウハウの普及に努めている。

また、2011年11月より、豊島区、NPO法人いけぶくろ大明との3者協働による若者向け社会教育センター「おとな大学」を開校。地域における新しい若者支援事業をデザインしている。

2012年7月より文部科学省高等教育局高等教育企画課高等教育政策室の専門調査官を兼務している。

 

<著書>

『やりたいことがないヤツは社会起業家になれ』(2009年、メディアファクトリー)

『人を助けて仕事を創る 社会起業家の教科書』(2010年、ティー・オーエンタテインメント)

 

<編著>

『中退白書2010 高等教育機関からの中退』(2010年、NEWVERY)

『中退予防戦略』(2011年、NEVERY)

『教学IRとエンロールメント・マネジメントの実践』(2012、NEWVERY)

(*上記3冊の書籍の詳細についてはこちら:http://jair.jp/pg135.html

 

今回のインタビューのポイント

・大きなモデルチェンジを恐れない

・事業として成り立つかどうかを冷静に判断する

・直接支援から予防へ

・当事者をとりまく環境・産業自体を変える

・聴く力をつけて他人の経験から学べ

 

ニートの若者の直接支援から予防へのモデルチェンジ

私は、ビジネスモデルを途中で大きく変えた。それまでやってきたことが、事業として成立しないことに、そして社会の問題を根本的に解決できないと気づいたからだ。

 2005年にNEC社会起業塾*1の特別メンバー、06年に正式メンバーとなって、ニートやひきこもり、不登校の経験のある若者の支援をするための事業計画に取り組んだ。当時やっていたのは、不登校やニートなどの若者のうち、表現をする仕事、クリエイティブな仕事をしたい人を対象とした事業だった。その中の一つが「神保町小説アカデミー」。雨宮処凛さんや本田武市さんといった小説家や編集者の方に顧問になっていただき、小説家やライターをめざす若者のための学校を立ち上げた。

その時はどれくらい若者に投資したら成果が出るのかわからなかったので、とにかくやってみようと思ってスタートした。授業料を1人29,400円で設定し、1年目に生徒が12人集まった。週2回のスクールと出版社への売り込みなどをやって、12人中4人がライターとして仕事をもらえるようになった。とことんやれば成果は出る。でも投資がかかりすぎた。国の予算などを使って、1人あたり年間100万円くらいもらえるのであれば事業として成立するが、ニートの若者支援を受益者負担でやるには限界がある。

さらに、不登校やひきこもり、ニートの若者の支援は、他の団体でもやっている。ならば自分はニートになってからの若者の支援をするのは、やめようと思った。ニートになるのを事前に防ぐ事業をしようと。

自分の分析では、ニートになる道は、大きく分けて①離職、②進路未決定、③退学の3つしかない。このうち、離職や進路指導は参入が難しい分野だったこと、そして若者の変容可能性と、事業として成り立つかどうかを考えた結果、「中途退学(中退)」を未然に防ぐことをビジネスモデルにしようと考えた。

事業モデルを考える過程では、たくさんの学校経営者に会って話を聞き、何に困っているのか、その困り事を解決するためにいくらなら払えるかを聞いて回った。その結果、大学・専門学校の中退を事業ドメインに置くことにした。

 私たちが実現したいのは、若者が未来に希望を持てる社会。後ろ向きになっている若者を前向きにすること。大学や専門学校を卒業して就職しても、1年以内に辞める若者の離職率は約15%。3年以内の離職は約3割。卒業後にニートになる若者も多い。仕事を辞めるかどうか、その後にどんな進路を描くかは、大学時代の経験や教育に影響されることが多い。大学の教育を変えること、そもそも中退したいと思われない大学環境をつくることで、卒業後のニートを減らし、後ろ向きの若者を前向きに変えていけるのではないかと考えた。こうして大きなモデルチェンジをしたのが08年だった。

 

 翌09年3月に、「日本中退予防研究所」を設立した。まずは中退の実態を調べ、現状と原因を知ろうと、大学・短大・専門学校の中退経験者101名にインタビューを行い、その結果を『中退白書2010』にまとめて発信した。

その後も中退率低減で成果を挙げている大学などを対象にした調査・研究を実施して『中退予防戦略』をまとめるなど、リサーチをして、その結果をセミナーや出版物で発信してきた。同時に、学校経営者・関係者向けにコンサルティングも実施するようになった。この短期間で大学向けのコンサルティングができるようになったのは、リサーチの過程でたくさんの情報を蓄積し、セミナーや営業、事業の相談を含めて、とにかくたくさんの学校経営者と会い、人的つながりを築いてきたからだ。何度も伺って、自分がやろうとしていることを話すうちに、「まずはうちの学校でやってみたら?」と声をかけていただくようになった。調べて、その概要を伝えて関心を高め、有償で報告会をやって、さらに知りたい人・経営者向けには個別の相談・研修を実施する。そういうしくみができた。現在は、4つの大学と1つの専門学校グループでコンサルティングを実施し、併せて大学教職員向けのセミナーも実施している。

しかし、あくまでもコンサルティングは研究開発の1つのツールだと思っている。コンサルティングを通じて、一つの学校に深く入っていくことで、その学校の課題や解決方法を見つけることができる。その方法を応用して、出版物等を通じて他の大学にも広げていく。そうやって伝えて広げていくことこそが、自分の本業だと思っている。

 

雇用を生み出し若者を育てる

日本中退予防研究所の一方で、(特)NEWVERYとして、プロの漫画家を目指す若者に、都内で低家賃の住宅(シェアハウス)を提供する「トキワ荘プロジェクト」も実施している。

NEWVERYのミッションである、「若者たちが未来に希望を持てる社会」の実現のためには、雇用を生み出すことと、若者(特に若手アーティスト)を育成することの二つの方法があると思っている。

マンガはマザーコンテンツと呼ばれ、いいマンガは小説や映画やドラマになるなど、大きな経済波及、雇用創出効果が見込める。文化産業は成長産業だ。しかし、漫画家の卵がプロとして自活できるようになるためには、大きな壁がある。漫画家を目指して上京した若者の多くは東京の高額な家賃を支払い、生活費のためにアルバイトに時間を費やし、漫画を描く時間がなくなってしまうことなどがネックになる。

そこで漫画家を目指す若者に低家賃の住宅を提供し、同じ夢を追う仲間とともに生活する場を提供すること、さらに仕事を斡旋しつつ、プロ漫画家・出版社等とネットワークを構築し、より高いレベルで切磋琢磨できる環境を提供しようと、「トキワ荘プロジェクト」を展開している。

 

現在は都内に21軒の一軒家を借りて118人の若手漫画家に住宅を提供しているが、最初の一軒は私の祖母の家を借りた。それが06年。07年からは3年間で350万円の助成金をいただいて運営してきたが、トキワ荘を増やすお金を稼ぐためにアルバイトもたくさんした。だいたい80万円から100万円貯まれば、一軒家を借りてトキワ荘プロジェクトの二軒目を始めることができる。そうやって働いて初期投資額を集め、5年目に八軒目を始めてから損益分岐点を超えて家賃収入で回せるようになった。

また、若手の育成に協力してくれるプロの漫画家や、出版社、ITベンチャー企業などとの関係をつくって講習会を実施したり、仕事の紹介もしている。入居している漫画家のキャリアアップを図るための様々な取組みをして、若手漫画家を育てる生態系づくりに取り組んでいるところだ。最近は、トキワ荘プロジェクトを他の地域でも展開したいという話があり、京都市では京都版のトキワ荘プロジェクトを開始する。コンテンツ制作とまちづくり、大学などでの人材育成なども一体になって、マンガクラスターのコーディネートを通じて、人材育成と産業振興が一体になった若者支援を構想しているができつつある。

 

「他人の経験から学ぶ」聴く力をつけたことがブレークスルーポイントだった

 ビジネスモデルをつくるのは、才能じゃない。

どんなにこだわりがあっても事業として成り立たないものは成り立たないし、とことんやればできるものもある。

自分は事業計画を立てる時点で、40回くらい人に会って、意見を聞いてきた。自分のこだわりも客観的に理解した上で、その人の言っていることを理解してちゃんと取り組めば、モデルは確実にブラッシュアップできる。「他人の経験から学ぶ」ということの大切さを教えられた。「自分が聞きたいことを聞く」のではなく、他人の話を「ちゃんと聞いて理解する」、聴く力を持つということ。たくさんの人に会い話を聞く中で、自分はそれができていない、ということに気がついた。それが自分にとってのブレークスルーポイント。自分ができていないことを認めて、余分なものをそぎ落とすことができた。自分は、ぎりぎりのタイミングでそれに気づくことができた。これからビジネスモデルを磨こうとする事業家にも、他人の経験から学ぶための「聴く力」をぜひつけて欲しいと思う。

 

注)*1「NEC社会起業塾」

(特)ETIC.とNEC(株)が連携して2002年から実施されている社会起業家を育成するプロジェクト。将来、社会を変える大きなインパクトを創出する可能性を持ったスタートアップ期の社会起業家を選抜し、成長・発展期へのステージアップに向け、組織を強化し、事業を加速させるための事業計画のブラッシュアップ等の様々な機会を提供している。2002年にNEC社会起業塾として開始後、地域・テーマ別に複数の社会起業塾イニシアティブが行われ、2012年度は、NEC社会起業塾、東海若手起業塾、横浜社会起業塾、花王社会起業塾などに展開されている。

 

(特)NEWVERY

日本中退予防研究所

トキワ荘プロジェクト

おとな大学

『やりたいことがないヤツは社会起業家になれ』

『人を助けて仕事を創る 社会起業家の教科書』

NEC社会起業塾

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