第1回:藤田和芳 代表理事
(株式会社大地を守る会 代表取締役社長)
かつて、「国家の品格」(藤原正彦著)という本がベストセラーになったことがあった。その本には、このようなことが書かれていた。
戦後、日本は市場経済原理を導入し、競争社会を受け入れてきた。他人を蹴落としてでも競争に勝ち抜いた者だけが幸せになれる。モノやお金がたくさんあれば、それだけ人は幸せになれるという考えで生きてきた。その結果、どうなっただろう。「なんと品格のない国になってしまったことか」と筆者は嘆いていたのである。
私は、国家だけではない、企業の品格も問われていると思った。企業の利益第一主義、ただ儲かればいいという考え方が問われ始めた。いかに社会に貢献するか、企業の社会的責任が問われる時代になってきたと思ったのである。
平成7年の阪神大震災のとき、日本全国から被災地の救援・支援に多くのボランティアが駆けつけ、その現象を見た学者が「ボランティア元年」と名付けたことがあった。一方、今回の東日本大震災の災害の規模は、阪神大震災の比ではなかった。政府や行政からの支援も、全国からの膨大なボランティアの力をもってしても、復興・復旧に弾みをつけることはできなかった。被災地の人々は「支援」だけではなく、生きていくための仕事を求めていたのである。ビジネスを通しての解決策が求められていた。そうした要望に応えるべく、多くの心ある企業が自らの本業を通して復興・復旧に関わっていった。その意味では、東日本大震災では「社会的企業元年」または「ソーシャルビジネス元年」とでも呼ぶべき現象が起こっていたのである。
東日本大震災と福島原発事故が、その後の日本の企業活動に微妙な影響を与え始めているのは確かである。復旧・復興が単に、流された道路、橋、港湾、堤防、を元通りに復活させればそれで済むという話ではない。まして、原発に頼るような社会を再び復活させてよいはずがない。そうしたものの反省の上に立って、新しい文明に向かう動きを作る必要があるのである。「社会的企業」「ソーシャルビジネス」に関わろうとする人々、経営者に私は大きな希望を感じている。