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【レポート】『社会事業家100人インタビュー』特定非営利活動法人人と動物の共生センター 理事長 奥田順之氏

2013.08.27

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

第18回社会事業家100人インタビュー×東海若手起業塾学び場[DOTENABE]

2013年8月6日(火)

~犬と飼い主のしつけを通じて殺処分問題に取り組む~

 

【ゲスト】

奥田順之さん
(特)人と動物の共生センター 理事長
ドッグ&オーナーズスクールONELife 代表

 

<ゲストプロフィール>

大学在学時から犬の殺処分問題解決を目的として学生団体を設立。殺処分問題を治療する獣医師として、2012年岐阜市内に犬と飼い主のしつけスクール「ONE Life」を開業。

“犬をしつける”のではなく、“人が学ぶ”ことで、愛犬と飼い主の間にある問題の糸を解き、愛犬と飼い主の信頼関係を築こう、とプログラムを多数実施。

飼い犬を外部の刺激に慣れさせることにより、犬のほえ癖やかみ癖をつきにくくし、問題行動を起こしにくくする、「犬の社会化」を訴えるポスター掲示や、子犬と飼い主が一緒に学ぶ「子犬の義務教育」を提唱するなど、人が動物と共に生活していく上で必要な情報やトレーニングの場を提供している。

殺処分という最悪の選択に至る前の段階での、愛犬と飼い主のコミュニケーションのサポートや、問題行動を起こさせないためのトレーニング、飼い主が果たすべき社会的責任についての啓発などを通じて殺処分問題に取り組んでいる。

 

<今回のインタビューのポイント>(インタビュアー IIHOE川北)

 

どんな課題に挑むときも、目の前の現象に対処するだけでなく、課題の全体像をつかみ、その多様な原因や背景を理解したうえで、対処療法にとどまらない、原因や背景の解消にまで踏み込んだ取り組みが求められる。

課題の全体像を把握すると、自分が、誰のために、どんな役割を果たせばよいかがわかる。

自分がしたいことではなく、社会に求められる役割を、自他ともに理解するためのアプローチを、ここから学んでいただきたい。

 

 

殺処分問題だけをみていても問題は解決しない

 

現在、日本では年間10万頭以上の犬が、保健所や動物保護団体に保護収容されています。私は、大学在学時から犬猫の殺処分問題解決を目的とした学生団体を設立し、小中学校への訪問授業や、ポスターやリーフレットの作成などの活動をしながら、獣医になりました。

 

殺処分にいたる背景には、①迷子もしくは遺棄、②引っ越しや入院などの飼い主の生活変化、③犬の問題行動、④犬の病気、⑤不用意な妊娠により子犬が産まれた、などがあります。飼育放棄は保健所への持ち込みだけでなく、保護団体あるいは知人に引き取ってもらう形での飼育放棄も存在します。近年は後者、特に保護団体への飼育放棄が目立つようになってきています。たとえば岐阜県内では、年間に新しく飼われる犬の数を100頭とすると、およそ10頭が迷子になり、そのうち3頭が飼い主の元に戻れずに保健所に保護されます。また、飼い主自身が飼育放棄する割合もおよそ10頭。そのうち知人に譲り渡されるのが2頭、保護団体に保護されるのが4頭、そして保健所に保護されるのが4頭ほどと見られます。迷子や野犬等を含め保健所に保護されたおよそ8頭のうち3頭が最終的に殺処分されている、とみることができます。

 

保護団体が里親探しの活動などを展開している結果、保健所に保護された犬の5分の3近くは新しい飼い主に引き取られますが、咬みつきなど攻撃的な問題行動のある場合や、高齢で病気がある場合などは、殺処分せざるを得ない犬も多数存在します。

 

最終的に殺処分される犬だけをみていても、問題は解決しません。殺処分に至る前の段階での問題を一つ一つ紐解いていく必要があります。一つは、飼い主が犬を飼えなくなる、という飼育放棄の問題。そしてもう一つが、飼えなくなった犬の処遇の問題。このうち後者は、保護団体として活動しているところがありますが、前者への対策はあまりとられていませんでした。

そこで自分は動物の行動学を専門とする獣医師として、飼い主の飼育放棄を予防する取り組みをしようと考えたのです。

 

犬をトレーニングするのではなく、飼い主が学ぶ

 

飼い主の引っ越しや犬の問題行動、繁殖、近所からの苦情など、犬を飼えなくなる事情にはさまざまな要因がありますが、その多くは、飼い主の意識や意欲次第では、決して乗り越えられない問題ではないはずです。

 

例えば迷子になる犬を減らすためには、名札をつける愛情があれば、たとえ迷子になったとしても見つかる可能性は高くなりますし、安易な繁殖を防いだり、犬を飼い続けることを前提とした引っ越し先を探すことなど、犬への愛着が強ければ防げる飼育放棄も多いはずです。飼い主の適切な知識、そして犬を飼うことへの正しい認識、飼い続けることへの意欲、これらの不足が全ての原因になっていると考えています。飼い主の方から見れば、そういった適切な情報を得る機会がないというのが大きな問題でした。そこで、飼い主を教育することの必要性を感じて、飼い主さんが学ぶためのドッグ&オーナーズスクール ONE Life を2012年に岐阜市で立ち上げました。

 

ONE Lifeでは、週1回1時間のレッスンに月謝制(14,000円~21,000円)で入会いただき、グループレッスンやプライベートレッスンを通じて、犬との適切な付き合い方、家庭犬トレーニング法を飼い主が学ぶ取り組みを行っています。

特に子犬については、社会化を重視したパピークラスを実施しています。犬の社会化とは、3~5か月の子犬が、知らない人や他の犬、車や生活音などさまざまな刺激に慣れることです。社会化は心の窓が開かれている子犬の早い時期にしかできませんが、社会化トレーニングをすることで、神経質でストレスに弱く、よく吠えたり噛んだりする犬になることを防ぎ、人や犬にフレンドリーで物怖じしない犬に育てることができます。

 

このトレーニングで重要なのは、この大切な時期に飼い主と犬との信頼関係を築くこと。甘やかすだけでも、叱るだけでもなくて、人と犬との関係を適切に育むために、何よりも飼い主が、犬への接し方を学ぶ必要があります。こうした教育を当スクールでは、犬と飼い主の「義務共育」と呼んでいますが、ペットショップと連携してこの義務共育を子犬とセットで提供するなど、共育の場づくりを進めています。

 

また、成犬向けのレッスンも実施して、犬の幼稚園クラスから小中学校、高校・大学クラス、そして問題行動改善クラスまで、さまざまな時間割を用意し、飼い主同士、犬同士が共に成長するコミュニティづくりにも努めています。レッスンの中ではウンチク講座として、犬の行動心理や習性に関する知識、飼い主としての心構えなどもお伝えするようにしています。その結果、現在では65組の飼い主とワンちゃんにレッスンに参加してもらっています。

 

 


投資意識の高い顧客から、投資意識の低い顧客へのアプローチへ

 

これまでONE Lifeで対象にしてきたのは、飼い犬に対してお金を払って投資する意識の高い層です。具体的には、子犬を飼っていてコミュニケーションのとり方に困っている、もしくは成犬で問題行動に悩んでいる飼い主など。しかし、「困っている」という自覚のない飼い主にはアプローチができていません。

 

犬を飼っている飼い主のうち、飼育放棄を起こす人は約1割と想定できますが、その背景には問題や、問題の原因となる素因を抱えた飼い主さんがいます。その中には、何が問題で飼い犬が吠えたり噛んだり逃げ出したりしているのかわからない人や、どこに相談していいかわからない人、ペットショップや獣医さんに相談しても解決できていない人がいると思います。

 

人が学校に行って友達や社会との関わり方を学ぶように、犬と人との関係にも、暮らしかたのルールをつくり、他人・他の犬との関わり方を学ぶ場が当たり前に存在していることが必要です。今の日本では、犬のトレーナーという存在は、飼い主から遠いところにあって、なかなか気軽に相談できる存在にはなっていません。犬のトレーナーという存在を飼い主のそばに寄せていく、ということ、そして病気やけがを治すだけでなく、人と犬との関係の改善のために動物病院が飼い主と動物の間に入っていくこと、そのための連携を強めたり、獣医師がより発信できる仕組みづくりなど、まだまだやらなければいけないことがたくさんあると感じています。

 

ひとつひとつの問題を手繰り寄せて、結果的に殺処分される犬を減らしていくことが自分の使命であり、人と動物が共に生活することで起こる社会的課題の解決を通じて、誰もが他者を思いやることのできる社会づくりに貢献していきたいと思います。

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