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【レポート】社会事業家100人インタビュー (特)3keys 代表理事 森山誉恵氏

2015.11.04

社会事業家100人インタビュー第43回 
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2015年10月21日(水)19時~21時
於:ETIC.ソーシャルベンチャー・ハビタット

ゲスト:森山誉恵さん 特定非営利活動法人3keys 代表理事

(特)3keys 森山誉恵氏

 
<プロフィール>
大学時代から子どもの教育・福祉にまつわる活動を続け、(特)3keysの代表理事として、虐待や貧困のもとで暮らす子どもたちや、児童養護施設などで保護されて暮らす子どもたちのサポートを行っている。東京都生活文化局主催「共助社会づくり検討会」の委員。現代ビジネスで「いつか親になるために」を連載中。
◇受賞・表彰歴
2011年社会貢献者表彰 社会貢献部門受賞/2011年ロハス大賞「ヒト」部門ノミネート/ウーマンオブザイヤー2014にて若手リーダーとして紹介/AERA「2020年 主役の50人」にて選出
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
あまりにも大きいニーズに対して、現段階での同会の働きかけは、質・量とも不足している状況。しかし、対象を明確に設定し、課題へのアクションを急速に積み重ねてきた結果、当事者がおかれている状況を明確に代弁できる力を持つようになってきた。自分たちが直接現場を運営するだけでなく、周りを巻き込んで動かす影響力をさらに高めるためにどのような取り組みが求められるか。現在進行形の事例としてお聞きいただきたい。
 
民間の立場から、社会的養護下にある子どもたちに手を差し伸べる
3keysは、親や家庭の状況(貧困、虐待、親自身の地域社会からの孤立など)によらず、すべての子どもたちが、社会から孤立することなく安心・安全に暮らしていけることをめざして活動しています。
いま日本では、「社会的養護」(乳児院・児童養護施設・情緒障害児短期治療施設・児童自立支援施設・母子生活支援施設・自立援助ホーム)のもとで暮らす子どもたちは全国に約5万人、東京都内には約4千人おり、18歳で施設を出てからも(注)、自立した生活を送るにはさまざまな困難が伴います。このような子どもたちを取りまく問題を改善するには、行政や各家庭に任せるには無理があり、民間の立場からの柔軟で継続的な取り組みがどうしても必要です。
ひとつの団体ができることには限りがありますが、3keysでは、施設入所中の子どもたちへの「学習支援」、親を頼れない子どもたちからの「相談受付」、子どもたちの現状を社会に伝え、一人ひとりがかかわる方法を伝える「啓発」という、3つの事業を行っています。常勤スタッフ2名、運営に関わるボランティアが約50名 活動にかかわる登録ボランティアが約250名という体制です。
(注)日本は諸外国と比べ里親委託率がたいへん低く、ほとんどの子どもは18歳まで施設を出られない。
 
一人ひとりの状況に寄り添い、継続的に学習を支援する
2011年から開始した学習支援事業は、施設に「学習支援ボランティア」を派遣して行う、主に中高生を対象とした個別指導です。2014年度は、都にある約100の施設のうち19施設で約120名の子どもが利用し、参加ボランティア数は約80名でした。
マンツーマンで継続的な指導を行う理由は、他の子と比較されることなく、その子の目的にそったきめ細やかな支援が可能だからです。大人がそばにいるだけで、落ち着いて勉強に取り組める子もいますし、本人も気づかなかった得意分野やつまずきやすい部分を発見できるメリットもあります。
施設は24時間体制の運営で、体力的にも精神的にもきつい業務のため、離職率が高く常に人手不足です。また施設に対しては、住民から偏見を持たれがちで、地域とのつながりが希薄なこともあります。このため、子どもたちの学習支援に取り組む余裕や、外部からの支援はほとんどありません。学校もまた、教師は常に業務過多で、一人ひとりの生徒に向き合う時間はないのが現実。結果、子どもたちの学習の遅れや悩みは放置されざるを得ません。
このような状況下で、施設のこどもたちは、両親や職員、教師のような大人に対してどこか距離を置いてしまうことが多く、本当は高校や大学に行きたくても自分が言ったら笑われる・怒られると思ったり、わからないことをわからないと表明できないまま学年を重ね、あっという間に自力では勉強の遅れを取り戻せない状態になってしまうことも少なくありません。
学習支援を希望する子どもと施設と3keysは、最初の面談で覚書を交わし、「いつまでに何を目的としてどんな学習をするのか」を確認しあいます。学習の目的は、日ごろの学習サポートや受験、高卒認定試験対策や高校再入学・卒業のための勉強、外国籍の子どもの日本語学習、公務員試験対策までさまざまです。
 
ボランティアがボランティアを統括する
学習支援ボランティアを希望する人には、まず登録会に参加してもらいます。登録後の研修では、教え方の技術をお伝えするのではなく、私たちと子どもたちのおかれている環境とのギャップを知ってもらうことに重点をおいています。また、ケーススタディーで指導のイメージをつかんでもらいます。その後、その方のボランティア上の条件や技能などと子どものマッチングが完了したら派遣、という流れです。
相性という観点では、たとえば、兄弟差別を受けていた子は年の近い大人が苦手、祖父母から虐待を受けていた子は年の離れた大人が苦手など、子どもの背景や年齢によっても変わってきます。また、子どもと相性がよいからといって必ずしもいいわけでもなく、仲がよすぎても、子どもから依存されてしまったり、ボランティアもそれに応えようと頑張りすぎてしまう危険性等もはらんでいます。
ボランティア期間中は、お互いの意見交換や悩み共有の機会を設けています。また、報告書を毎週提出していただきますが、何か問題が起こると、提出されなくなったり、逆に思いがこもりすぎた長い文になったりするなどの兆候が見られます。そんな時は早めに面談し、施設にも確認するなどの対策をとっています。
ただ、週1回の支援では大幅な学習の遅れを取り戻すのは難しいこと、施設からのニーズは非常に大きいにもかかわらず、実際に支援できているのはわずかな子どもたちのみであること、生活や心の安定を保てるような支援を並行して行わないと学習支援の成果が出にくいこと、などの課題は認識しています。
 
子どもから直接相談を受け、解決にむけたサポートを行う
近年報道にもあるように、貧困や虐待といった家庭の問題は、世代を超えて連鎖する傾向がみられ、子どもが抱える問題の背景には、複数の原因が絡んでいることもよくあります。親に頼れない子どもたちは、虐待・学習の遅れ・望まない妊娠や売春、借金・麻薬などさまざまなトラブルに巻き込まれる可能性が高いです。そこで3keysでは、2014年から子どもたちが直接相談できる窓口を設け、問題解決に向けた情報提供のほか、関連した専門機関への橋渡しを行っています。
面談・電話よりも、メールでのコミュニケーションが圧倒的に多い(約1700件)のが特徴です。何回も何回もショートメールが届いたり、深夜に電話があったりなど、相談対応体制や支援ボリュームの想定が困難で、現段階では1件ごとの対応となっていますが、今後は、もっと迅速に対応できる体制や仕組みづくりが必要だと感じています。ただ、相談の多くは、すでに支援できる団体があるのに知らないだけということもわかってきました。このため、今後は支援団体の情報を集約して共有し、ウェブサイト上でも公開したいと考えています。複数機関で継続的な支援が必要な深刻なケースは、その都度専門家の協力を得たり、議論したりしています。
 
まずは、身近な子どもとかかわりを深めてほしい
3keysでの活動を始めてから、子どもたちのおかれている状況を社会に発信し、積極的な支援をお願いする重要性に気づきました。2013年度からは、企業や自治体での研修・講演依頼、原稿執筆等を積極的にお受けしています。これがきっかけとなって3keysへの寄付を継続してくださる個人の方や、社員ボランティア・プログラムとして採用してくださる企業もでてきました。特に外資系企業は、平日の業務時間内にも取り組んでいただけることがあり、不登校支援や放課後の活動にかかわってもらいやすいので、ありがたく感じています。個人のボランティアを束ねるのはたいへんなことも少なくないですが、企業の場合、共通言語やルールがあるのでスムーズで助かります。
研修・講演では、もし「子どもたちのために何かしたい」と思ってくださるなら、親戚の子の相談相手になるなど、まずは身近な子どもとかかわってください、と強くお願いしています。多様な立場・世代が関与する環境が子どもを育てるからです。子ども関係のボランティア活動を希望される方で、まだ不安が多い方には、3keysでのボランティアは特殊な環境で育った子どもたちへのサポートで、かなりハードルが高い活動だと思うので、最初は、プレーパークやキャンプなどの活動を行う団体のボランティアをお勧めしています。「Yahoo!ボランティア」や東京ボランティア・市民活動センターの「ボラ市民ウェブ」で、「子ども・ボランティア」をキーワード検索する等で見つけることもできます。もちろん、そのような団体への寄付・募金、活動への参加も立派な支援です。
特定非営利活動法人3keys 図
 
予防的な取り組みにむけて、徐々に立ち位置を変えていく
大学2年生のときに周りの人に声をかけたりインターネットで募集したりして、任意団体3keysを立ち上げ、6つの施設に飛び込み営業してスタートさせた活動ですが、やればやるほど「できていないことの大きさ」に気付かされます。専門家や行政だけでなく、近年増えてきた民間他団体との連携も必須なのですが、団体の代表者はそれぞれの思いが強く、ちょっとした違いで折り合えないことがあり、がっちり協働するのはなかなかむずかしいこともあります。
地域のつながりが希薄になり、隣家で虐待や殺人があっても気づかれなかったり、という世の中です。昔は地域でボランタリーに担われていた「子どもの育成」は、有償の仕事や市民活動にだんだんと置き換えられてきています。持続可能性がない、サービスを提供する人・される人の単純分化を防ぐためにも、川北さんのいう「子どもの時から周りの人たちとかかわりを深め、周りの人の力をポジティブに引き出す力」をはぐくむような予防的な取り組みを視野に入れ、将来的には、子どもと接する人の育成や、公教育改善の提言にも取り組んでいけたらと考えています。
(文責:棟朝)

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