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【レポート】第45回 社会事業家100人インタビュー:(特)!-style(エクスクラメーション・スタイル) 元理事長  吉野智和氏

2016.07.07

社会事業家の先輩にビジネスモデルを学ぶ!
社会事業家100人インタビュー 第45回

(特)!-style(エクスクラメーション・スタイル) 元理事長
久遠チョコレート プロジェクト推進リーダー
吉野智和さん

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<プロフィール>

1976年京都府出身。97年京都YMCA国際ビジネス専門学校(現:京都YMCA国際福祉専 門学校)卒業後、京都市内の知的障碍者通所授産施設で10年間勤務。同時期に「デザイン で変える福祉」をキーワードに、施設で作られる商品デザイン向上や、他施設に対してのデザインの提供等の活動を開始する。2002年に、田中純輔さんとともに、ビジネスと福祉の融合を目指したプロジェクト「!-style」を開始。06年に(特)!-style設立、副理事長・統括マネジャーに就任。07年に障害者就労移行支援事業「!-factory」を開設し、マネジャー(施設長) に就任。久遠(クオン)チョコレート 西日本統括リーダー 兼 プロジェクト推進リーダー。
 
<川北からのコメント>
「!-style」のすごさは、なんといってもそのデザインの豊かさとかっこよさ。その背景にある障碍当時者の仕事力を見抜いて、サービスや製品にする力。吉野さんがデザインしているのは、商品のパッケージではなく、「仕事力」のパッケージ。その本質を感じて欲しい。
 
 

ビジネスと福祉を融合させ、障碍者の人たちの仕事力を社会に売る

 
デザインの力で福祉を変える
 
福祉作業所で障碍者がつくる商品を、バザーではなく、一般的な市場で売っていくために、デザイン性に優れた製品を開発しようと、2002年に「!-style」(「エクスクラメーション・スタイル」)プロジェクトを立ち上げました。06年に法人化し、翌年に障害者就労移行支援事業「!-factory」を開設しました。デザイン性の高い雑貨・食材などを企画・開発し、大手企業や飲食店などへの卸・販売を手掛け、福祉とビジネスを結びつけるモデルで、10年にはグッドデザイン賞(パブリックコミュニケーション部門)を受賞しました。
デザインの力で障碍者の作る商品を売っていこうと打ち出した頃、デザイナーの方に「君たち健常者ではなく、障碍者がデザインすることに価値がある」と言われました。しかし、本当にそうでしょうか。障碍者アートには障碍者の自己表現としての役割があり、一部の人には確かにアートの才能があります。そして、障碍者の「仕事力」は、世間で認知されているほど低くはありません。ただ、健常者の生産力を10とすれば、障碍者の生産性は4〜6割程度なのは事実です。今の社会は10でなければ生産力と認められず、0と見なされてしまいます。それでも、6は6であって0ではない訳で、デザインの概念や力を福祉作業所の製品に投入し、販売のプロが売ることで、彼らの仕事力を社会に正しく伝えたいという想いで、障碍のある人の働く場を支援する活動をしています。
最初は、食器を作っていた福祉作業所で、雑貨をつくりました。同じ陶器を素材にしても、見せ方を変えることで価値が変わります。一般市場で取り扱ってもらうために、「東京インターナショナル・ギフト・ショー」に出展することを目標にしたところ、3年目には達成しました。
京都の福祉作業所では「刺し子」を扱っているところは多いのですが、一般的には、小さな布に細かい模様を刺して製品にします。製作期間1週間かけても、バザーで販売すると500円程です。製作者の1週間分の仕事力を数百円で売ってしまう、こんなバカな話はありません。そこで「!-style」では、小さな布ではなくTシャツに、現代的でシンプル模様にデザインを変えて、「刺し子Tシャツ」をつくりました。刺し子Tシャツは、アイドルがMCを務めるテレビ番組にゲストで出たアーティストのバックバンド・メンバーに着てもらえ、テレビに映ったという後日談があり、製作にあたっていた障碍者に大きな喜びをもたらしました。製品が社会とつながっているからこそ、得られた経験です。
 
価値を変えるだけでなく、売り場・見せ方・数量を変えてみる
「滋賀のPARCOで1か月間の期間限定店舗を持たないか」という話もきました。いくつかの障碍者福祉施設の商品を展示したところ、NHKの取材が入るなど注目が集まり、好評だったため、次は、大阪の一等地にあるLOFTからシャワー効果を狙った催事イベントを依頼されました。今度は日本全国の福祉施設から商品を集めたところ、非常に迫力のある売り場となり、小売業界で話題になりました。それを聞きつけた(特)ピープルデザイン研究所の須藤シンジさんから、渋谷のPARCO前で1日だけ商品販売するよう声がかったのです。渋谷の人通りを前に、私たちは福祉作業所で通常行っている作業を一般の人向けにワークショップとして開催しました。そうすると、道行く人がほぼ100%立ち止まります。「何をやってるの?」「アート系の雑貨だって」と言う声が聞こえ、売り場が変わると見え方が変わり、一般の人の認識が変わるのだと実感しました。
デザインや売り場を変えることで、100円のものが1000円に価値を変えることもあれば、販売する数量を変えることで売り上げを増やす方法もあります。陶器で食器を作る代わりに、タイルを作って、建材として大量に使ってもらいました。また、福祉作業所の製品は、障碍者が単純な作業の積み重ねで作るので、作業の簡略化は重要なアプローチです。
フェリシモからハンコのパーツを依頼された仕事では、大きな気づきがありました。福祉作業所では0から100まで自分たちで作り、完成品を販売するのが普通ですが、しかし、企業はパーツを買って、パッケージを行って、彼らの商品にします。自分たちで完成品にしなくてもよいのだと気づき、本格的に企業とのコラボレーションに乗り出しました。
LUSHジャパンとはソープディッシュを作りました。2万個の注文をいただきましたが、私達の作業所で作れるのは2000個が限界です。自分達のような作業所が10か所あれば実現できると、全国の福祉施設を駆け回ってお願いしました。
また、福祉作業所では、原材料にコストをかけないよう、廃棄する素材をもらって商品を作ることも多いのですが、本当に無価値のものに価値を付けるのは大変です。例えば、みんなが興味を持つような、学校の机の天板を使った商品だと価値がでます。営利企業だと学校の廃棄物の譲渡を受けることは難しいのですが、そこは「福祉」を目的にしている施設なので、相性が良く、譲り受けることも可能でした。他の営利企業にはない「福祉」の強みをアピールし、OEMでこんな商品が作れますよと価値を提示することが、ビジネスでは大切です。
 
障碍のある人の「働く姿」をプレゼンしたい
「!-factory」では、陶器生産の他に、宇治市で雑貨の販売とレストランを併設する「restaurant & garden chou-cho」や、京都市御池通の和食ダイニング「丁子屋 〜Tyoujiya〜」をはじめとする飲食店に、半調理品を提供するキッチン代行業を行っています。私は仕事をしながら、時々、キッチンを眺めて、そこで障碍者が働いている風景に心を奪われます。大人数の障碍者が一心不乱に働いている姿は、かっこいいな、かわいいな、と思うのは、障碍者福祉に携わってきた私の贔屓目でしょうか。彼らはイチゴひとつ落としても、パニックを起こすほど真剣です。この姿を見れば、誰でもそう思うんじゃないか、と考え、11年に京都市三条に障碍者の就労支援事業所であるデリ・カフェ「!-foods」をオープンさせました。京都の建物の特徴そのままの細長い店舗で、あえて、障碍者が作業するとお互いにぶつかるような狭いキッチンにしました。常に迷惑をかけあうことに慣れることで、障碍のある人が苦手とされるコミュニケーション能力が鍛えられるからです。「!-foods」では、サブカルチャーについて語るイベントやライブを開催したり、生け花の教室やマルシェを開いたりして、常に地域の人でにぎわう場所になっていて、そこでは障碍者が自然に働いています。
また、地域活性を目的とした事業を活用し、14年4月、堀川商店街の中にオープンキッチン形式のカフェバー「KYOGOKUダイニング」を作りました。同じ枠組みで、15年1月にはダイニング兼チョコレートショップ「NEW STANDARD CHOCOLATE kyoto」をグランド・オープン。プロのショコラティエと障碍者の就労支援施設がタイアップでつくる高級ショコラ「久遠チョコレート」を全国に先駆けて生産し、取り扱う店舗になりました。チョコレートは付加価値の高い商品なので、障碍者の工賃向上も望めます。バレンタインデー直前には、女子小学生を対象にした・ワークショップなどを開催し、地域の子どもに特別な体験とともに、この町への愛着を深めてもらう働きかけをしています。チョコレートショップはオープン直後から、近隣の住民に愛される店舗となっています。将来的には、一流のパティシエの商品に私達のチョコレートを材料として使ってもらうことが目標です。
!-styleチャレンジのその先に次の課題が見える
私は、この10年、障碍者のつくる製品がおしゃれであること、デザイン性が高いことの効果を世の中に広めることを行ってきましたが、そのために生まれた弊害も痛感しています。おしゃれであること、デザイン性が高いことは、注目を集めますが、作り手の障碍者の生活を豊かに変えたでしょうか。世間の注目を集める程には、実は売り上げは増えません。障碍者の工賃はほとんど変わらず、デザインで注目を集めてしまったために、障碍者の「働く」を支援するはずの福祉の人たちの仕事が変質してしまうことも散見されます。
一般への販売は企業やプロに任せて、私たちは企業や販売のプロに求められる製品を、障碍者ができる範囲で、職人的に同じことを繰り返して作りたい。障碍のある人を頑張らせて、よりよい製品を作る考え方もありますが、障碍があるから出来ない事を訓練により出来るようにしようという考え方は、障碍のある人を健常者に近づけるような事でナンセンスだと思います。「!-style」は、デザインを変え、売り方を変えながらも、実は、障碍者の作業内容はほとんど変えていません。障碍があるからできないことは、できないままでよいのです。できるようになれと、追い詰めることは絶対にしないし、させません。仮に障碍者の工賃が上がったとして、彼らの幸福度は上がるでしょうか。上がった分の工賃で、障碍者が豊かな余暇を過ごせる環境は、まだまだ日本にはありません。そんな社会を変えること、障碍者の幸福な生活を支援することが、福祉に携わる者の仕事ではないかと考えます。
(文責:前川)

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