お知らせ
【レポート】『社会事業家100人インタビュー』特定非営利活動法人てっちりこ 代表理事 岡本勝光氏
「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」
第16回『社会事業家100人インタビュー』 特別編 (岡山開催)
~地域の資源を生かした地域経済のつくり方~
ゲスト:岡本勝光さん
特定非営利活動法人てっちりこ 代表理事
プロフィール
赤字の第三セクター会社の経営支援のために、40代後半に出身地の岡山県奥津地方にUターンした岡本さん。道の駅の開業をサポートし、開業3年連続で黒字決算を達成。その後、出身集落の大釣温泉周辺の景観と清流を守る環境保全活動を行うため、2004年に地元の仲間と特定非営利活動法人「てっちりこ」を設立されました。
「てっちりこ」では地域特有種の姫とうがらしの栽培と加工販売事業に着手し、研究者の協力を得て姫とうがらしの成分を徹底分析。特性を活かした姫とうがらしドレッシングや調味料が人気商品となり、地域で伝統的に続いてきた姫とうがらしの栽培・生産を守りながら地域の雇用を創出。重量作物が育てられない地域の高齢者の仕事づくりになっています。
また、事業収益で郵便や宅配便が満足に届かない地域の配達代行や奥津渓谷の環境保全活動などにあて、地域の資源を生かしながら地域内の経済循環をつくり、中山間地域の地域活性化に取り組まれています。
<今回のインタビューのポイント>(インタビュアー IIHOE川北)
人口流出や高齢化など、数十年にわたって「過疎先進地」であった中山間地域は、課題に向き合う努力と工夫の先進地でもあります。
岡本さんは、自ら起業される前に、第三セクターでマイナスからの再生を実現されたうえで、地域の方々とともに団体と事業をスタート。「実績→信頼→組織づくり→商品+ブランドづくり→地域へのサービスの拡充」という人「交」密度を高める過程と、特産品づくりを通じた地域の巻き込みやブランドの発信は、地域づくりに取り組む人々にとって、共通の基礎です。
「地産地笑」
地元のもので、地元の人が笑える地域に!
私たちの地域、岡山県奥津地方(旧奥津町)は約50年間、ダム闘争をしてきた地域です。人口の約1/3が移転を余儀なくされ、苫田ダム完成とほぼ同時期の2005年に平成の大合併により、鏡野町・上齋原村・富村との合併で新・鏡野町(かがみのちょう)となりました。鏡野町の中でも奥津地域の現在の高齢化率は約43%。ダム建設による移転の影響もあり、深刻な過疎化が進んでいます。昨年の正月には、奥津温泉の歴史ある旅館が廃業となり、大きなショックを受けました。
こうした経験から目の当たりにしたのは、中山間地域は切られる傾向にある、ということ。我々住民が生活し続ける環境は、我々自身が守っていかないといけない。そういう想いで2004年、50歳の時、特定非営利活動法人てっちりこを立ち上げました。
鏡野町には、ダム建設の影響で公共施設がたくさんあります。補助金がたくさん出たので、施設はできますが、運営能力がない。施設が完成しても、1年後には赤字になる、の繰り返し。そんな中で、小売業で中小企業診断士だったこともあって、道の駅をはじめとする公共施設のビジネスモデルを、第三セクター会社の参与や役員の立場でみてもらえないか、という依頼がきました。地元民としては、赤字を出し続ける公共施設の状況を「もう見ていられない」という思いもあって、引き受けることにしました。とはいえ公共施設のビジネスモデルをつくるのには様々なジレンマがあって、一筋縄ではいきません。
そんなところに、1人のおじいさんが「こんなとうがらしがあるんじゃけど、これ売れるじゃろうか」と道の駅にとうがらしを持ちこまれました。1998(平成10)年のことです。食べてみたら、ほんまに美味い。普通の鷹の爪のとうがらしじゃない。そのとうがらしを詳しく調べるために、とうがらしの第一人者を調べ、信州大学の先生に送って調べてもらったところ、「これは日本古来の品種と言ってもいいくらい、すごいとうがらしですよ!」という回答が返ってきたのです。「これは特産品化せにゃ!」と考え、生産を増やすことを提案、まずは持ち込まれたおじいさんの近所に、この姫とうがらしの生産を広げてもらう事業計画を書きました。
ところが、第三セクターはそんな個人的なことをしてはいけない、公平に公募しなければいけない、それが平等だ、と三セク内部からストップがかかったのです。これはまだ、うまくいくかどうかもわからない試験的な、住民と一緒につくっていく民間の計画です。平等原則を貫いていたんじゃ進まない。地域の人と一緒にもっと楽しみながらやろうや、と、2004年に特定非営利活動法人てっちりこを立ち上げ、そこでこの計画を手掛けることにしたのです。
てっちりこではまず、地域の資源にどんなものがあるかを調査しました。まずはとうがらし。信州大学の先生の助言ももらいながら、この姫とうがらしが調味料に向いていることを突き止め、3年かけて商品開発をしました。
そのほかにも、旧・奥津町では、全700軒のうち17軒に1軒の割合で山椒の木がありました。そのほとんどが家庭用に少し採るだけで、収穫はほとんどされていない。「この山椒を商品化したら、地元の人はたくさん出荷できるだろうなあ。それに赤じそ。荒廃地でも種さえあれば勝手に生えてくるからなんぼでもある。それを活かしてゆかりにしたり、青じそドレッシングにしたらどうだろうか・・・」という風に、地域に眠っている資源を一つ一つ調べていって、どうやったら商品化できるかを考えていきました。
その結果、姫とうがらしドレッシングに姫とうがらし味噌、山椒の実、青じそドレッシング、七味ふりかけなど計6種類の作物を商品化して、地域の人に生産を広げてもらうことにしました。地域の人にとってはもともとそこにあった作物が転作作物になり、重量作物が育てられない地域の高齢者の仕事づくりにもなる。もちろん出荷基準をつくって、出荷量もコントロールしながら、少しずつ、その地域の資源を活用した商品化を進めていきました。
とはいえ、NPOの経営はやっぱり苦しい。最初の2年間はほとんどボランティアで、3年目からようやく売上が出てくるようになりました。最初はとうがらし商品で20-30万円の売上。それを「倍々ゲームで毎年増やしていこう!」と、いろんな商品をつくって売り出しました。これまでに、とうがらし商品が35アイテム、山から採れる作物を加工した「山美人」シリーズが25アイテムで計60アイテムを商品化しました。しかしこれらがスーパーで一般に売られているような大手の商品と競合したのでは勝てません。こだわって作られたものをこだわって売ってくれるところ、付加価値をつけられるところで売らなくては。そこで大手スーパーではなく、あえて百貨店やサービスエリアに営業をかけ、1本100円じゃなくて350円で売れるところで売ってもらおうと考えました。
それから地元の人を味方につけようという作戦を立てました。新しい商品ができると、まず旧奥津町の700軒にみんな配ります。「こんな商品つくってみたけどどうじゃろうか」と聞いて回って、「こりゃええ」と地元の人たちから言ってもらえたら、販売に踏み込む。地域の人がみんな知ってる、自慢できる商品に仕上げることが大事なんです。地域のじいちゃんばあちゃんが知ってるから、盆や正月に帰ってきた子どもたちに話してもらえる。そしたら近くのサービスエリアではお土産として、盆正月には1000本単位で売れるわけです。
行政の人がよく言うのは地産地消、という言葉。地元の商品を地元で消費すること。でもそれは当たり前のことです。我々がしているのは地産地商。地元の産品を地元で商いする。それからさらに進んで、地産都商。地元の産品を都会で商いする。そうすると地元にお金が回るようになる。そして、最後には「地産地笑」。地元のもので地元の人が笑えること。そういう地元産品を作って、笑える地域にしていかないと、と考えています。
大切なのは、人交密度
商いと同じように大事なのは、「人交密度」。地域の人が声を掛け合うしくみをつくることです。
実はてっちりこでは、地元産品の商品開発のほかに、郵便や宅配便の配達代行、ごみの収集事業もやっています。旧・奥津町では合併によって3つあった郵便局が1つになり、職員数も半分以下になりました。非常に広い地域ですから、一番遠くの集落まで配達に出たら、夕方まで帰ってこられない。人手が足りないから、満足に郵便も届かない。そんなんでは困る、という地域の人の声を代弁して意見すると、「じゃあお前のところでできるんか」「やっちゃるがな!」ということになって、始めたのです。そのうち宅急便もメール便も頼まれるようになって、旧奥津町の300世帯をカバーするまでになりました。
そうやって配達で回っていると、この地区のあそこに山椒の木があるとか、しそが今採り頃だ、というのが見えてきて地元の人と話をするようになる。それが商品開発にもつながっていったわけです。でもこの配達事業単体ではほとんど収益にはなりません。車代もガソリン代もかかりますから。立ち上げ当初は助成金にもお世話になりながら、いろいろな事業との組み合わせでやっている、というのが現状です。
そんな風にして地元をぐるぐる回っていると、今度は行政から「ごみ収集もしてくれないか」と持ちかけられました。ごみ収集も合併の影響で処理範囲が広くなり、広いエリアに集積所が1つしかなくなっていました。これからは高齢化で集積所に持って行くことさえたいへんな人たちばかりになるのに、そんな不便にしてどうするのか、と意見したところ、「じゃあお前のところでやってくれ」という話になって、集積所を減らさないで収集するようになりました。「地域のごみは地域の人で処理しましょう」をモットーに、定年退職した地域の人に1日3,4時間の労働で収集業務をやってもらっています。
そうやって、いつも誰かしら地域を回っている状況なので、地域のさまざまな情報が集まってきて、そのスタッフたちが地域の見守り役にもなります。「昨日洗濯物出てなかったけど大丈夫か」と声をかけたり、誰も住んでいないはずの家で家財のゴミが出ていたら、「その家に何かあったんじゃろうか」と心配して、いろいろな対策が立てられる。そうやって得た情報を、地域の困り事の情報収集、これからの事業展開につなげていくことができます。
この他にも、例えば地域の障がい者の作業所や公民館の運営費、敬老会の支援も行っています。障がい者作業所は10人集まらないと行政の補助が得られない。でも中山間地域の小さな集落で10人集まるわけがないんです。補助がなくても、1人2人であっても支え続けよう、と決めて、ほとんど赤字ですが、指導員の人件費を払いながら、作業所の運営も続けています。
住民が中山間地域で生活し続ける環境を、住民自身が守っていくためには、地域の人との交わりの密度を上げること、住民同士が声を掛け合うしくみをつくることが何よりも大事です。配達やごみ収集を通じて地域をまわりながら、人交密度を上げ、同時に地域の資源もみつけて商品開発する。そこで得た利益は、赤字だけど地域になくてはならないサービスの運営に回す。これから先、住民の買い物支援やライフラインの維持など、必要になるサービスはますます増えていくでしょう。その全てを自分たちで担えるかはわかりませんが、できるかぎり地域のことは地域の人で解決するしくみをつくっていきたいと思います。それに、どうせやるなら楽しく、地産地笑でいきたいですね。
「てっちりこ」の販売商品 http://www.karabijin.jp/