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【レポート】社会事業家100人インタビュー (公社)セカンドハンド 設立者 新田恭子氏

2015.07.01

第39回 社会事業家100人インタビュー
2015年5月15日(金) 19時~21時

於:岡山県ボランティア・NO活動支援センター「ゆうあいセンター」
岡山県総合福祉・ボランティア・NPO会館「きらめきプラザ」2階 研修室

ゲスト:新田恭子(にったやすこ)様
(公社)セカンドハンド 設立者 

 
<ゲストプロフィール>
香川県高松市生まれ。九州大谷短期大学国文学科演劇放送コース卒業。1994年、日本初の国際協力の資金を集めるチャリティーショップ「セカンドハンド」を高松市でオープンさせた。収益金で主にカンボジアで学校・医療施設の建設や人材育成などの支援、女性への職業訓練、日本国内を含む被災地緊急支援などを行っている。2007年に理事長を退任後も現地事業の調整、運営委員などとして設立以来、無償で活動に関わっている。本業はフリーアナウンサー、大学非常勤講師。
 
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
「各家庭では使わなくなったものを、必要とされる場所で活かす」ことで、途上国の支援とごみの削減、その活動資金の創出までを可能にするチャリティーショップ。英国など世界各国で、普通の市民が自らの問題として社会課題に取り組む人材へと育てる場としての可能性についても学んで欲しい。
 
タイトル:日本初のチャリティーショップ~小さな力を大きな支援に変える~
 
片方の手を自分と家族のために
もう片方の手(second hand)を誰かのために

「ひとりひとりの力は小さくても集まれば大きな力になる!」をモットーに、1994年に日本で初めてのチャリティーショップをオープンしました。きっかけは、海外旅行でイギリスを訪ね、偶然、チャリティーショップで買い物をしたことです。この仕組みに感銘を受け日本でも探しましたが、その当時、チャリティーショップはありませんでした。私はフリーアナウンサーとしてラジオ番組制作にも携わっていたので、イギリスのチャリティーショップの取材を企画し、誰かがやってくれたらという想いで、そのノウハウを紹介しましたが、反応はありませんでした。その後、日本ユネスコ協会連盟が主催する青年ワークキャンプに参加し、カンボジアに行った際、内戦と貧困で本すらないという窮状を知ったことが契機で、「自分でやってみよう」と思いたちました。
まずは無料で借りられる店舗を探しました。高松市の商店街なら家賃、敷金、礼金と数十万円が必要ですが、そこに経費をかけずに始めようと考え、チャリティーショップへの想いや、やりたいことを明確にした企画書を書き、会う人、会う人に伝えました。文書にまとめておけば、他の人が代わりに営業してくれることもあります。100人に伝えたら、1人か2人はわかってくれるかも知れません。どこにチャンスがあるかわからないのです。
私の場合も当初「無料(ただ)で借りようなんて厚かましい」などとなかなか理解してもらえませんでしたが、賛同してくれる人が企画書を知人に渡したことから、その知人を紹介してくれ、3か月間、共益費のみでビルの5階を借りられることになりました。
開店にあたり、什器、商品は無料で集め、経費0円でスタートしました。棚は家具店で下取りされた無用の家具が山積みされていたので、許可を得てもらって帰り、カレンダーの裏紙を貼って白く仕上げました。
3か月後、74万円の収益のうち34万円で本を購入してカンボジアに届け、40万を学校建設資金として友人の団体に寄付しました。活動の継続を考えていたとき、知人の不動産会社社長が売れるまでと、商店街の物件の無料貸し出しを申し出てくれました。そこは1か月かけて自分たちで改装しました。司会業でお世話になっているイベント会社からコンパネをもらったり、同級生のペンキ屋からペンキをもらったり、電気工事の免許を持つ人に配線をしてもらったりして、蛍光灯などの購入費約2万円程度で仕上げました。
商品は、というと、90年代前半の日本は、景気の良かった時代の名残もあり、物が過剰にあったので、高品質のものがたくさん無料で提供されました。当時、まだまだ使える物がどんどん捨てられ、「もったいない」と感じていた時にイギリスでチャリティーショップを知り、活動資金を集めて支援を必要とする人のために活用するという意義だけでなく、ゴミを削減し、環境負荷を下げることにも有効だと気づき、目から鱗が落ちました。
無料で店舗を借りるということは、いつ「出て行って欲しい」と言われても仕方のない立場です。なので、いつでも出ていけるように、倉庫を借りる最低限の資金を持っておく必要がありました。活動当初から、準備金として少しずつ積み立てていましたが、どうせなら、倉庫にもショップにもなるアクセスの良い物件をできるだけ安く買っちゃおうと、裁判所に通って競売物件から探しました。2000年に不動産の購入のために特定非営利活動法人格を取得し、1000万円程になっていた準備金、銀行からの借り入れ、個人からの信託金で、翌01年に2,914万円で自社ビルを購入しました。10年には公益社団法人となり、現在は有給の正職員3名、パート1名と、店番や倉庫作業、運搬などをして下さる多数のボランティアの方々という体制で、香川県内に3店舗、福岡市に1店舗を直営しています。また、店舗を持たない支部が、北海道、関東、京都、大阪にあります。
 
子どもたちの力で学校支援―体験と実感する機会を大切に
セカンドハンドでは子どもからご年配まで幅広い層がボランティアとして活躍し、店舗やバザーでの販売、運搬、事務作業や3か月毎に4,000通を超えるセカンドハンド通信の発送作業に関わっています。ボランティアの販売員は精算時に、レジ横に掲示しているセカンドハンドの支援事業について説明し、支払ったお金をどの事業に使いたいかを購入者に選んでいただきます。購入者に、チャリティーショップであることを認識してもらい、買い物が寄付につながっていることを意識してもらうためです。支援のメニューは、教育、医療、自立、人材育成、指定なし(緊急支援などセカンドハンドに使途を任せる)の5つです。
教育支援の場合は、倒壊の危険がある校舎の建て替え、教育省との連携による新しい学校の開設などで、これまでに18校舎を建設しました。
自立支援は、貧しい地域の女性たちが身売りしなくて済むように縫製技術を身につけてもらおうという取り組みです。現地のNGOと連携して職業訓練施設を建設しました。現地で雇用した指導者を育成し、足踏みミシンを香川県内で集めて届け、製作した品物を日本のショップでフェアトレード商品として販売しています。
医療支援としてはお産施設の建設や、救急医療に関わる多角的な支援をしています。徳島のNPO法人TICOや高松市と連携して医師や救急救命士を派遣したり、カンボジアから医師を招いて日本の病院などで研修を実施しています。この支援はJICA草の根技術協力事業として現在スヴァイリエン州で実施しています。
人材育成の支援は、日本やカンボジアの青年の育成のために役立てています。セカンドハンドでは学生部が2003年から活動しています。中高生が創設した「小指会」と、大学生がフェアトレード普及を目的に創設した「LIFT」が一体化し、「セカンドハンド・ユース」として活動しています。学生たちが単に「ボランティア参加して手伝う」のではなく、主体的に考え、責任をもって自分たちで運営することで社会経験を積み、苦労や失敗しながら成功体験を重ねることで、「やればできる」を実感してもらうようにしています。学生がつくったお金は別に管理し、学生たちの成果として、例えば建設した学校の開校式に参加する機会をつくったり、奨学金支援をしている学生の家にホームステイしたり、日本に招いて交流する機会をつくっています。現地に行った高校生は「社会をよくするのは政治家とか偉い人がすることだと思っていたけど、自分たちもできる…というか、自分たちがやらなきゃと思った」と語っていました。今、学生部で活動した人たちが徐々に国際協力の現場や社会で活躍しはじめている様子をみると、時間や手間はかかるけど、次世代を育てる場、つまり社会教育活動になっていると確信できます。
ただ「安いから」という理由で来店していたお客様が、商品を提供してくれるようになったり、友達を連れてきたりと、徐々に変化していった事例も見受けます。店舗は、このように社会課題と私たちの活動を知ってもらう啓発の場、さらに実行にうつす機会にもなっています。
東日本大震災が発生し、私たちはすぐに緊急援助物資を集めて送りました。このときにも、日頃の成果をあらゆる場面で実感しました。まず、寄せられたものの質が阪神淡路大震災の時より格段によくなりました。マスコミ等の報道も関係している可能性がありますが、日頃から使えるものの提供を呼びかけ、質が悪い場合は店頭でお断りしているため、提供する際のマナーとして一定の基準が定着したのではないかと思います。日頃から倉庫で仕分けしているスタッフのスキルも、迅速かつ的確に箱詰めする作業で活かされました。また、拠点があることが信頼につながり、場所も認知されていたため、始動に時間はかかりませんでした。そして企業との関係も構築されていたので、協力依頼がスムーズでした。
仙台市内で被災者らを雇用し、地域の人が集い、買い物ができる場として開いたコミュニティーショップは、セカンドハンドの仕組みを応用したものです。また、国際協力で使われる手法、FOOD FOR WORK(地域の課題を解決するために地域住民が参画し、代償として食料を支給することで栄養改善にもつなげる)を応用したCASH FOR WORKを山形県のNGOと共同で立ち上げ、被災地のがれき撤去に被災者を雇用する形で実施しました。
セカンドハンドの基本的な理念は、助け合いの手をさしのべあう文化を拡げることです。カンボジア支援を行っているのは、たまたま私がカンボジアの貧困や格差問題に出会ったからにすぎません。セカンドハンドはどのような社会課題に対しても解決のために動ける人材育成を目的とし、チャリティーショップをそのための手段として提案しています。
 
(公社)セカンドハンド 
多様なチャリティー活動とさらなる可能性
市民が社会課題の解決に参加する選択肢は、まだまだ工夫次第で広げることが可能だと考えています。楽しみながら参加できるチャリティパーティーも、その手法の一つです。セカンドハンドでは、年間2000万円から3000万円の収入があり、その約50%をチャリティーショップから得ていますが、寄付やチャリティー事業も重要な収入源です。コンサートも定期的に実施していますし、缶ビールを100円で仕入れて、150円で売り、差額を寄付にあてるチャリティービアパーティーは毎年夏の恒例事業です。カルチャー教室では、市民にヨガやフランス語、浴衣の着付けなどを学んでもらい、講師の協力を得て、材料費以外をチャリティーに充てています。(チャリティーバーもいいのでは?)楽しみながら、いろんなことができるはずです。
チャリティーショップ発祥の地であるイギリスでは1万店以上の店舗があり、チャリティー業界は総収入の18.7%をチャリティーショップの収益から得ています。多数の団体がそれぞれの目的のために運営しており、内容は国際協力、ホスピス、がんの研究、高齢者、子ども、動物、環境、地域など多岐にわたっています。ショップ同士の競合もあり、商品やボランティアの獲得に苦労し、ショップを閉店・縮小する動きも見られます。また、近年、ハイストリート(高級店街)での出店、電子製品や古本、家具の専門店化も進んでいます。
日本でも取り入れられないかと考えているのが、アンラップドギフト。親しい誰かに贈り物をする際に、相手に物が送られるのではなく、困っている第三者にプレゼントが贈られるというしくみのチャリティーです。あなたの誕生日に、アフリカで困っている子どもに学用品が届くというプレゼントが送られたら、素敵じゃないですか?
ニュージーランドには市がゴミの削減と雇用の創出を目的としたリサイクルショップを運営しているという事例もありますが、日本でもNPOが自治体と連携してチャリティーショップを運営することで、ゴミを削減しつつ、その資金で自治体として抱える課題の中で行政という性格では着手し辛い事業をNPOが実施するという協働の手法もあるのではないかと考えています。そのショップが災害時の支援拠点ともなる倉庫として活用されることも考えられます。今後のチャリティーショップには物だけでない社会資源を組み合わせて社会課題の解決に貢献できる可能性があると考えています。
 

(文責:前川)

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