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【レポート】社会事業家100人インタビュー (特)北海道グリーンファンド 理事長 鈴木亨氏
第42回 社会事業家100人インタビュー
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ
2015年8月17日(月)19時~21時
於:(般社)ソーシャルビジネス・ネットワーク会議室
ゲスト:鈴木亨さん (特)北海道グリーンファンド 理事長
<プロフィール>
1957年北海道生まれ。自治体職員、生協職員を経て、(特)北海道グリーンファンド(HGF)を1999年に設立し理事・事務局長に就任、2011年に理事長就任(現職)。誰でも無理なく地球環境保全に貢献できる「グリーン電気料金制度」を開始し、日本初の市民出資型の風力発電事業を行うとともに、市民風車のパイオニアとして各地の取り組みの支援も行っている。(株)市民風力発電(2001年)、(株)自然エネルギー市民ファンド(2003年)を相次いで設立し代表取締役を兼務。2012年9月には(株)ウェンティ・ジャパンを設立して取締役副社長、同年12月(般社)北海道再生可能エネルギー振興機構理事長に就任。その他、役員就任中の事業目的法人多数あり。
<今回のインタビューのポイント>(川北)
鈴木さんは、エネルギーについての理想論や希望を語る人や、地域でマイクロな省エネ活動を実践する人とは、一線を画している。専門家ではなかったのにもかかわらず、まず仮説を立て勉強し、万人単位で協力者を集め、実証実験を重ねて、日本初の市民出資型の風力発電事業を北海道から実現させてきた。やりながら進化してきたダイナミックさの秘密を学びたい。
原点は、原発への抵抗型反対運動
東日本大震災と福島第一原発事故の後、エネルギー問題を取り巻く環境や社会の認識は180度変わりました。それまでほとんどの人は、自分たちが使っている電気が、どのように生み出されてどこからきているかなど、日常的には意識していなかったと思います。しかし福島第一原発事故の実態が明らかになるにつれ、自然エネルギーへの注目度は相対的に高まり、私たちの取り組みへの問い合わせや依頼も激増しました。
私にとって、エネルギー問題に取り組むことになった原点は、チェルノブイリ原発事故(1986年)による食品の放射能汚染から始まり、北海道電力の泊原発1・2号機の運転の可否を問う住民投票条例制定に向けた直接請求運動(注1)など、生活クラブ生協(以下、生協)の組合員を中心として大きな流れを生んだ原発反対運動にあります。しかし、96年には3号機増設計画が発表され、それまでの署名やデモでは状況を打開できないという思いも強まってきました。生産者と協議してつくりだしてきた安全・安心な生協の食品のように、原発の代わりとなるエネルギーはないのだろうか、と考えるようになりました。
一方、95年には31年ぶりに電気事業法が改正(注2)され、97年には、京都でCOP3(注3)が開催されました。このような社会環境にも後押しされ、安全・安心なエネルギーをつくるぞ!という機運がうまれてきたのです。
(注1)
当時、道内の有権者約400万人の4分の1にあたる100万筆を集めたものの、道議会では2票差で否決された。
(注2)
気候変動枠組条約第3回締約国会議。先進国および市場経済移行国の温室効果ガス排出の削減目的を定めた「京都議定書」が採択された。
(注3)
*発電事業への新規参入の拡大
電力会社(一般電気事業者)に電力を供給する事業に独立系発電事業者(IPP:Independent Power Producer)の参入が可能になり、電力会社への卸売りによる料金規制の緩和により、電力会社がIPP等から入札により電気を購入する場合の認可が不要となった。また、新規事業者が電力会社の送電線を使って他の電力会社に送電する「卸託送」の規制が緩和された。
*特定電気事業の創設
それまで電力会社にしか認められなかった小売供給が、新たな電気事業者(特定電気事業者)にも認められ、特定の供給地点での小売が可能になった。(電気事業連合会ホームページより抜粋)
「グリーン電気料金制度」で、個人を束にする
「グリーン電気料金制度」は電気料金の5%分の寄付を基金に積み立て、自然エネルギー普及のための原資としています。電気料金5%分としたのは、電気を使うことによる環境負荷を応分に負担しようという考えに基づくものです。省エネをすれば環境負荷が減り、基金の負担も軽減します。同制度を先行して取り組んだのは生協で、99年4月に60人のモニターによってスタートしました。この制度に加入しても、電気はこれまでどおり北海道電力と契約しているため、電力供給やメーター検針は北電が行いますが、加入した組合員の電気料金の請求は生協に届きます。生協は電気料金を5%増しで組合員の銀行口座から引き落とし、北電には電気料金分を生協が一括納付します。また、「5%の上乗せ分は、各家庭での省エネで生み出しましょう!」という働きかけも積極的に行いました。組合員には、共同購入の明細にあえて電気代も織り込み、食べ物などの代金と一緒に引き落としました。どこからか自動的に供給されるのではなく、「エネルギーも意志を持って買うもの」と認識してほしかったからです。
生協での試験取り組みを行なう一方で、グリーン電気料金制度への市民参加を広げるため、新たな法人を立ち上げることとなりました。特定非営利活動促進法の施行直後の99年7月、(特)北海道グリーンファンド(HGF)を設立します。もちろん、これだけでは、最初の目標とした風車を1基つくるために必要な2億円には到底足りません。そこで銀行に融資のお願いに回っていた時、「(自前で)3割用意できるなら考えてもいい」という答えをある銀行からもらったので、6,000万円を目標に、理事が中心となって、知人・友人に出資をお願いすることにしました。
そんな中、「市民の力で風車をたてる」という記事が北海道新聞に掲載され、大きな反響を呼び、寄付や出資の申し出が激増するという奇跡が起こります。結果的に1億4,000万円を集めることができたため、8割を市民から、2割を銀行からの融資で調達して、2001年9月に、浜頓別町で市民風車第1号「はまかぜちゃん」の運転が無事スタートしたのです。
専門家を巻き込み、必要な機能を整えていく
不特定多数の市民から出資金や寄付金をお預かりして立ち上げる風力発電事業は、国内では前例がなかったため、「匿名組合」(注4)を利用した枠組みを、一から構築する必要がありました。運営体制の透明性を保つために、情報はすべて公開するとともに、きちんと成果も出し続けなければなりません。エネルギーのことだけでなく、金融や法律などさまざまな専門知識が不可欠になったので、自分で勉強するだけでなく、どうしてもわからないことを監査法人や金融機関に聞きにいったり、勉強会を開いたりしました。ありがたいことに、各方面の専門家たちも、私たちの新しい取り組みに興味を持ってくれて、普通だったら相談料を払って聞くべきところなのに、無償で協力してくれたのです。
風力発電を安定的に運用し、他地域にも広めていくためには、ひとつのNPOだけでは担えないので、組織を順次整えていきました。結果的に、HGFの他に、再生可能エネルギー事業の企画・開発や事業管理・運営を担う会社として(株)市民風力発電、各地の自然エネルギー事業での匿名組合出資の組成・募集や管理・運営を担う会社として(株)自然エネルギー市民ファンドを設立し、機能を分化しました。また、北海道には再生可能エネルギーのポテンシャルが多くありますが、地域に知識や経験、人材が不足しています。その結果、大手資本がより早く事業化に着手し、再生可能エネルギー事業を展開しています。「地域のための再生可能エネルギーを地域主導で進めたい」という地元自治体などの声もあって、再生可能エネルギー導入促進のための政策制度やしくみの構築、各地域において地域主導で事業を推進するための人材や体制の構築を担うための社団法人として、(般社)北海道再生可能エネルギー振興機構を設立しました。各組織のマネジメントはたいへんですが、地域の専門人材が集まり、雇用を生んだ側面もあります。毎年1回は各組織のメンバーが集まって、合宿でコミュニケーションをはかっています。前回の合宿では、中長期的なビジョンを共有するために、「2020年のあるべき姿」などについて議論しました。
(注4)
出資者が組合員となって、事業者に資金を提供するという形態の組合。生じた利益の分配を受けることができるという約束をする契約形態。(会計用語キーワード辞典より)
地域の資源が地域に落ちる仕組み
エネルギーは、効率の面からも、地域内循環が重要です。再生可能エネルギーに移行した欧州のある地域では、誘致企業数や市税収入、雇用増加、温暖化ガスの排出量削減等に大きな効果が生まれています。また、2013年4月現在、ドイツの再生可能エネルギーは72,900MWで、そのうち4割以上を個人や農家が所有しています。つまり、約半分が市民ということです。再生エネルギーでつくられた電気の固定価格買い取り制度「FIT」(Feed-in Tariff Program)は、エネルギー政策のみならず、第一次産業の下支え政策でもあるのです。
日本では2014年12月現在、18基の市民風車が発電中です。出力は計29,000KWで、これは約1万9千世帯、3~4万人分にあたります。私たちのつくった風車は、地元の子どもたちが命名し、出資者・寄付者の名前を銘板に記載します。このため、お子さんやお孫さんの名前で出資したり、新郎新婦の友人たちが結婚のお祝いとしてプレゼントしたり、生徒会が資源ごみ回収によって得た資金で出資して、配当金で地域の福祉活動や環境学習を行うなど、さまざまに活用されています。出資額は1件あたり平均約60万円で、2から2.5%の利益分配を実施してきました。投資ですからリスクもありますが、銀行の普通預金などと比べると利率がいいため、リピーターも増加しています。
2014年12月に誕生した厚田市民風力発電(北海道石狩市)は、売電収入の一部を毎年石狩市に寄付します。同市は環境まちづくり基金を設けて地域の環境活動に活用する予定です。さらに、この事業で市民からの出資の窓口と分配を担う(株)あい風市民風車基金は、融資金利の1%程度を助成金として、厚田地区内の地域振興団体へ還元します。
梅のにおいを桜に込めて、しだれ桜で咲かせたい
再生可能エネルギーは、いわゆる「政策市場」と言われ、社会情勢や法律の改正等に大きく影響を受けます。また、技術的にも日々進化しつつある領域ですので、関わる人たちには、型にはまらない柔軟さが必要です。
当初は、「市民からお金を集めて風車を立てるなんて、できるはずがない」と周りの人たちから言われました。「梅のにおいを桜に込めて、しだれ桜で咲かせたい」は私の好きな言葉です。つまり、ありえないことを実現させたい、ということなのですが、お金やスキルがなくても、覚悟としたたかさとおおらかさがあれば、最大の資本である“人”は集まってくれます。もちろん、自然エネルギーのデメリットを主張してくる人や、利害関係が絡んで妨害してくる人もいます。それも受け入れつつ、何を選択していくのかのコンセンサスをつくっていくのです。初めは意見や立場が大きく異なっても、重なるところはどこか探して、そこからネゴシエーションすれば、協力し合えるものです。ただし、事業で儲けることは大事です。儲けがないと協力者は増えませんし、持続可能性がないからです。自治体が手掛ける風力発電の多くが失敗してしまうのは、責任の所在があいまいなことと、儲けを追求しない体制をとらざるを得ないからだと思います。
2014年3月11日に、全国から13グループが集結し「全国ご当地エネルギー協会」を発足しました。それぞれの地域がそれぞれの地域資源を最適化していければよい訳で、今後は風力に限らず、小水力やバイオマスなども積極的に手掛けていく予定です。
(文責:棟朝)