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【レポート】第56回 社会事業家100人インタビュー:(特)秋田県南NPOセンター 理事 菅原賢一氏
社会事業家100人インタビュー第56回
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ
2018年4月10日(火)18:30~20:30 於:日本財団2F会議室
(特)秋田県南NPOセンター 理事 菅原賢一さん
プロフィール:
技術士(総合技術監理部門)、技術士(建設部門)
1947年 秋田県横手市生まれ。国土交通省に37年間勤務し、退職後、秋田県南NPOセンター設立に関与。2004年~2009年 秋田県南NPOセンター理事、2010年~2014年 秋田県南NPOセンター理事長、2014年~現在 秋田県南NPOセンター理事
<今回のインタビューのポイント>(川北)
高齢化と人口減少が同時に進行し、課題が深刻化する地域において、自治会・町内会やその連合会の役割は、子どもや子育て世帯のための行事(イベント)ではなく、高齢者のくらしを支える事業(サービス)へのシフトが不可避だ。特に豪雪地では、家屋や道に積もった雪を動かせなければ、通院・通所や買い物など、生活の基礎を脅かす深刻な問題となりかねず、その担い手として、地域組織を再編・新設する地域も増えつつある。その先駆者として、日本有数の豪雪地である秋田県南部の横手市内を皮切りに、雪とともにくらし続けるための「共助組織」づくりと、地域を超えた連携を進めている(特)秋田県南NPOセンターのお取り組みから学んでいただきたい。
NPOセンターが共助社会づくり?
(特)秋田県南NPOセンターは、秋田県南部(仙北市・大仙市・美郷町・横手市・湯沢市・羽後町・東成瀬村)を主な活動地域とする中間支援組織です。年間事業費は約5,000万円で、男女共同参画部門(南部男女共同参画センター指定管理)、市民活動部門(市民活動サポートセンター受託)、協働推進部門(NPO派遣相談員事業)、サポートステーション部門(若者就労支援事業)、共助社会づくり部門(共助組織設立・運営支援、地域・自治会支援)の5部門で構成されています。
私は共助社会づくり部門の担当理事です。NPO等の団体支援だけでは、深刻度を増す地域の課題解決に限界を感じ、もっと地域に入り込んで、支援先のすそ野を広げないとという思いから、当センターが提案者となり、内閣府の「新しい公共支援事業」による「高齢過疎地域における共助力アップ支援事業<横手モデル>」(注)として実施したのが始まりです。4つのモデル地区(保呂羽、南郷、三又、狙半内(さるはんない))を設定し、雪下ろし支援・雪よせ支援・買い物通院送迎支援についての実証実験を行いました(2011年10月~2013年3月)。
(注)「『高齢・過疎地域』における共助力アップ支援協議会」(構成団体:秋田県(活力ある農村集落づくり推進室)、横手市(経営企画課)、秋田県南NPOセンター、横手市社会福祉協議会、JA秋田ふるさと、横手平鹿建設業協会)として実施した。
急激な人口減少と高齢化、雪害への切迫感
秋田県は、この60年間一貫して人口が減っており、そのペースは年々加速しています。1世帯あたりの平均構成人数は、1950年の5.81人から2015年に2.63人となり(参考:全国平均は1950年5.07人→2015年2.38人)、75歳以上の高齢者のみの世帯率は13.2%を占めました(同:9.2%)。各世帯の人数が減って高齢化すると、買い物、通院、雪下ろし・雪よせ、農作業、お祭りなど、これまで個人の領域でできたこと・するべきとされてきたことが、当然ですができなくなってきます。自助力が低下した分、共助力を高めていかなければ、今後ますます立ち行かなくなります。
県内の各地域にとって、雪の問題は特に大きく、2010年は屋根からの転落事故が200件も発生して社会問題になり、2011年から2014年は4年連続で大雪に見舞われました。「雪害をどうにかしないと」という切迫感が、結果的に<横手モデル>と呼ばれる取り組みを前に進めるきっかけになりました。
<横手モデル>は、旧小学校区を単位とした地域共助組織が、サービスを受けたい住民から依頼を受け、事務局からお助け隊を派遣するしくみです。現在、県南部(横手市・湯沢市・美郷町・羽後町)で18組織が303名の「お助け隊員」を擁し、116集落・4092世帯をカバーしています。「デイサービスの大きな介護車両がくるので、家の前まで道幅広く除雪してほしい」「自家用車を出せるように、車庫まで道をつけて(道路から車庫までの間の除雪をして)ほしい」などのきめ細かいニーズに応えています。
多様なステークホルダーと連携する
共助組織は継続できなければ意味がありません。そこで、行政からの補助金頼みではなく、複数の資金源を得られるよう、地域の多様な組織などとの協議・調整を重ねてきました。
たとえば、13年から株式会社マルシメさんは、狙半内地区からスーパーモール「ラッキー」への無料送迎バスを毎週金曜日に運行し、買い物送迎を支援してくださっています。17年3月までに運行回数は200回、利用者数は延べ3200人となりました。社会福祉法人相和会さんは、「共助作業の安全支援」として、雪よせ・雪下ろし作業にかかる傷害保険料を、13年から4地区分ご負担くださっています。また、秋田県は、従来は業者に依頼・発注していた県道脇の草刈りを、14年から共助組織11団体に委託してくださっており、地域にとっては夏場の貴重な収入源となっています。
また、17年11月からは、トヨタ自動車株式会社さんの福祉車両を使った住民バス運行の実証実験が始まっています(18年7月末まで)。共助組織と横手市が契約を結び、月・水・金の週3日、共助組織のリーダーが運転し、自宅から病院や店舗等へ送迎しています。乗車実績は17年12月には4名でしたが、翌年1月には20名、2月22名、3月34名、4月は10日現在ですでに30名となっています。
地域で経済を回し続けるしくみをつくる
南郷地区では、買い物支援への取り組みを始めるのに先立ち、「女性の声を聴く座談会」を開催しました。買い物の現状やニーズについて率直に教えてもらうために、「なぜ地域の商店に行かないのか」とたずねてみると、「賞味期限が書いてない」「価格が他に比べて高い」「お店に入るとじろじろ見られる」などの意見が出されました。こうした意見をお店の人に確認すると、「そんなことはない!」と言われます。実は座談会に出席されたご婦人方は、昭和の時代からその地域の商店にずっと行っておらず、単なる思い込みだったことが判明しました。ただ、その先入観を覆して日常的に買い物をしてもらうには、まず店舗の改善が必要です。そこで、経営の専門家に経営状況を診断してもらうとともに、店内のイメージ改善や売れ筋診断、不良在庫処理などを行っていきました。また、共助活動でお助け隊員に支払う賃金の一部を地域通貨で支払い、お店で使ってもらうようにしました。県外から視察を受け入れる場合も、店舗での買い物をコースに入れています。
山内南地区では、16年から「生きがい食材納入活動」を行っています。共助組織のメンバーが耕作放棄地で野菜や山菜などを栽培し、秋田県南NPOセンターのスタッフが集荷し、相和会の高齢施設や保育所に納入しています。高齢者施設の利用者は地域住民であり、地域住民がいるからこそ施設は成り立ちます。利用者の食事の材料に地元産の野菜を使っていることは、利用者やその家族に対する良いアピールにもなります。取り組みが実り、2年目にして売上目標とした100万円を達成できました。これらの野菜の販売先は、首都圏向けの頒布会や、ふるさと納税返礼品にも広がっています。
立ち上げをサポートし、自立をフォローする
共助組織を新たに設立する際には、まず地域の自治会の会長さんたちに挨拶し、その役員のみなさんが集まる機会にお邪魔して、市町の職員と秋田県南NPOセンターのスタッフが一緒に説明します。そこでは「地域の困りごとワークショップ」を実施して、その地域の課題を可視化・共有し、「うちの地区もやった方がいい」「今始めないと間に合わない」など、役員のみなさんに気付いてもらった上で、組織化への具体的な準備に入ります。
共助組織の基本単位となるのは自治会ですが、自治会は会費制で規約があり、意思決定は総会でと決まっています。自治会とは別の組織にする方が、機能上動きやすいので、改めて立ち上げる訳です。
まず4組織(保呂羽地区自治会、三又共助組合、狙半内共助運営体、南郷共助組合)でスタートしましたが、無理に数を増やすことはせず、まずこの4つに自立してもらうことに重点を置きました。その間、他の地域の人に「共助組織とはどんなものか」を知ってもらう時間が稼げたのもよかったと思います。
くらしのニーズに根差した、地味ですが、とても大切な活動ばかりですので、発信には力を入れています。何をやるにも秋田県南NPOセンターから、地元のマスメディアにプレスレリースを一斉送信しますし、調印式や設立式、花束贈呈など、ニュースになりやすい式典をきちんと設定します。新聞やテレビが取り上げてくれると、地域の人たちは自分たちの取り組みが社会から注目されていると感じ、これからも続けていこうというモチベーションが生まれるからです。
数字で現状をつかみ、未来を予測する
地域のニーズをつかむためには、前述のワークショップや座談会に加え、「中学生以上全住民アンケート」(「ソシオ・マネジメント」第3号「小規模多機能自治」P42-45)が有効です。年齢層ごとに集計すれば、年齢層別の傾向が明らかになるので、優先すべき取り組みを絞りやすく、「困った」「何とかしてもらいたい」という感覚や状況から、「地域でできることは地域で解決していこう」という意識が育っていきます。
共助社会づくりにおける中間支援組織の役割は、人口予測や全住民調査などを通して、数字で過去から現状を把握し、同時に未来を予測すること。数字は得意でない人も多いですが、判断の材料となる「共通語」であり、他や過去との比較もできます。地域を動かすためには、その判断の材料と、動き出すきっかけとなる機会や手法が重要なのです。
毎年3月には、共助組織が集まって発表会を行い、各々の取り組みを磨き合う機会を設けています。お互い知り合うと、サポートもしやすくなります。17年の第7回地域再生大賞では、横手市共助組織連合会が「北海道・東北ブロック賞」を受賞しました。
(文責:棟朝)
今回の「社会事業家100人インタビュー」ご参加費合計のうち3,500円は、(特)秋田県南NPOセンターへ寄付させていただきました。