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【レポート】第60回 社会事業家100人インタビュー:(株)CoAct 代表取締役 渡嘉敷 唯之氏
社会事業家100人インタビュー第60回 先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ
2019年3月18日(月)18:00~20:00
於: 静岡市女性会館(アイセル21)研修室
(株)CoAct 代表取締役 渡嘉敷 唯之さん
プロフィール:
沖縄県那覇市出身。中学卒業後、鹿児島の高校に進学。千葉の新日本製鉄(当時)君津製鉄所に就職。サッカー部に所属しながら働くが怪我をきっかけに退社。フリーターをしながら都内の特別学級の支援員や不登校児のお宅に訪問して支援するメンタルフレンドとして働き福祉の道へ。その後、重症心身障碍者施設やケアマネジャーなどに従事。
2014年の静岡市主催の地域デザインカレッジの受講をきっかけに災害関連死の防止に取組む。
2014年そなえざぁしぞ~か設立。
2015年しずおか福祉BCM研究会設立。
2018年そなえざぁしぞ~か法人化 株式会社CoActを設立。現在に至る
<今回のインタビューのポイント>(川北)
自然災害は、相手も時期も選ばない。被災地では住民のみならず、行政や事業者もことごとく被災者となる。日常の仕事に専門性が求められるほど、被災への備えや支援にも専門性が求められる。しかし残念ながら、介護や障碍者の自立支援を手掛ける福祉事業者の被災への備えが十分でないことは、相次ぐ大規模災害で次々と明らかになるばかりだ。政府が具体的な施策を用意できていない中で、事業者が互いから学び合う関係づくりまで進めている渡嘉敷さんの取り組みから、日本では進まないことが多い「予防」へのアプローチを学んでほしい。
大槌町を訪れ、高まった危機感
CoActは、災害時も全ての人が安心してくらせる社会を創ることをめざして、福祉事業所のBCP策定やBCM体制の構築をお手伝いしています。BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、災害時も速やかに事業を継続できるように、あらかじめ作る計画のことです。ただし、計画立案やマニュアル化だけでは不十分で、具体的に運用できるBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)の体制づくりや、防災に取り組む組織風土づくり、人材育成に重きを置いています。
活動のきっかけは、静岡市主催の人材育成塾「地域デザインカレッジ2012」でした。当時、具体的な起業アイデアはありませんでしたが、ケアマネジャーとして働く中で、介護保険ではカバーできない課題があると感じていて、受講することにしたのです。その後、新設された専門コースに進むにあたって、自身のテーマとしたのが、福祉事業所の災害対応でした。
初めに調べたのは、東日本大震災における高齢者の被災状況です。すると、わかったのは、2,000名近く(※)に上る方が避難途中や避難後に亡くなったこと、安全なはずの病院や福祉施設でも亡くなっていること。なぜこのようなことが起きたのかとショックを受けました。ただ、今振り返れば、亡くなった人数をデータで見るだけでは、実感が伴っていなかったと思います。転機となったのは、縁あって岩手県大槌町を訪れたことです。すでに震災から1年半が経っていたので、だいぶきれいになっていましたが、それでも町にはいろいろなものが足りていません。仮設住宅でお話を伺うと、災害時における高齢者や障碍者の危機的な状況が伝わってきて、これで、一気にスイッチが入りました。「これは、まずいぞ」と。その後の地域デザインカレッジでは、災害に対する危機感が私だけ常に高いので、やや浮いていたと思います。当時は、福祉事業所に提案に行っても、想いが空回りして、説教になっているような状況で、相手に理解してもらえないのは当然でした。
※2012年当時。2018年9月末時点では3,279名(復興庁)。
アプローチすべき対象を分けて考える
災害関連死のハイリスク層は、60歳以上で既往症のある要介護の方、そして障碍がある方です。その中でも、施設入所者と在宅生活者では状況が異なるため、分けて考えています。在宅生活者は戸別になるのでアプローチしづらく、負担を求めるのも困難なことから、事業の対象を施設入所者に絞り、入所先である福祉事業所に対してのコンサルテーションに着手しました。
コンサルテーションでは、災害時に職員が取るべき行動を、事業所の責任者や担当者と共に整理し、研修や、実際の場所・物を使った実地訓練(災害対策本部設置訓練、救護所設置訓練など)を提供しています。
また、地域に貢献したいと考える福祉事業所と一緒に、自治会と連携した防災事業もお手伝いするようになりました。ポイントは、楽しくやること。福祉事業所職員にアイデアを出してもらって、これまでには、地域の方の自宅に多世代が集まり調理をする防災バーベキューなどを行いました。講師役を務めるのは、私ではなく、福祉事業所の職員です。大人数が集まる場をさばく経験は、災害に備えた良い訓練で、人材育成の場となっています。CoActとしては、こうした自治会と連携した事業を通じて、従来では支援が難しかった在宅生活者にもアプローチできるようになりました。
最近では、福祉事業所だけでなく、職能団体である介護福祉士会からも、災害ボランティア研修の依頼をいただいています。災害ボランティアの派遣先は避難所、施設、自宅など、いくつかの可能性がありますが、災害時におけるそれぞれの状況を検討したところ、グループホーム、小規模多機能事業所への支援の手が不足する傾向にあるとわかりました。よって、それらへのボランティア派遣に焦点を絞った研修を実施しています。
人が育つ、切磋琢磨するコミュニティ
BCMとは何か、とあらためて考えると、防災を自分ごととして考えられる人材を育てることと、それを支える組織づくりです。加えて、コミュニティが大切な要素となります。近隣の福祉事業所と情報交換をしたり、時には弱音を吐いたりしながら、切磋琢磨できるつながりを作りたいと考えて、立ち上げたのが「しずおか福祉BCM研究会」です。月に1回、福祉事業所の担当者が集まりBCP/BCMのブラッシュアップに取り組んでいて、災害時にはお互いに支援しあうためのネットワークづくりにもなっています。
2018年の西日本豪雨では、しずおか福祉BCM研究会から人材を募り、地域デザインカレッジの修了生4人が発起人になって立ち上げたグループ「Patch」として、被災地へ40日間で43人の福祉専門職をボランティアとして派遣しました。もちろん一番の目的は被災した方を助けることですが、ボランティアにとっても学びの機会となっていて、研修の成果を活かして少しでも役に立てたことや、自分たちが備えるべき課題を実感できたことは、今後につながる成果でした。
やはり、現場を知ると大きな学びがあります。その点では、CoActで行っている東北ツアーは、福祉事業所から参加者を募って実施していて、人材育成の意義が大きいです。実は、赤字なのですが…。
CoActの収入は、設立2年目に大口顧客がなくなり不安定になった経験から、多様化を心がけています。中心となるのは、福祉事業所向けの研修、コンサルティングですが、被災地支援団体が行う地域防災事業にスタッフとして加わる、防災用品や災害時情報共有システムの販売をするなど、複数の仕事を組み合わせることでリスクヘッジしています。気持ちとしては、高齢者、障碍者をより広く助けたいです。しかし、現在の体力ではまだ、対価を支払うのが困難な受益者までは手を伸ばせないのが実状です。
福祉事業所を後押しする制度づくり
設立当時と比べれば、多くのご相談をいただくようになりましたが、「災害時も全ての人が安心してくらせる社会を創る」ためには、まだ歩みが遅いと思っています。今後、より強化していきたいのが、福祉事業所単独ではやりにくい、制度に働きかける取り組みです。
たとえば、2017〜18年にかけて静岡市と協働で「風水害チェックリスト」を作成しました。行政は定期的に福祉事業所を訪問して実施指導をしていますが、その際に風水害への準備状況をチェックすれば、CoActとつながっていない法人の防災を支援でき、より多くの利用者の命を救うことにつながります。
静岡市とは、「空振り表彰制度」の構想も進めています。ここで言う「空振り」とは、風水害の警報が出て避難しても、実際には災害が起きないことです。ただ、たとえ「空振り」となったとしても、避難する習慣をつけないと、本当に災害が起きる時に助かりません。ですから、行政と一緒に、空振りを積極的に評価することで、福祉事業所の取り組みを後押ししようという試みです。全国に先駆けた好事例となると思います。また、空振りについては、損保会社が自治体向け空振り保険を販売しており、福祉事業所版にアレンジできないかと損保会社に提案中です。
平時の体制支援で、災害への備えを
北海道胆振東部地震の時、現地でお手伝いする機会があって、自分の仕事の枠を少し広げることをやらせてもらい、CoActの仕組みを静岡県外でも広げていきたいと思うようになりました。それから、eラーニングシステムにチャレンジしたいです。研修依頼をいただいても、タイミングが合わずにお断りすることがあり、心苦しく思っていました。それに、システムを構築しておけば、災害時に遠隔からでも相談に応じられる基盤になるので、ぜひ実現したいと思っています。
最近は、BCP以前に、平時の事業継続をサポートすべき福祉事業所があると感じています。慢性的な人手不足に陥っている福祉事業所は、災害時、特にハイリスクです。なかでも、優先的にアプローチすべき事業所はどこかと考えると、外国人技能実習生を受け入れている福祉事業所は人手不足である場合が多いので、技能実習生の支援をきっかけに、福祉事業所の課題解決に貢献できないかと考えています。
(文責:エコネットワークス 近藤・渡辺)
今回の「社会事業家100人インタビュー」ご参加費合計のうち8,000円は、はとりきっずぴあへ寄付させていただきました。