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【レポート】『社会事業家100人インタビュー』(特)北見NPOサポートセンター 谷井貞夫 氏
第27回『社会事業家100人インタビュー』
「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」
2014年5月23日(月)19時~21時
於:(特)ソーシャルビジネス・ネットワーク(SBN)事務所
ゲスト: 谷井貞夫様 (特)北見NPOサポートセンター 理事長
~北見に学ぶ地域社会のフレームづくり~
<プロフィール>
大学卒業後、建設会社の技術員として23年間、全国各地の建設現場を経験した後、中途退職して北見市に帰郷。人口12万5千人の北海道オホーツク海沿岸部の市で、民設民営の中間支援組織として北見NPOサポートセンターを設立。
NPOや市民活動の支援にとどまらず、地域の高齢者支援と子育て支援を同時に行う駄菓子屋併設のグループホーム兼デイサービス施設の開設や、障碍児を持つシングルマザーのためのカフェなど、地域の課題・住民の課題に即して地域づくりを進めた結果、複数の「地域共生型福祉施設」の開設を手掛け、幅広い事業を展開している。
<今回のインタビューのポイント>(IIHOE 川北)
地域社会の課題に向き合う中間支援組織が、住民のくらしにどう関わり、地域社会のフレームづくりをどう進めていくか。その構想をどうやって実現させたのか。地域の「コーディネーター」の役割とは何か。地域づくりや市民活動の支援に関わる人はもとより、地域密着型、共生型福祉のあり方を模索する人にぜひ学んでいただきたい。
信用は「目に見える」もので得る
北海道北見市は、オホーツク沿岸では最も人口が多く、都会からの転勤者やUターン者もいる中堅都市です。とはいっても、高齢化を背景に地域にニーズがありながら、それを支えるNPOの数が今以上に増えることは余り期待できず、また、NPOの中間支援組織が指定管理者となるような施設もありません。そんな中で、我々、北見NPOサポートセンターが担うべき仕事は、今、活動しているNPOが、より地域からの信頼を高めて、より地域に大きな影響を与えられる団体になるよう成長を促すことだと考えています。
NPOが良い活動をしていても、地域の人はなかなか評価してくれませんし、理念や言葉だけで信用してもらうことも難しいです。地域の人の信頼を得るには「目に見える」ものも大切です。2008年頃までは、北見市のNPOは小さな一軒家を借りて活動しているような小規模なところが多く、大きい団体でも年間予算3千万円程度。やりたいことがあっても、地域での認知度も低く、どうしたらいいだろうというのが共通の悩みでした。地域にニーズはあるのだから、それに対して何をやりたいのかというイメージは、常に膨らませていました。
そんなときに、道庁からある法人に電話があり、厚生労働省が実施する地域介護・福祉空間整備等交付金について知りました。高齢者と障碍者、子育て中の人、片親家庭等を複合的に支援する福祉サービス事業のための施設の新築・改築費用を3千万円まで交付するというものです。北見NPOサポートセンターは、北見市と近隣の網走市で、NPOがその交付金を上手く活用して地域で必要な事業を新しく始めたり、運営していくことを手伝ってきました。現在、北見市周辺では、4法人7施設が交付を受けて、それぞれの地域のニーズに応える共生型事業を運営しています。
2011年に新設した夕陽ケ丘オレンジスタジオは、(特)耳をすませばが運営しています。有償ボランティアによる子どもの一時預かり等子育て支援を基盤に、スタジオでの運動教室や野菜ソムリエによる料理教室、健康づくりの講師派遣等で、健康コミュニティづくりを目指しています。きれいな調理室を使って、農協や地域の経済団体を巻き込んで実施した「アラフォー婚活クッキング」は大変好評でした。
(特)とむての森は居宅介護事業等の高齢者、障碍者支援を行っており、北見市では老舗のNPOです。2008年に交付金を活用して下宿アパートだった建物を改装し、共生型多機能施設「ふれあい@とむてホーム」を始めました。グループホームではなくて、独りでは生活困難な高齢者や障碍者がサポーターとともに生活する住居です。
2012年には就労継続支援B型事業として、障碍者の就労・研修の場となるベーカリーカフェローフをオープン。北見市の特産の玉ねぎを使ったオニオングラタンや香味野菜とビーフシチュー等の料理は地元のグルメ雑誌に取り上げられ、北見市内では話題のカフェになりました。この場所が障碍者支援を目的としている場所だとは知らないお客様もたくさんいます。そういう印象を与えない外観や内装にこだわりました。
施設の見た目が立派であることやセンスが良いことは、地域の人からの信用を高め、その団体に関わりたい、利用したいという気持ちをおこします。活動を地域の人に見られることで、団体もまた、成長できます。各団体が実現したい「安心な社会のイメージ」を「見える化」することで、団体が本当に信頼されるNPOへと成長していく、その過程の最初のドライブに、交付金を使っています。いずれの団体も、事業を継続する工夫は自分達でおこない、イニシャルコストにのみ公的支援を戦略的に活用しました。
理想の地域の姿に向けて準備する
地域介護・福祉空間整備等交付金は、市町村から国への提案事業に対して認められるもので、市町村と施設を運営するNPOが協力して申請する必要があります。市町村とNPOの間に、高齢者支援と共生の分野で地域にニーズがあることに共通の理解があれば、どこの地域でも申請できるのですが、過去の交付実績をみると、自治体によって相当な偏りがみられます。これは、この交付金活用に対する市町村の積極性に左右されているためといえますが、交付を受けると最低10年間は施設を継続できなければ、交付金を国に返還する義務もあるため、慎重にならざるを得ない市町村の姿勢も理解できます。そんな市町村に対して、地域のNPOの信用保証を行うのが、我々のような中間支援組織の役割であり、また、10年間運営を継続していけるよう必要なマネジメント支援を行うことが仕事だと考えます。
新築・改築費用に一施設あたり3千万円。もともと、介護事業者向けの交付金なので、高齢者支援は必ず事業に入れる必要がありますが、障碍者、子育て、シングルマザー、どのような組み合わせでもよいので共生型支援に使うことが条件です。地域に共生型のニーズが無いわけがないのです。自分達だけではできませんが、支援を担えるNPOと市町村の理解があれば自由度高く使える予算です。この交付金を受ける前は、年間予算3千万円だったNPOが、現在では2億円を超え、道内でも有数の団体に成長したところもあります。
実は、最初に共生型事業の提案をしてみないかと声がかかった時点で、締め切りまで1週間程の時間しかありませんでした。見積書や図面の作成に奔走しましたが、私の建設業界での経験も活き、中間支援組織として本来の仕事をしたと思います。地域のNPOとともに、こんなところで、こんなことができたらいいね、というイメージを膨らませていたからこそ、急な話にも対応でき、応募することができました。
準備がなければ、手を挙げることもできません。チャンスの神様の前髪は絶対に捕まえる。理想とする社会のイメージは、実現できる、出来ないにかかわらず、準備しておくことが大事だと改めて思いました。現場のNPOは日々の活動で精一杯になりがちですが、第2、第3のチャンスのために、どうしようというイメージは常に考えておけと、地域で言いきかせています。準備を怠らなかった団体は機会をつかんでいます。
地域の資源を組み合わせる
前述の(特)とむての森では、カフェが入居している2件目の共生型施設「ふれあい@あったかホーム」には、高齢者や自立を目指す障碍者のための居住と、障碍のある子どもを持つシングルマザーのための住居があります。母親はカフェで働きながら子どもと暮らすことができます。また、3件目の「ふれあい@しゅんこうホーム」では高齢者、障碍者とともに暮らす大学生を募集し、近隣の大学と提携して、学生が安く住める部屋を提供しています。同時に、北見工業大学、日赤北海道看護大学の学生ボランティアをコーディネートする事務局もおこない、学生たちによる除雪や草刈活動は地域の独居高齢者や町内会に喜ばれています。
カフェに相談に訪れる親御さんたちの障碍のある子ども達が成長したら、カフェだけで雇用し続けることは難しいので「みんなの畑こんね」を作って、北見市と農林水産省から5千万円の予算を受け、農業での福祉的雇用に取り組んでいます。
(特)みんとけあは訪問介護・居宅介護事業を展開する事業所です。高齢者施設「地域共生ホームかえで」に駄菓子屋を併設し、高齢者と子ども達のふれあいの場づくりをしていることが特徴です。また、「ライフシェアきらり」では、アートな演出で個性的な店舗を、障碍者の就労継続支援B型事業として運営し、隠れ家的な雰囲気のある場所でサンドイッチやスープを提供しています。この施設では、シングルマザーは就労ができても試用期間が終わるまでは安定した住居を確保することが難しいという悩みを受け入れ、試用期間の間も住むことができる居住スペースを提供しています。
(特)ふれあいインさろまでは「街の駅わかさ・のどかⅡ」を設立。高齢者や障碍者、地域のだれもが助け合う共生を目指すコミュニティカフェを開いていて、地元の食材をつかったかぼちゃ蒸しパンの作成など、生産的な活動を地域のおばちゃんを集めて行っています。
7施設に共通点は無いようにも見えますが、どの施設もその地域の事情にあわせて必要なことを行っているので、初期費用があれば、自分達で継続できるのです。
最後に、北見NPOサポートセンターの事業を紹介します。地域のNPOを支援する仕事の他、金融機関や中小企業診断士、大学、野菜ソムリエ等の専門家の協力を得て、地域資源に付加価値をつけて都市部で販売し、新たな特産物を創ろうという事業に参画しています。唐辛子、スープ、ジャム等をつくり、東京都江東区の区民祭りに出展したところ、3日分として用意したものが1時間で売り切れました。市場の面白さを発見した地域の人たちに、商売に対する色気がでてきて、雰囲気が変わってきています。
また、農林水産省の補助事業で「農を活用した共生地域社会づくりプロジェクト」にも取り組んでいます。地域の空地を利用し、農業をしたい元気な高齢者に生きがいとしての農作業をつうじて地域コミュニティに参画してもらい、地域の健康を高める狙いがあります。生産物は加工して販売、その収益は地域に還元する助け合いのしくみづくりの全体のコーディネーションを北見NPOサポートセンターが担っています。
様々な資源をコーディネートするのが中間支援組織の仕事ですし、経済団体や大学、住民組織等、多様な人達と一緒に事業に取り組むことで、NPOに対する信用も徐々に得ているという手ごたえもでてきました。
(文責:前川)