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【レポート】『社会事業家100人インタビュー』沖縄リサイクル運動市民の会 古我知浩 氏
第29回『社会事業家100人インタビュー』
「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」
2014年5月28日(水) 19時~21時
於:(般社)ソーシャルビジネス・ネットワーク 会議室
ゲスト:古我知浩さん 沖縄リサイクル運動市民の会 代表、(特)エコ・ビジョン沖縄 理事長
<プロフィール>
沖縄生まれの沖縄育ち。学生時代にシルクロードやヨーロッパを放浪し、世界の貧富の差を実感。1983年に沖縄リサイクル運動市民の会設立に参画、翌年代表に就任。県内各地でのフリーマーケットの開催や不用品データバンクの開設等、市民が不用品を活かす場をつくり続けてきた。那覇市での月1回の「フリーマーケットinパレットくもじ」の定期開催は11年間(通算130回)に及んだ。そのほか有機農産物販売や資源回収事業者によるリサイクル事業組合設立の支援、那覇市NPO活動支援センターの運営等、多岐にわたる事業を展開。また、子どもたちが自分で考えることを目的に、環境教育プログラムの「買い物ゲーム」を考案。環境学習支援サービス実施体制を構築し、学校で出前授業を続けている。95年には、食品循環養豚プロジェクト「くいまーる」を立ち上げ、食品残渣の飼料化・堆肥化のサービスを事業化し、「くいまーる事業協同組合」を設立した。(独法)国際協力機構(JICA)の委託事業では、途上国への廃棄物管理の技術支援にも取り組んでいる。
<今回のインタビューのポイント>(川北)
古我知さんは、30年以上にわたって、沖縄で環境問題解決へのさまざまな取り組みを進めてきた。地域密着のエキスパートだけが持つノウハウや具体的手法は、現在発展途上の国々に移転され、着実に根付き始めている。自分の団体だけで進めるのではなく、時間がかかっても、外部のリソースを活用し、ステークホルダーを巻き込み、人材育成しながら、事業として成り立つようデザインしていくヒントを得てほしい。
那覇市の「ゴミ非常事態」に、市民として向き合う
80年代初め、市民がゴミ出しのルールを守らず、分別しないまま毎日出したり、ゴミ集積場でないところに捨てたりするので、野良犬や野良猫がゴミを荒らす、歩道が通れなくなるなどの状況が市内各地で発生していました。ゴミが多すぎて焼却が間に合わないため、そのまま最終処分場に埋め立てた結果、害虫の大量発生や汚水の流出、ひどい悪臭などによって、近隣住民による抗議運動がおこっていましたが、行政はなかなか重い腰を上げません。そこで、市民の立場でこの問題に取り組みたいと思い幾つかのプロジェクトを立ち上げました。
沖縄リサイクル運動市民の会(以下、沖リ)を設立した当時(83年)は、環境問題に取り組むことが事業として成り立つとは考えられておらず、周りの人からは「政治家になりたいのか?」「公務員になったら?」などと言われました。自分としてはそんな気持ちはまったくなく、おかしいなと思ったことを、できる範囲でやりながら食べていければ、もしかして幸せになれるかもと思っただけです。ただし(余暇の活動としてではなく)最初から本業として取り組んだので、事業としてまわしていけるようにしなければという意識はいつもありました。
沖リのミッションは、「エコロジカルな市民社会の創造」。環境問題をはじめ、課題に気付いた市民自らが提案し、解決のために動ける社会をつくりたかったのです。そこで、学生や主婦のボランティアによる、各家庭から出されるゴミの量と内容調査、フリーマーケットの開催、資源回収、レジ袋削減プロジェクトなどにどんどん取り組んでいきました。90年代初め、自治体による資源回収はまだ実施されておらず、行政に相談しても「燃える・燃えないの分別もできないのに、資源回収をやるなんて、10年はやい!」と言われたものです。
食品循環養豚プロジェクト「くいまーる」に立ちはだかった4つの壁
ゴミ調査の結果、家庭や店舗から出る生ゴミが、ゴミ全体の3割以上を占めていることがわかりました。また、賞味期限が過ぎたという理由で、さっきまで売り場の棚に並んでいた食品が大量廃棄されている状況を目にし、食料自給率が低い日本でこのようなことはあってはならないと強く感じました。そこで考えたのが、食品循環養豚プロジェクト「くいまーる」です。商店街やスーパーの店舗から出た生ゴミを分別・回収し、飼料化して豚を育て、豚肉として販売するというアイディアは素晴らしいと思ったのですが、事業化には4つの壁が立ちはだかりました。
(1)利害関係者から協力を断られた…
関係者に協力をお願いしにいったところ、お店の人からは「商売でやってるんだから、ゴミ分別にさける人手なんかないよ」、収集業者からは「分別して収集するなんて、コストがかかりすぎてダメ」、畜産業者からは「肥育がたいへんだし、生ゴミで育てた豚は売れない」と、ことごとく協力を断られてしまいました。この事業は沖リ単体ではできないので、リサイクルの環を完結させるには利害関係者の協力が不可欠です。そこで、あきらめず何度も通って説明し、協力をお願いしました。結局、この「説得」には1年半ほどかかりましたが、徐々に「実験的になら協力してもいい」という了承を得ることに成功したのです。
(2)お店での生ゴミ分別のシステムづくりに苦労…
スーパーのパートさんたちに生ゴミ分別をお願いするのですが、言っただけでうまくまわるはずがありません。どうやったら集めやすいか、分けやすいかなど、具体的な作業の流れを、現場でパートさんたちと一緒に考えながらつくっていく必要があります。そこで、何度もスーパーに通って作業を手伝いながら、少しずつ分別システムを確立していきました。
(3)飼料化の機器製造・開発に試行錯誤…
生ゴミを飼料化するための機械も、一から開発しなければなりませんでした。県の助成金を活用し、この事業に興味を持ってくださった大学の先生や環境コンサルタントの方に、専門的な部分について協力いただき、機器の製造は、地元の鉄工所の方にお願いしました。多くの方の協力を得て、はじめは失敗続きでしたが、安全性・栄養面でも問題がない飼料を、安定的に製造できるようになりました。
(4)社会実験を事業にするハードルが高い…
実験から事業にするには、超えなければならないハードルがいくつもありました。まず事業協同組合をつくり、関係者のネットワークを構築しましたが、省庁からは、廃棄物処理法・畜産法・食品リサイクル法等、法律への適合も要請されましたし、この事業によって悪影響を被る企業から妨害を受けることもありました。
もともと、食べ物のリサイクルは非常にむずかしいといわれており、「くいまーる」のように、リサイクルの環を完結させる取り組みは、その当時はまだありませんでした。沖リに本プロジェクトに必要な専門的な知識がなかったこともありますが、あらゆる面で、外部のプロフェッショナルの方々から協力を得て進めていきました。事務局として、資金調達や利害調整など、たいへんなこともありましたが、事業化への道筋を早い段階でつけるという意味では、最初から外部を巻き込めたことはよかったと思います。
ゴミの出し方のマナーもそうですが、大人になってから啓発するのではなく、子どもの時から環境への意識を高める必要性を痛感し、体験型環境学習プログラム出前授業「買い物ゲーム」(注)を開発しました。99年の開始以来、国内外の約3万人が体験しています。
(注)詳しくはウェブサイトを参照。http://www.ryucom.ne.jp/users/kuru2/kaimono/001.htm
このゲームは、5~6人のグループに分かれて、カレーをつくることを想定し、教室の後ろに設置した模擬店舗でカレーに必要な材料を人数分買い揃えるところから始まります。この段階では、お釣りの多いグループが勝者です。続いて、材料についてくる容器や包装に着目し、ゴミと食べものを分けてみます。おつりからゴミ処理の費用を引いた残額が多いグループが、最終的な勝者になります。さらに、ゴミの量や質、処理方法やそれにかかる費用、環境への影響を知り、ゴミを減らすための工夫を考えて発表するという90分のプログラムです。
出前授業のスタッフは毎年公募していて、環境教育に関心のある人や子ども関係の活動に興味を持つ人が集まります。小学生の時に「買い物ゲーム」を体験した人が教える側になるという「人材の循環」も生まれてきました。大体いつも、ちょっと様子を見ようという人が9割、とてもやる気のある人が1割という感じです。この1割が誰なのかを素早く見抜き、育てることが大事です。人材育成という面では、モチベーションの維持が重要ですが、常に次のステップを見せて、段階を踏んで違うことに挑戦してもらえるように心がけています。私は、ヒントは出しますし、相談にも応じますが、答えを示すことはほとんどありません。結果的に、指示待ちではなく、「自分で考える人」が残ります。
この「買い物ゲーム」スタッフ体験がきっかけで、沖リの常勤職員になったり、他の環境団体を立ち上げたりする人もいます。ただし、沖リの職員になったとしても、「ここで一生」とは考えないよう、卒業を前提に各自のキャリアを考えるよう促しています。
海外へのノウハウ移転と国内の若者支援
現在、JICAの専門員として、国内で積み重ねてきた活動を海外展開しています。現地の行政やNGOと協力して、マレーシアでは買い物ゲームの普及、ベトナムでは行政のゴミ処理計画づくりへの協力、トンガではリサイクルビジネスの支援などを進めており、日本で試行錯誤しつつ進めてきたすべての経験が生きていると感じます。国ごとに状況は異なるので、画一的なメソッドの押しつけではなく、まずは足りないものを見つけ、補うための手法を考えながら、柔軟に対応していきます。
国内では今後、若者の、特にメンタル面の支援を進めていきたいです。特定非営利活動促進法制定以来、団体運営をきちんとしなければというプレッシャーによって、「モノ・コトを拡げていこう!」というような、当初持っていたパワーを失って、自信をなくしている人が多いように思います。志を持っている若者には、「もうちょっとゆっくりでもいいんだよ」と声掛けし、背中を押してあげたいです。個別相談を受けることは今も多いですが、もう少しオープンなかたちで展開しなければと思っています。
(文責:棟朝)