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【レポート】社会事業家100人インタビュー 有限会社エコカレッジ 代表取締役 尾野寛明氏
「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」
第36回社会事業家100人インタビュー
2015年1月8日(木) 19時~21時
於:(特)ETIC. ソーシャルベンチャー・ハビタット
ゲスト:尾野寛明様 有限会社エコカレッジ 代表取締役
<プロフィール>
1982年生まれ。学生時代に起業を志し、2001年に東京都文京区でネット古書店を創業し、2006年には本社をまるごと島根県邑智郡川本町に移転。過疎地のネット古書店として障がい者雇用にも取り組む。また、毎週末全国8カ所で、地域づくりの「実践塾」を運営し、どんな人でも空き時間で気軽に無理なく地域に参加できるしくみづくりを進めている。
【有限会社エコカレッジ】
住所:島根県邑智郡川本町大字川本529番地1/資本金:300万円/社員:4名/事業内容:インターネットを通じた中古専門書買取販売/事業免許:古物商許可 島根県公安委員会 第711119000335号/蔵書量:15万冊
【合同会社エコカレッジ】
住所:島根県雲南市木次町湯村876番地/設立:2014年5月/代表:尾野寛明(代表社員)/資本金:100万円/社員:13名(職員4名+利用者9名)/事業免許:島根県障害福祉サービス事業者指定第3211400225号 ※福祉専門に設立された法人で、有限会社エコカレッジの100%子会社
【その他の主な役職】(特)てごねっと石見 副理事長、(特)おっちラボ 副理事長、(特)農家のこせがれネットワーク/監事、総務省 地域力創造アドバイザー
<今回のインタビューのポイント>(川北)
カリスマが率いる地域づくりには、持続可能性がなく、他地域への応用もきかない。地域も、そのリーダーも、絶対的な存在ではなく、むしろ相対化して、特性が共通する地域の先進事例から学び、応用すべきだ。川本町での実践を、それぞれの地域特性に合わせて進化・適応させながら他の地域にも展開し続ける、尾野さんの取り組みからヒントを得てほしい。
古本好きではないのに、古本屋経営?
私の起業への思いは、高校生の時、父親が亡くなったことから生まれました。大企業でシステム統括部長をつとめていて2000年問題で激務に追われたため、がんの発見が遅れたのが原因でした。「こんなことになるなら、人に使われる立場ではなく、最初から社長になる!」と決意したのです。
古本屋で起業、というと、「本好きが高じて、蔵書の販売を始めた」とか「古本屋めぐりが好きで、自分でお店をやってみたくなった」というような動機がほとんどだと思いますが、私の場合はまったく違って、ビジネスの種としての古本への純粋な興味から始まりました。
大学生の時、授業で必要な教科書があまりに高価なので、キャンパス内で不要な教科書を学生から買い取り、販売する教科書リサイクルの団体を立ち上げたところ、なかなか反応がよく、本格的にビジネスとして進めてみようという意欲がわきました。そこで、当時大学の先輩が学生店長をしていたブックオフ目白駅前店で「押しかけインターン」として、古本について集中的に勉強しました。また、他大学のキャンパスでもゲリラ的に教科書買い取り・販売してみた結果、全国に、教科書だけでなく、大学の先生が必要とするような中古専門書のニーズがあることがわかってきました。古本屋は仕入れが命です。先輩から譲りうけたボックスカーで全国のブックオフ700店舗を回り、100円コーナーにある専門書を約1万冊仕入れました。当時はamazon.comがなかったので、楽天オークションの前身「Easyseek」でネット出品するなど、古本仕入れと販売に関する勉強と実践を並行して進め、資金がある程度たまったので有限会社にしました。文京区の白山通りに店舗兼倉庫を構えたのですが、家賃が高く、事業の継続に限界を感じたため、辞めるつもりで大学院へ進学しました。
過疎地で古本屋、という発想の転換
大学院では、地域振興をテーマとするゼミに所属し、研究の一環として、島根県邑智郡川本町を訪れる機会がありました。典型的な中山間地域の過疎の町で、商店街にあった書店も閉店していました。「私はインターネット通販で古本屋をやっているんです」と言ったら、「ぜひこの店舗を使ってやってくれないか」と。本屋だけはなんとか再生したいという地元の人の強い思いに押されるように、会社を移転したのです。
街なかの新刊書店も続々と潰れていく世の中で、過疎地で古本屋が成り立つわけがない、と普通は思いますが、過疎地の特徴を逆手にとると、メリットもたくさんあります。家賃は東京の100分の1。おかげで15万冊以上収容可能な700坪のスペース(元ミシン工場)を借りられました。年間を通して風が吹く地形のせいか、この倉庫の温度と湿度は本の保管に最適です。中古の専門書は、安く仕入れてもその価値が高まるまで長期間保管し、1冊平均1,000円で販売しています。これは通常のネット通販古書店の平均単価に比べ倍とされています。
以前は、専門書を買い取ってくれる古書店は珍しかったため、ブックオフなどで買い取りを断られた人から続々と連絡が入りました。その後、専門書の買い取りが普及してくると、次に考えたしくみは「ネットで見積もり」です。わざわざ問い合わせなくても、書籍のバーコードの数字を入力すると、すぐに買い取り価格がわかるようにしました。
直接の通販だけでなくamazon.comでも販売しており、実はこちらが売上の8割を占めます。通販にとってありがたいのは、ゆうパックや宅配便が、過疎地であっても集荷・配達に来てくれることです。
古本を活用した地域貢献のかたち
地元の人たちから、気軽に本を読めるスペースが近くにないことを聞いていたので、何か貢献できないかと考え、雲南市木次町の公共施設の喫茶スペースに、文庫本などの閲覧コーナーを寄付しました。設置以後、喫茶の売り上げが1~2%上がったそうです。また、益田市美都町の酒屋内のコミュニティ・スペースで月2回開催されている健康づくり講座では、古本を無償貸出しています。一般的に、男性はこのような講座にはなかなか参加しないものですが、本を目当てに参加する人が増えてきたそうです。このように、古本はコミュニティを活性化するツールとしても、役立つのです。
また、古本の仕入れ、振込・入金管理、登録、棚の整理・掃除、受注、梱包、発送という一連の流れで発生する業務には、いろいろな負荷の程度や種類があり、障がいを持つ方々にも取り組みやすい業務です。09年から雇用を開始していましたが、14年5月に島根県から就労継続支援A型事業所(注)として認可されました。古本関連業務だけでなく、地域の豊かな資源を活用して、干し柿づくり、とうがらし栽培、築100年の古民家メンテナンスなども手掛け、一人ひとりの障がい特性に合った業務のアレンジができるよう、心がけています。
(注)参考:http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-21.html
仕事を自ら創出できる人を過疎地に呼ぶためのしくみづくり
過疎対策として、定住促進の取り組みは全国各地で行われていますが、空き家の紹介はできても、その地に仕事がなければ、特に若い世代にとっては住み続けることはできません。そこで、働き場や仕事を自ら創出できる人材を地方に誘致するための取り組みも進めています。
江津市では、(特)てごねっと石見が事務局となり、賞金100万円のビジネスプランを公募したところ、それまでの地道な人材交流の取り組みによって培われたネットワークのおかげで、30人から応募があり(「江津市ビジネスプランコンテストGo-Con」)、駅前の空き店舗が埋まるなど、大きな成果がありました。その後、全国各地で同じようなコンテストが開催されましたが、応募が少なく、ことごとく失敗に終わりました。
このことで、地域で人材育成のしくみづくりからやらないとだめだ、と気づき、「地域づくり実践塾」を、島根県雲南市・江津市を皮切りに、川本町、岡山県津山市・笠岡市、宮城仙南地域、石川県七尾市、香川県高松市でも始めました。会社を辞めずに地域で半年間学んで、ビジネスプランをプレゼンテーションできるようにまでするプログラムです。塾を続けていくと、OB・OGのネットワークから、外部への情報発信が活発になり、「あそこに行くとおもしろそうだ」と感じさせる求心力や競争意識が生まれるのです。私も、「この人とあの人はつながるべきだ」と思ったら、丁寧に責任もってマッチングするよう心がけています。
ただし、外から優秀な人材が入ってきても、地元の人たちとの関係づくりがうまくいかなければ意味がないので、特に地元の若い人たちには、外部から入ってきた人と住民との間に立って、通訳として活躍してほしいと思います。雲南市の(特)おっちラボは、若者と地域の活動を支援するため、市が主催する次世代育成事業「幸雲南塾~地域プロデューサー育成講座~」の塾生が中心となり、2014年4月にスタートしました。こういった拠点があると、外部からアクセスしやすいし、地域との融合もスムーズに進んでいきます。
地方と都会 の「二地域居住」のバランス
私は、東京と島根を1週間おきに行き来する「二地域居住」 中です。また前述の通り、塾などで出張も多い毎日ですが、アドバイスするだけのコンサルタント的立ち位置ではなく、川本町に本社を置き、事業を継続している実践者であることが強みだと思っています。古本屋の日常業務については、地元で雇用した女性5名が中心となって、話し合って決めてくれています。私はもともと人に任せるのが苦手で、何でも自分でやってしまうタイプなので、不在がちのほうが、かえっていいのかもしれません。
地域づくりのコーディネートは、行政のことも地域のことも外部のことも知らないと、うまく進みません。行政に近い立ち位置で積極的に仕事をしてみると、行政のことがよくわかってきます。時になだめ役にまわり、共感し、それぞれの得意なところを引き出し、成果を生み出していくのです。私は、全国各地に地域づくりの手法を横展開しつつ、誰でもどんな地域でも応用可能なモデルを編み出したいと考えています。
都会から地方へ飛び込むのはとても勇気がいることです。この地域でやっていけるという確信が持てるまでは、逆に言えば、地方からお呼びがかかるまでは、仕事は辞めないほうがいいとアドバイスしています。都会の生活とかけもちで土日は地方へ行くような、「ダラダラ起業」スタイルもありです。
「プロフェッショナルになるまではおおよそ1万時間必要だ」とよく言われます。その内訳を 1日7時間×200日×7年とするのか、1日17時間×300日×2年とするのか、1日3時間×365日×10年とするのかは、人それぞれです。また、ある地域でうまくいかなくても、他の地域だったら大丈夫かもしれません。3~4か所同時並行でやってみるのもひとつの手でしょう。
(文責:棟朝)