「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」
第3回『社会事業家100人インタビュー』
ゲスト:川添高志(かわぞえたかし)氏
ケアプロ株式会社 代表取締役社長
<プロフィール>
2005年3月 慶應義塾大学看護医療学部卒業。大学3年と4年に米国メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)で研修を受ける中で、リテール・クリニック(Retail Clinic)やインストア・ヘルスケア(In-Store Healthcare)といった流通・小売店舗における医療・健診の業態を知る。在学中より経営コンサルティング会社勤務。その後、東京大学病院で看護師として勤務しつつ、東京大学医療政策人材養成講座にてケアプロの事業を構想し、優秀成果物”特賞”を受賞。慶應義塾大学SFC Entrepreneur Awardで”The best new markets award”を受賞。NEC社会起業塾7期生。現在、慶應義塾大学KIEPおよびソーシャルベンチャーパートナーズ東京より支援を受ける。
<今回のインタビューのポイント>
・「見てしまった者の責任」として事業をスタート
大学生の時、米国の大型スーパーマーケットで行われていた
簡易健康診断を見て、日本の社会課題解決にも必要だという使命感を抱く。
・周りの力をうまく借りて、ビジネスモデルを展開
単独での店舗拡大にこだわらず、代理店を活用してイベントに出展することで、
多様な健診弱者との接点をつくり、データの蓄積から生まれたデータベースの分析・活用も進める。
・将来を見通し、成長戦略を描く
近い将来、市場が拡大することを見据え、資金調達、人材育成、競合対策
などの組織戦略を社員とともに考えていくことで、社長がいなくても会社が回るしくみをつくっている。
「見てしまった者の責任」として事業をスタート
「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」というミッションのもと、日本初の事業を相次いで展開しているケアプロ株式会社(以下ケアプロ)の基本は、「セルフ健康チェックをワンコインで」というビジネスモデルです。
大学生のとき、米国の大型スーパーマーケットの一角で、簡易的な健康診断と治療が行われているのを見て、「これは日本でも実現すべきだ」と一種の使命感を感じました。医療費が非常に高いため病院に行くことを避ける人や、無保険者も多い米国と社会的背景は異なるとはいえ、日本では、生活習慣病が医療費の約3割、死因の約7割を占めています。同様のサービス提供によって、個々の患者さんの健康増進だけでなく、医療費を抑制することで、社会保障制度の維持にも貢献できると考えました。
過去1年以上健康診断を受けていない「健診弱者」は、全国に約3,300万人いると推計されます。その多くは、自営業者やフリーター、主婦、外国人など。そのような人たちに足を運んでもらうために、最初の店舗を「中野ブロードウェイ」という商業施設内にオープンしたのは、NEC社会起業塾に受かった直後の2008年11月でした。保険証や予約が不要という簡便さ、ワンコインで利用できる上、その場で結果がわかる手軽さが受け、5ヵ月で会員数が3,000人を突破し、2011年8月には横浜駅内(東急東横線正面改札前)にも出店しました。
周りの力をうまく借りて、ビジネスモデルを展開
しかし、ケアプロ単独での店舗拡大は、固定費がかかりすぎ、全国の健診弱者のニーズに応えていくことがむずかしいのが現実です。そこで、ショッピングセンター、競輪場、パチンコ店、温浴施設、フィットネスクラブ、ドラッグストア、保険ショップなどで健診サービスを提供する、イベント型のビジネスモデルをスタートしました。発注主にとっては、来店客へのサービスや集客ツールとしての位置づけで、各業態のネットワーク内で横展開がしやすいこともメリットと感じてもらえます。
ケアプロでは、これらのイベントの受注・実施については、代理店を最大限に活用して営業コストを削減するとともに、固定的な人件費を抑えるために、全国で非常勤の看護師の登録制度を設け、各イベントへの人員配置を臨機応変に行えるようにしています。また、各イベントの運営をパッケージ化して、現場で使用する備品キットや運営マニュアルを整備することで、どこでも均質な健診サービスを提供できるようにしています。
イベントから派生したビジネスモデルのひとつとして、治験会社とのコラボレーションがあります。ケアプロで受診する人に対して、「治験ボランティアバンクに登録すれば、無料で検査できますよ」と勧め、その健診費用は治験会社が負担するというもので、約3割の方が承諾してくださいます。さらに、各地でのデータの蓄積から生まれたデータベースの分析・活用も進めているところです。
東日本大震災が起きた後は、「被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト」(つなプロ)の一員として、被災地における生活習慣病の早期発見と予防のための検査活動を、複数の企業から検査に必要な物資や機器などの提供を受けて、宮城県内で行いました。その検査結果は、問題の早期解決に結びつくよう、近隣の医師や相談窓口などにつなぎました。この取り組みを通じて、訪問看護・訪問健診へのニーズは今後ますます高まると感じ、他地域でもスタートしました。
将来を見通し、成長戦略を描く
医師会や、その影響を強く受ける保健所との関係の難しさから、新しい試みがうまく進まないこともあります。しかし、自分の生活習慣を定期的にチェックして病気を予防することで、医療費が抑制され、ひいては保険制度を維持できる日本を実現するという大きな目標は、医師会も保健所も私たちにも共通のものです。近い将来、必ず市場は生まれます。海外展開も視野に入れて、資金調達の計画も複数ありますし、競合対策・人材流出を防ぐ準備も進めていきます。
内部の人材育成については、「ケアプロを一緒につくっていく」という気持ちのある人材に入社してもらい、まずはPDCAを個人レベルで、次はチームの一員として、その次は部門のリーダーとして、まわせるようになることで、着実にステップを上ってもらっています。
また、部門ごとに経営の意識を持ってもらうために、財務情報はすべて開示し、各々の部門は目標を設けて、いつまでに何をどこまでやらなければならないか判断できるように促しています。自分(社長)がいなくても会社が回るしくみづくりが、最も重要なことのひとつです。
(文責:棟朝)