【レポート】第50回 社会事業家100人インタビュー:(特)きらりよしじまネットワーク 事務局長 髙橋由和氏

社会事業家の先輩にビジネスモデルを学ぶ!
社会事業家100人インタビュー第50回

2016年9月7日(水)18時半~20時半
於:山形市市民活動支援センター

(特)きらりよしじまネットワーク 事務局長 髙橋由和さん 

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<プロフィール>
2002年にサラリーマンを辞めて、山形県川西町内の吉島地区社会教育振興会事務局長に就任。07年(特)きらりよしじまネットワーク設立、事務局長に就任。同会の活動により山形県公益大賞受賞(08年)、地域づくり総務大臣表彰(09年度)、荘内銀行ふる里創造基金地域貢献大賞受賞(12年)。おきたまネットワークサポートセンター事務局長、スポネットおきたま事務局、マイマイスポーツクラブのマネジャーなども務める。
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
地域の高齢者率が高まると、年金という「外貨」を地域で使ってもらえるかどうかが、地域の経済、つまりくらしの持続可能性を左右する。無償奉仕や義理人情だけでなく、お金を払ってでも受けたいサービスでお互いが支えあう、きらりよしじまネットワークの取り組みについて、特に人材育成面に注目してほしい。
 
住民自身が考えて判断し、地域経営の主体となる
山形県東置賜郡川西町吉島地区(注1)の全世帯が加入する特定非営利活動法人きらりよしじまネットワーク(以下きらり)は、地域のコーディネーターとしての役割に徹し、「地域住民があらゆる分野で、こころ豊かで一人ひとりが輝けるまちづくり」を目的として活動しています。
三世代同居率が全国トップの山形県(全国平均7.1%に対し同県は21.5%)では、家族間・地域内で助け合える状況がまだありますが、近い将来に起こることを住民自身がしっかり理解し、先を見て動いていかなければなりません。ただし、人口減少にともなう閉塞感や不安感をむやみにあおってもダメです。たとえ課題が大きくても、なるべく夢と遊び心をもって解決する方向に向けていきたいと思っています。「まだ誰もやってないこと」にこそ、人は注目しますし、お金もついてくるからです。
きらりは、行政からの要望でつくられた団体ではありません。2000年くらいから、地域のあり方についての議論を6名ほどの仲間と重ねるうち、目的ごとに組織をつくるこれまでの「分離型」の地域運営では立ちゆかないことが、だんだんわかってきました。小さな地域の中にさまざまな団体(注2)が存在すると、縦割りで団体間のつながりがないのに、担い手不足で役員は重複せざるを得ず、事業のマンネリ化によって若者の出番は減少し、団体ごとに余剰金を抱えている…などの多くの問題が発生するのです。形骸化した団体が地域の中にたくさんあっても、住民ニーズに細やかに対応できるはずがありません。
これに対して「一体型地域運営組織」なら、会議の集約化によって責任の所在が明確になるので、合意形成が速く、組織運営上の手続きも単純化・効率化できるうえ、行政との対応が一元化(注3)されるなど、メリットが多いと考えたわけです。
そこで、04年から住民を対象に、地域づくりを統治する優良な主体としてのNPO(=きらり)立ち上げについての説明会を開始しました。歴史のある数々の組織を分解しようというのですから、当然、自治会のリーダーなどからは反対されました。ただ、上記のようなメリットとデメリットを、漫画も使ってできるだけわかりやすく説明することに心を砕き、最終的には理解を得ることができました。
この説明の過程で痛感したのは、これまで、地域づくりのあり方について、住民自身が考え判断してこなかった、ということです。どの地域でも、計画や企画はコンサルタントなどの専門家や行政の役割、実行は住民の役割という分担に陥りがちではないでしょうか。分厚い資料に専門用語が多く含まれた、役所が示す案件すべてを理解するのは確かに大変で、つい判断を委ねたくなりますが、これでは、住民は主体性を持ちづらいですし、他人事として無関心に陥る可能性も高くなります。
まず、「自分で考えて決めていく」という作業を地域に根付かせることが必要だと考え、生まれた手法が「住民ワークショップ」でした。当時、地域の住民は、事務局が提示する内容についての承認や確認が主な「会議」には慣れていましたが、自由に議論して方向性を見出す話し合いには慣れていませんでした。30余年も続いた行政依存の中で、住民自らが考え行動するプランやアイディアを出し合う環境は、新鮮だったかもしれません。
(注1)川西町は、昭和の大合併で1町5カ村がひとつになった。人口約16,000人。その中の吉島地区は、人口約2,500人、725世帯、22自治会、高齢化率は32%(2016年4月末現在)。
(注2)地区公民館、自治会長連絡協議会、防犯協会、地区社会福祉協議会、衛生組織連合会など。
(注3)きらりと川西町は現在3つの会議でつながっており、きらりから、手続き上の事務作業の効率化について提案したり、地域の要望を取りまとめたうえで優先順位を付けて示すなど、機能的で対等な関係を築いている。
 
各地域での住民説明会の結果を踏まえて、06年には組織の改革と地区計画策定を実現し、07年にきらりの法人設立にこぎつけました。人口が減り続けている小さな地域だからこそ、人材と資源を集約し、住民のためのサービスを住民自身が創出していかなければ、地域の持続は不可能です。行政に依存せず、住民の愛郷心を育むことで多世代が交流し、くらしの課題を解決していくしくみをつくりたかったのです。
現在、きらりは常勤5名・非常勤23名(平均年齢34歳)の事務局が、住民のコーディネーター役となり、自主防災組織事業、介護予防と生涯学習事業、地産地消・交流事業、地域環境保全運動、子育て支援・青少年健全育成事業、地域のスポーツ拠点づくりなど全54の事業を運営し、住民活動を支援しています。全住民が事業の担い手であり利用者でもあります。各事業では、利用者からの参加費や月謝を収入とし、きらりからは、住民や企業からの寄付を原資とする「地域づくり基金」を、活動助成金として交付もします。申請によって、地域の団体や自治会など各事業体が競い合うことも大切だと考えています。
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「ニーズを聞く」と「解決をかたちにする」をセットで
最初の「住民ワークショップ」には、一本釣りで呼びかけ、15人の方に参加してもらいました。参加してくれたことへの心からの感謝を事務局から伝えたうえで、「住民として日ごろ感じている小さな不安・不満・意見はありませんか?」と問いかけ、意見を出してくれた参加者を、誉めるところから始めました。参加しただけで喜んでもらえる。意見やアイディアを認めてもらえる。否定されない。フレキシブルで自由な話し合いの運営に気を使いました。事務局は、その場で出されたさまざまな意見を整理しつつ、「では、解決するにはどうしたらいいと思いますか?」と問いかけ、参加者全員で考えていきます。たとえば、「地域活動に若者の参加が少ない」という声があれば、「若者に何をさせたいのか?」「若者は何ができるのか?」「若者は何を求めているのか?」などと聞き返していくわけです。
ワークショップを重ねていくうちに、驚いたことがあります。地域の課題を解決する主体が行政に対して「あれをやってほしい、これがないと困る」とただ要望するのではなく、住民が持つ資源(技術、時間、場所など)を地域に提供することで解決できないか、という思考にだんだん変わってきたのです。
これまで、住民のガス抜きの場がなかったところに、うまくこのワークショップが機能し、クチコミで参加者は増えていきました。テーマ別だけでなく、女性限定・高齢者限定などの枠も設けることで、偏りのない意見を拾っていきます。ワークショップはやりっぱなしではいけません。事務局は聞くだけに終わらせず、ワークショップや住民アンケートの結果を整理し、各小委員会→事務局会→理事会→総会という流れで上げて、具体的な企画に反映させていきます。この流れを見せることで、住民は、どこに行って誰に伝えたら解決に結びつくのか「合意形成」の形を理解し、ワークショップへの参加率もさらに上がるという好循環につながっています。
ワークショップはあくまでデータ収集のために行うものであり、「決める会議」ではないので、何を言ってもいいのです。ただし、ワークショップの企画時点で、出口を明確にする必要があります。この話し合いは何に反映されるのかが伝わらないと、次からその人は来てくれなくなります。「聞くしかけ」と「かたちにする」ことがセットになっているので、ニーズのくみ上げが続けられるのです。
たとえば、過去にこのような事例に取り組んだことがあります。ある高齢の女性から「嫁がつくってくれる(ハンバーグなどの)洋風料理の味になじめず困っている」という声がありました。これを一家庭の問題として片づけず、「おふくろの味とママの味の料理(対決)講座」を開催しました。各々の世代の得意料理をつくって試食しあうことで、ママ世代は、地域の伝統料理の美味しさを知り、夫が今、健康なのはおふくろの味のおかげだということにも気づきました。相談があった家庭では、お義母さんとお嫁さんが一緒に台所に立つようになったということです。
もちろん、ワークショップで否定的な意見や愚痴を言う人もいます。そんなときは、きらり事務局の若者がうまくいじる(突っ込む)ことで、「できない」「してほしい」で終わらないよう、楽しく前向きな改善案につなげるようにしています。大人世代にとっては、息子世代とのコミュニケーションは、楽しいものなのです。息子世代にとっても、父親には面と向かって言えないことを言える、貴重な機会となっているようです。
 
地域で人材を育て、地域に還元する
どこの地域で誰に聞いても「人材育成は重要」とおっしゃるのですが、「組織、活動にどのような人が必要なのか」が議論されていないことがほとんどです。地域で必要な人材は地域で育て、うまく世代交代させていかなければなりません。地域の中で認められて育つ環境が必要なのです。
きらりでは、19の自治公民館から半強制的にはなりますが、18~35歳の若者を推薦してもらい、事務局研修生となるまでに2年かけて育て、研修生としてさらに2年さまざまな経験を積ませます。晴れて事務局になると金バッジが支給され、地域の人たちからとてもほめてもらえることもあり、今では、大学を卒業したら事務局に推薦してほしいという予約が入るくらいです。
事務局は、地域の事業のコーディネーターですから、コーチングとファシリテーション研修の受講が必修です。また、事務局を経てマネジャーや理事になった場合は、外部から専門家を招いて、マネジメントとマーケティングについての研修を受けます。経営層の経営能力が安定すれば、事務局は安心して住民支援に力を注げるのです。
これらの研修で得たスキルは、きらりの活動だけでなく、各人が所属する会社やサークル、地域活動でも活用され、地域に還元されています。育った人材は、やがて自治公民館で若者を推薦する側にまわって、世代交代が進んでいくしくみとなっています。
また、地域活動にかかわる一住民として、そこで必要な知識やスキルを得るための研修の自発的な企画・実施もさかんに行われています。「俺が企画した研修に来ないか?」と周りの人を誘うことで、事業を一緒に進めていく仲間が広がるわけです。
そして、事業の成功にはPDCA(Plan‐Do‐Check‐Act)が必須という認識は一般的に広がってきていると思いますが、実際にうまく回していけるかは別問題ではないでしょうか。Pの時点でチェックシートをつくり、Dで月・半年ごとの進捗管理(C)を実施します。きらりの事務局は各段階でファシリテートし、確実に改善(A)へ結び付けていきます。このプロセスによって、当事者意識が醸成されるのです。
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外とつながりながら、すべての住民に出番をつくる
これまでの「地縁」だけで地域を維持していくのには限界があります。「俺の目の黒いうちは…」「俺の代でそんなことはできない/やめられない」などの声があがってくることは避けられず、どうしても停滞するからです。課題解決を狭い場で考えないことが大切で、外部の資源を受け入れながら、「志縁」(想いを持って集まった人)をゆるやかにつなげて知恵を出し合う縁(知縁)に変えていくことが必要です。
さまざまな住民の出番があれば、支えられる立場の人も支える立場になれます。認知症の方でも、居場所の中やサークルで教える側にたつ方がいます。フットケアのインストラクター制度で資格を取ることで信用と自信につなげ、リタイア後に地域で再デビューする方もいます。学童クラブでは、地域の高齢者が担い手となって、運営をサポートしたり、元学校の先生が不得意科目克服コースで勉強を教えたり、得意分野を生かして、読み聞かせをしてくれたり、お惣菜をつくって夕食用に販売したりなど、利用者(子どもとその親)のニーズに合わせて工夫し、事業を自発的に生み出しています。農業青年コミュニティ「農道百笑一揆」にはUターン者が多く、農業研修生受け入れや農都交流、商品開発・営業などを通して、若者が高齢者の所得向上もサポートしています。
事業継続のためには、外の支援を活用する視点も必要です。内にこもらず、自分たちの活動の外への見せ方を常に意識し、事業に共感してくれる人を増やし、拡げていくことが必要です。つまり、提案力と実践力がセットで問われる訳です。助成金を使うなら、その場しのぎの使い切りにせず、次の展開につなげていかなければなりません。
移住者・UIターン者の受け入れ態勢も大切です。ただ家を手当するだけでは定着してくれません。たとえば、町内会費が高いといわれることがありますが、その場合は、内訳や使途、集金方法などについてきちんと説明しに行きます。除雪など慣れないことについては自治会でサポートし、スノーダンプの押し方も教えています。また、最初から(副会長などの)あまり負担が大きくない役を担ってもらい、地域にはやくなじんでもらえるよう配慮しています。
住民ワークショップは、お金を出して外から参加者を呼んで開催することもあります。それが基で生まれたプロジェクトもありますし、定住してくれた人もいるのです。
 
まず外からの認知を高め、地域内の信頼を得る
特定非営利活動法人化してからの3年間が大変でした。それまでの地域組織や体制を法人化したことで、何がどうよくなったのか、内外から問われ続けたからです。そこで、地域活動からの利を感じた方々にラジオや広報誌で積極的にしゃべってもらったり、ケーブルテレビに各事業を取材してもらったり、全戸配布のきらりの報告書に、住民の顔や声をどんどん出し、活動を身近に感じてもらうよう心がけました。その結果、他校区からも注目を集め、来て教えてほしいという声をたくさんいただくようになり、おかげさまでよい関係を築けています。
また、きらりは比較的、女性・子ども・高齢者に手厚い事業を推進しているので、私の母親・父親世代の方々や、子育て中のママさんたちのハートもがっちりつかんでいます。きらりへの“反対勢力”は、私と同年代の男性が多いですが、彼らも、親御さんや奥さんから「きらりのおかげで助かっている」と言われると、黙らざるを得ないようです。
私自身は、「なぜまちづくりにかかわるか」の大義(愛と情熱)を持つことを大事にしていますが、それを後押しするのは住民の声です。住民が決めたことを真摯に支援するだけ。私がいなくても、きらりが回るしくみはほぼ整ったと思います。最近は「住民内発型地方創生」とも呼ぶべき、きらりのモデルを紹介するために他の地域に出ることが増えているので、「もう頼れない」と思ってくれているのではないでしょうか。

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