【レポート】『社会事業家100人インタビュー』(特)ケア・センターやわらぎ 代表理事 石川治江氏

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

第34回『社会事業家100人インタビュー』

~介護に「契約」を、ケアに「コード化」を~

  ゲスト: 石川治江様(特)ケア・センターやわらぎ 代表理事

 

<ゲストプロフィール> 

外資系組織で秘書を務めた後、喫茶店、居酒屋、手紡ぎ工房などを経営する傍ら、障碍者との出会いから介護・福祉分野に問題意識を持ち、1978年に生活支援ボランティア組織を発足させる。その後、1987年に非営利の民間福祉団体としてケア・センターやわらぎを設立。日本初の24時間365日の在宅福祉サービスを打ち出す。2009年、第1回Social Entrepreneur of the Year (SEOY) 審査委員特別賞受賞。現在、特定非営利活動法人となった同会代表理事、社会福祉法人にんじんの会理事長、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授、社会デザイン学会副会長、一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク理事。「困っている人を助ける福祉」から「当たり前に暮らすためのしくみづくり」を構築するための活動を続けている。

著書に『介護はプロに、家族は愛を。』(ユーリーグ株式会社発行)、『水辺の元気づくり』(理工図書株式会社)、『川で実践する』(学芸出版)などがある。

 

<今回のインタビューのポイント>(インタビュアー IIHOE川北)

授産施設を見に行き、そこでできた友人の外出のお手伝いをした体験から、駅へのエレベーター設置運動や、24時間365日の在宅福祉サービスを立ち上げられた石川さん。「専門性」ではなく「関係」の中のケアだと考えられていた当時の福祉の世界に、ケアをする者とサービスを受ける者との間で、何をどこまでするのかを明確にする「契約」の概念を持ち込み、ケアを138種類の作業に分けてケアをコード化した。ケースごとに管理する情報システムを運用するなど、利用者とサービス提供者との間の確認や、複数のヘルパー間での業務引き継ぎを革新的に効率化し、介護保険制度の骨組みに大きなインパクトを与えた。

その後も、サービスの質をどのように可視化したのか、事業を「マネジメント」するということはそもそもどういうことなのか、石川さんのお話からしっかりと学んで欲しい。

 

ヒト・モノ・カネ+「目的」 が私たちの経営資源

私はやわらぎを始める前に、喫茶店や居酒屋の経営もしてきました。「儲ける」ほうのアプローチは相当した。私にとって、それはそんなに難しいことじゃありません。ヒト・モノ・カネを回せばいい。NPOの経営も根っこのところはそう違わない。でも私たちNPO経営者には、もう一つの経営資源があります。それが「目的」。何のためにこの事業をするのか。何を以って仲間の共感を得るのか。ヒト・モノ・カネ+「目的」。そうじゃないと利益追及だけになってしまう。私たちは片手で利益をあげ、もう一つの手で「目的」を追う。その両手を動かしながらビジネスモデルをつくっていく。それがNPO経営の強さであり面白さだと思うのです。

 

既存の制度の枠外で24時間在宅ケアサービスを始める

私は障碍のある友人の外出のお手伝いをしたところから、駅にエレベーターを設置せよ、というエレベーター運動を始めました。その中で24時間在宅ケアサービスの必要性を感じて、1987年にケア・センターやわらぎを設立しました。当時はお金を介在させて障碍のある人のケアをするなんて、「障碍者をくいものにするのか」という声をずいぶん浴びせられました。

その頃は「介助人派遣制度」といって、資格の有無に関わらず介助ができて、介助人には行政から補助が出る制度がありました。一緒に運動をしてきた人たちの中にも、この介助人派遣制度でお金をもらっている人がいて、私が対価をいただいて24時間在宅ケアサービスをすると、その人たちの仕事を奪うことにもなりますから、ずいぶんと詰め寄られました。相手は多勢でこっちは1人です。「私が儲けるためじゃない。介助人派遣制度の枠の外で困っている人たちはたくさんいる。そういう人たちはどうやって生活すればいいのか。私はそういう人たちのつなぎ役になるだけだ」と言っても詰め寄られて、3日も取り巻かれると慣れてきて、5日目には、「今日で決着をつけよう」と覚悟を決めました。それで彼らにこう言いました。「あなたたちに私が決めたことをとやかく言われる筋合いはない。記録はとっている。出るところに出よう。あなたたちは介助人派遣制度の枠の中でやりたいならやればいい。でもそれ以外にも困っている人はたくさんいる。私はその枠の外でやる。もうこういうのは終わりにしよう」と。それ以降何も言ってこなくなりました。

そして東京都の立川市で、「24時間365日の在宅ケアサービスを始めます!」という花火を上げたわけです。新聞に載るようなイベントを開催したりチラシをつくったりして、利用者も介護人も集めていきました。

 

お金は組織の血液

それから立川など周辺13市町に、「行政でこれだけのケアをするとこれだけのお金がかかる」というデータを出して要望書をつくり、助成金を得るための市長交渉をしました。「ここの市町にはこれだけのニーズ・お困りの人がいる。市長としてこの人たちの生活を守る責任がある」と。ただ自分たちが何をしたい、という要望書を作ってもダメ。こだわったのはデータをちゃんとつくることです。それもただのデータじゃなくて、同じサービスを行政がやったらいくらかかるのか、というデータ。だからといって私たちのサービスを安売りするわけじゃないんです。自分たちは何をどれくらいのコストでできるのか、どうやってそれを実現するのか、自分たちのカードを出す、ということ。行政との交渉には自分たちのカードを持って、しつこくそれを見せて言っていかないといけない。漠然とした要望ではなく、具体的に策を見せていくことが必要で、「このサービスを実現するためにいくら必要か」を繰り返し伝えていきました。ある市長からは「350万円とか言ってないで、どうせなら1000万円とか書いたら」なんて言われましたが、「余計なお金はいらないから必要な分だけくれ」と言い続けてきました。

お金は、いわば血液のようなものです。たえず動かしてはじめて健全な体・組織になります。貯めていてもだめなのです。預金通帳を真っ黒にするぐらい、いつもお金を動かし、回して実績をつくっていく。金額は少なくてもお金が動いているということが大切。そうすればヒトもモノも動いている、ということだから。お金は道具の一つ、組織の血液なのです。

やわらぎをつくった時のお金は、自己資金(自腹)と助成金です。どこもやっていないことをしているから、その助成金に見合わないほどのニーズがきてしまう。特に難病や末期がん、ALS*などの重たいニーズ。うちは「どんなケースも断らない。地域を限定しない」という理念を掲げていました。でも新たなニーズが出てきた時に事務所で話し合いをすると、「このケースはやったことがないからやれない」という結論になりがちです。やれない理由はたくさんある。「じゃあどうしたらやれるか、やれる理由を考えようよ」とスタッフたちに言ってきました。やったことがないなら、経験してみたらいい。1ケースやってみよう。そうすればそのあとはやれるようになる。「やるためには何をクリアしたらいいのか」という思考になる。それがNPOの強さです。

* ALS:筋委縮性側索硬化症。重篤な筋肉の委縮と筋力低下をきたす神経変性疾患。

見えないサービスを可視化してしくみをつくる

サービスは人の目に見えないもの。誰がどんな質のサービスを提供しているのか、他の人には見えないし、比較もできない。だから見せる努力をしていかないといけません。見えないサービスをどうやって見せるかを私はずっと考えてきました。それでできたのが、ケアメニューのコード化。ケアの内容を138種類の作業に分けてコード化し、ケースごとに管理する情報システムをつくりました。それらをもとに、ケアをする者とサービスを受ける者との間で、何をどこまで行うのかを明確にするための「契約」をするのです。契約者との間で提供するサービスをあらかじめ決めておくことで、複数のヘルパー間でもサービスの質を保てるようにしました。そのほかにもISO9001認証の取得などいろいろなことをして、サービスを可視化して質を高める具体的な努力をしてきました。

それでも時間がたつと、最初につくったしくみは陳腐化してしまいます。職員の力量が上がってくれば、従来のしくみではサービスの質を上げられなくなるし、介護保険の制度も変わっていく。内部のしくみだって、どんどん変えてグレードアップしていかなければなりません。そのしくみをつくっていくこと、変えていくことは、たいへんな作業です。企業であれば、全体の収入の中からまず会社の利益を引いて、残った部分でヘルパーなどへの人件費の金額を会社側が決めていくことができるでしょう。でも、うちはその逆。介護保険の制度が変わるたびに全ヘルパーに説明をし、全体でいくらもらえるのか、やわらぎのコーディネーター料としてこれだけとらないとコーディネートができないということ、さらに事務局費用はこれだけ、ヘルパーに渡せる分はこれくらいになる、というふうに全てをオープンにして議論してやってきました。そうやって仲間と一緒に考えてしくみをつくっていくということは、とても手間がかかるけれど、すごく大切なこと。しくみづくりは誰か1人が図柄にしてつくるものじゃない。そんな格好いいものなんかじゃありません。もっと面倒くさいこと、愚直なことの積み重ねなのです。でもその愚直な面倒くさいことをしないと、宝物を逃がしてしまうことになります。一緒にしくみをつくってくれる人たちを組織の中心に据える。いろんなしくみを作ったり、サービスの可視化をしたりしても、結局は動かすのは人ですから、その人自身の中にどれだけその意味が理解され、血となり肉となるか、それが課題なのです。

 問題と問題点を整理して課題設定する

課題は人だと言いましたが、課題の設定を自分たちの組織で考えるときには、あるべき姿と現在の姿を明確にして問題と問題点をきれいに整理することが必要です。「問題」というのは例えば「商品が売れていない」ということ。その問題の中には価格や売り方、認知度、競合の多さ、経済情勢など様々な「問題点」があります。問題の中に問題点がたくさんある状態。そこから課題設定するためには、自分たちが解決できる問題点が何かをまず仕分けしなければいけません。そこではじめて「課題」が設定できるのです。課題が設定できたら優先順位を決めて何から取り組むかを決めていくことができます。それがわかると、構造的に物事を考えられて、問題そのものに慌てふためくことがなくなります。

やわらぎをつくってきた過程もこの課題設定の繰り返しでした。自分たちのあるべき姿、上位目標と下位目標を立て、それと今の自分たちの姿を比較して問題と問題点を整理する。その中から課題設定して一つ一つ取り組んでいく。「しくみづくり」とか「可視化」とか、口先だけで言うのではなくて具体的な行動を積み重ねていくということ。そういう行動が実績になり、自分たちのカードになってきました。欲しい制度がなければ自分たちでつくっちゃえばいい。制度は道具。「こういう道具が欲しい」ということを具体的に見せて自分たちの持てるカードをきっていく。そうやって介護保険もできたし、これからもいろんな制度をつくっていけばいいんです。「制度は道具である」ということから出発すれば、そんなたいしたことではないはずです。

 

 

第35回『社会事業家100人インタビュー』 11月25日 山形開催します!!

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社会事業家の先輩にビジネスモデルを学ぶ!
社会事業家100人インタビュー 第35回
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~「子育てしやすい地域づくり」を山形から、全国へ~
ゲスト:野口比呂美様
   (特)やまがた育児サークルランド 代表

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11月25日(火)18:00~20:00@山形市男女共同参画センター
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一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク(SBN)と
IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] が開催している
「社会事業家100人インタビュー」。
11月は、(特)山形の公益活動を応援する会・アミルさんのご協力のもと、山形にて初開催!
地域の育児支援を目的とした活動を行っている (特)やまがた育児サークルランド
の野口比呂美さんをゲストにお迎えし、公開インタビュー形式で
「事業の成り立たせ方」「ビジネスモデルのつくりかた」を参加者と共に学びます。

SBN理事・IIHOE代表川北秀人がインタープリターとなって解説し、
直接先輩事業家に学び、質問することができるこの対話型講座をお見逃しなく!

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山形で育児サークルや子育て支援NPOを立ち上げ、その後の政策立案にも
携わってきた(特)やまがた育児サークルランドの野口比呂美さん。
子育て支援という考え方が一般的でなかった16年前(1998年)から、
保育所の整備だけではなく、お母さん同士が助け合い、つながりあう
ための場所が必要、と「やまがた育児サークルランド」を発足させた。

今では多くの地域にみられるようになった子育て支援施設や子育てひろば。
しかしそれは、「こんなサービスが欲しい」と自ら提案し、自分たちでつくり、
その声を政策づくりにも反映させてきた母や父たちがいたからこそできたこと。
そして「自分たち自身が欲しいサービスをつくる」互助の活動から、
「社会で必要とされるサービス」、公益活動へと進化してきた。

当事者としての活動をどのように立ち上げ、
公益活動に進化させてきたのか。
子育てひろば全国連絡協議会副理事長として「子育てひろば」の普及、
人材育成にも取り組む野口様に、これまでのビジネスモデルづくりと
その背景をじっくり学びます。

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●ゲスト:野口比呂美様 
(特)やまがた育児サークルランド 代表

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プロフィール:
特定非営利活動法人やまがた育児サークルランド 代表
特定非営利活動法人子育てひろば全国連絡協議会 副理事長
1998 年、それぞれ独立して活動していた育児サークルのネットワークを作る
ための団体を山形県内で設立。
山形市内の子育て支援施設「子育てランドあ~べ」の運営等を経て、1999 年法人登記。
育児サークル支援や保育サービス、育児情報の提供、子育て中の人の人材育成、
子育て分野の調査・研究、行政への提言等の活動を行っている。

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● 開催概要
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日時:2014年11月25日(火)18:00~20:00

場所:山形市男女共同参画センター 5 階 視聴覚室・研修室 2
山形市城西町二丁目 2-22 (霞城公民館北隣の建物)
TEL:023-645-8077
JR山形駅西口から徒歩15分

定員:約30名

参加費:1,500円
※うち500円は、ゲストの指定する寄付先に寄付させていただきます。
 (参加費は当日、受付にて徴収させていただきます)

対象:ビジネスモデルの作り方・事業の成り立たせ方・新たな事業のつくり方を
先輩社会事業家から学び、自身の事業に役立てたい方

主催:一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク(SBN)
   IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所]
共催:特定非営利活動法人 山形の公益活動を応援する会・アミル

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● プログラム
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◇ ゲストのご紹介、趣旨説明
◇ ゲストご自身からビジネスモデルの紹介
◇ インタビュー
  インタビュアー:ソーシャルビジネスネットワーク理事、  
  IIHOE代表者 川北秀人
◇ 参加者からの質疑応答

・参加者からの質疑応答の時間を設けますので、
 ご参加いただく方は1人1回はご質問ください。

・ゲストの事業についてご理解いただくために、事前資料をお送りします。
(参加申込いただいた方にご連絡します。)

・当日、「社会事業家 100 人インタビュー」終了後、午後 9 時ごろより、山形駅周辺
へと場所を変えて、懇親会も予定しています。参加費は3,500 円程度です。
ご参加希望の方は申込時にご記入ください。詳細が決まりましたら、ご連絡さしあげます。

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● 申込みについて
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お名前、ご所属、ご連絡先(eメール、FAX、電話番号)、
懇親会参加可否、講座に期待すること
を書いてEメールおよびFAXにてお送りください。
送付先 MAIL:amill@major.ocn.ne.jp FAX:023-674-0808

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【申込み・お問い合わせ先】
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特定非営利活動法人 山形の公益活動を応援する会・アミル 担当:石山様
〒990-0828 山形市双葉町二丁目 4-38 (双葉中央ビル 3F)
TEL:023-674-0606 / FAX:023-674-0808
MAIL:amill@major.ocn.ne.jp HP: http://www.amill.org/
◇本プロジェクトのfacebookページ
 http://www.facebook.com/100JapaneseSocialEntrepreneurs
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第3回「みんなの働きたい!応援ゼミナール」(10月28日)開催決定!!

第3回「みんなの働きたい!応援ゼミナール」

「新しい就労と『弱者支援』からの脱却」

 

就労困難者の働き方の最新事例をさまざまな角度から考える連続セミナー(全3回)を開催しています。ゲストスピーカーの講義と参加者同士の対話を通して、具体的な課題解決のヒントを探りましょう。

今回は、就職経験のない既卒者を対象とする「就活アウトロー採用」などのプログラムを提供しているキャリア解放区代表理事の納富順一さんをゲストに迎え、活動内容の紹介とともに、「弱者支援」という思考から脱却することの重要性などその活動の基礎となる理念をお話しいただきます。納富さんの取組みを通じて、新たな視点で考えることの重要性を考える貴重な機会になることと思いますので、ぜひふるってご参加ください。

●日時:2014年10月28日(火)19:00~21:00

●内容:講演、質疑応答、意見交換 *終了後、1時間程度の懇親会を予定しています。(懇親会は任意参加です)

●ゲストスピーカー:納富順一さん(NPO法人キャリア解放区代表理事)

●対象:就労困難者の問題に関心のある方、働き方の多様性に関心のある方、働く場づくりに関心のある方、就労困難者及びそのご家族など、立場は問わず広くご参加をお待ちしております。

●定員:20名(先着順)

●参加費:SBN会員:1,000円 SBN非会員:1,500円(当日お支払いください)*懇親会費は任意で別途1,000円となります

●会場:ソーシャルビジネス・ネットワーク(SBN)事務所(東京都港区南青山1-20-15 ROCK 1st 3階(地下鉄千代田線 乃木坂駅 3番出口より徒歩3分)

●申し込み:お名前とご所属をご記入の上、こちらのフォームよりお申し込みください。(先着順となります。ご了承ください。)*電話、FAXでの申込みを希望される場合は、以下問合せ先にご連絡ください。

●問合せ先:ソーシャルビジネス・ネットワーク(SBN)事務局  TEL 03-6820-6300    FAX 03-5775-7671   E-mail hatarakikata@sb-network.sakura.ne.jp

●主催:ソーシャルビジネス・ネットワーク 働き方委員会

 

 〔ゲストスピーカー・プロフィール〕

 納富 順一 さん (NPO法人キャリア解放区代表理事)

大学卒業後1年間のニートの後、テレビ局のADを経て、人材業界に。新卒、中途、障害者など幅広い分野で人材ビジネスを経験。企業、求職者の目線に立ちづらい人材業界のあり方に違和感を持ち、もっと時代にあった本質的なアプローチを追求するためにキャリア解放区の理事長に就任。

 

 

 〔働き方委員会とは?〕「就労困難者の働き方」に問題意識を持つ社会人や学生で構成される学びと実践の場。ソーシャルビジネス・ネットワークの活動の一環として2013年9月に発足。「働くことに困難を抱える人の課題解決を通じて、当事者だけでなく、雇用者・支援者を含め、誰にとっても生きたい・働きたい環境を実現する」ことをビジョンに掲げ、さまざまな関係者を巻き込みながら、課題解決に向けた活動を展開していきます。メンバーを随時募集中です。ご参加希望の方は上記の問合せ先までご連絡ください。ぜひご一緒に!

【レポート】『社会事業家100人インタビュー』かのさと体験観光協会 事務局長 仲田芳人氏

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

第33回『社会事業家100人インタビュー』

~オーダーメイド型の体験プログラムでグリーンツーリズムを地域産業へ~
ゲスト: かのさと体験観光協会 事務局長 仲田芳人様

 

<ゲストプロフィール> 

備北新聞社 代表。かのさと体験観光協会 事務局長。

1976年駒澤大学卒業後、家業の旬刊ローカル紙「備北新聞社」を継ぐ。

2002年に中四国で初となる民間のグリーンツーリズムの企画受入団体「かのさと体験観光協会」を設立し、事務局長に就任。地域の自然、農林業、生活文化などの地域資源を生かし、地域住民との交流を取り入れた体験プログラムを企画し、60%を超えるリピート率を誇る。

かのさと体験観光協会事務局長のほか、新見ふるさと塾21事務局長、(特)みんなの集落研究所評議員、(特)まちづくり推進機構岡山理事、岡山県地域づくりマイスターなども務める。

 

<今回のインタビューのポイント>(インタビュアー IIHOE川北)

「参加者を増やす」ことを目的に据えるのではなく、伝える価値を大切にしながら、補助金をあてにせず、プログラム収益のみで採算をとっていることが、かのさと体験観光協会の最大の特徴。手段と目的を混同してないからこそできることであり、価値を伝えられる体験の場をつくり、プログラムの魅力を発信している。

良い企画があっても集客に苦心するケースの多いグリーンツーリズムにおいて、都市部の住民にどのように情報を届けて、60%強ものリピーター率をあげているのか。何度も訪れたくなるプログラムづくりの背景にある、地域住民との交流、そして60人ものインストラクターによってオーダーメイド型の体験プログラムづくりを可能にしている、同会の凄さを理解してほしい。

 

地域の協力者に支えられたプログラムづくり

かのさと体験観光協会は、2002年2月に、岡山県北にある新見市(当時は新見市、哲多町、哲西町、大佐町、神郷町)の住民で立ちあげ、中四国で初めて民間のグリーンツーリズム企画受入団体として設立された協会です。瀬戸内海に流れる高梁川の源流域である新見市の豊かな自然環境や地域の人々のくらしを、都心部の人たちにもおすそ分けしよう、という体験ツアーを数多く企画・運営しています。

設立11年目を迎えた昨年、ずっとやりたかったある企画を実現することができました。その企画は「釣りガールを目指す女性のためのアユ釣り講座」。そもそもアユ釣りはとても難しく、特別な用具が必要で、お金もかかります。本来アユ釣りをする人はお金を払って漁業権を獲得していますから、我々のように「遊びで少しだけ体験する」なんてもってのほか。たくさんの条件があって、この企画は長年実現しませんでした。しかし昨年、なんと新見漁協の全面的な協力を得て、この企画を実現することができました。アユ釣りを教えてくれる人の派遣、用具の提供、遊漁料の免除にいたるまで、組合員のご厚意で漁協が全面的にバックアップしてくれたのです。

かのさと体験観光協会としては、この企画を通して川に親しんでもらう人を増やし、川への関心を喚起、それが川をきれいに保つことや、魚の生態を知り守ることにつながって欲しいというねらいを込めていましたが、その想いが漁協の方針と一致して、このような協力体制を得ることにつながったのです。釣り体験だけでなく、終了後には天然アユの塩焼きや、同漁協が養殖、生産するキャビアを振る舞うなど、大盤振る舞いのたいへん人気のプログラムになりました。翌年は特別にアユ釣りの解禁前に実施、来年は釣り具メーカーとコラボレーションしよう、など、どんどんすごい企画に進化しています。

こうしたプログラムを実現できるようになった背景には、たくさんの失敗がありました。発足当時に企画した田植えから収穫までの体験プログラムでは参加者が集まらず、趣旨に賛同して体験用の田んぼを用意してくれた地元の協力者から、「この田んぼを誰が田植えするんじゃ!」と怒られ、必死に人集めをしたこともありました。結果なんとか人は集まりましたが、みな田植えは初めてですから、終わった後の稲の並びにむらがあってガタガタ。その田を1週間かけて直されているのを見て、「あぁ、私たちが大切にしなければいけないのは、その地域の協力者・インストラクターに満足してもらうこと、地域で信用をつくることだ」と痛感しました。

そうやってたくさんの失敗を重ね、様々な批判も受けながら、どこに焦点を当ててプログラムを実施するか、何をねらいにすべきかが、少しずつ明確になっていきました。

 

ネーミングとプログラムのユニークさで参加者を惹きつける

かのさと体験観光協会の強みの1つは、ネーミングの面白さ、プログラムのユニークさにあります。例えば「白菜の株主制度」。白菜漬け、特にキムチづくりにはとてもコストがかかります。作るノウハウがあっても、一つの家だけでキムチづくりのためのたくさんの香辛料など原材料を揃えるのは難しく、次第にどの家も作らなくなってしまう。そこで白菜漬け・キムチづくりのプログラム参加者などに、新見でとれる白菜の株主になってもらい、資金を持ち寄って生産農家を支えていただきます。年に1度の収穫の日は、「株主総会」です。そういうしくみをつくることで、生産農家は原材料を揃えることができますし、株主となった人たちは、自分の株(白菜)がどうなっているかを気にするようになる。それはつまり、新見がどうなっているか、この地域の生産物や気候を気にかけること。そうやって都市部の人と新見の農家、消費者と生産者をつなげ、新見の応援団をつくっていきたいのです。そういう想いを大切にしながら体験をしてもらうこと、それが、私たちが考えるグリーンツーリズムなのです。

こうしたプログラムを続けていると、リピーターが多くなってきます。体験を通じて地域の人や参加者同士がつながり、ひさしぶりに参加した時には家族に会えたような気持ちになる。最近も、初めて参加した方に、「地域全体が家族みたい」と言われました。体験プログラムの中では、地域の人のおうちの台所に入れてもらうこともあります。人のうちの台所に入るなんて、町なかでは考えられないことです。そうした体験のひとつひとつが、まるで親戚になったかのような気持ちにさせるのだと思います。時に応じて寄り添い合い、包み隠さず語り合えること、そして関わり合うこと。そうやって共感的に関わり合うことのできる「家族」をつくってくれる仲間が、私たちの何よりの財産です。

 

60人のインストラクターによるミッション達成型組織

かのさと体験観光協会には約60人ものインストラクターがいて、年に20~30のプログラムを実施しています。一つのプログラムを実施するためには、まずそのテーマに詳しい人が必要で、それをフォローする人も必要になります。

例えばそば打ち体験。まずそば打ちを教えてくれる人が必要で、その人をフォローする人も必要。さらに、そば打ち以外のプログラムも入れる場合にはその別のプログラムを担当する人、全体の連絡調整や食事の用意をする人、といった具合に、1つのプログラムに少なくとも4人のインストラクターが必要です。年に20~30のプログラムを実施しているとトップダウンで会議を開催している暇などありませんから、問題があれば現場で解決する必要があります。インストラクターそれぞれがプログラムのオーナーとなり、自分で決め、自分で実行しているのです。そうやって、プログラムベースで次々と小さな組織が生まれて、プログラムが終わると解散する。私は「ミッション達成型組織」と呼んでいますが、川北さんに言わせると「アメーバ型組織」。プログラムを終える時にはいつも全員で振り返りの場を設けて感想を共有して、「次回はここをこうしよう」「こんなことをやってみよう」「あの人に声をかけよう」など、次々にアイデアが出てきます。そうやってどんどん新しいプログラムが生まれること、たくさんの人が関わることがかのさと体験観光協会の組織の特徴です。

さらに近年では、地域内外の団体・組織とコラボレーションしてプログラムをつくることが増えてきました。前述した新見漁協の協力によるアユ釣り講座のほか、備中県民局環境課とは「高梁川源流域探検ツアー」を協働企画し、県南地域の小学生と保護者が参加しました。こうした他団体とのコラボレーションは、これまでのネットワーク型活動の1つの成果でもあります。それぞれが得意技を持つインストラクターを中心としたネットワーク型組織に、新見市内外の団体と団体をつなげる機能を付加して、わたしたちのプログラムづくりはさらに進化しています。

 

プログラム収益のみで採算をとる!

もう一つ、私たちがこだわっているのは、行政からの補助金を受けず、プログラムによる収益のみで採算をとっていること。これまで、いい事業が衰退する現場をたくさん見てきました。補助金で採算をとっていると、補助金が切れたとたんに事業を続けられなくなる。事業に連続性がありません。

いい事業をやっても、連続性がなければ地域はよくなりません。一過性の事業が終わると、地域に残るのは、ゴミと疲労感だけ。補助事業が地域の発展を阻害すると言ってもいい。だから私たちは、参加者に適切な対価を負担していただいて持続的な事業をつくることにこだわります。日帰りのプログラムで平均4000円、参加者10人程度で採算が合うようにつくっています。費用の90%は原価です。インストラクターにはインストラクター料を払い、会場費などを捻出して、残り10%程度を協会の手数料としていただき、それで最低限の運営費を賄っています。もちろん人が集まらない事業も赤字の事業もありますから、複数のプログラムを実施することで、全体として採算が合うようにしています。さらに、最近では様々なところで取り組みをご紹介いただいていることもあって、視察に来られる方が増えています。わたしたちは視察も有料で受け入れていますから、視察+地域の産品を飲み食いしていただくこと、さらに視察+プログラムの体験をしていただくことによって、視察受け入れも採算性の高いコンテンツとして事業化しています。

 

最大の差別化は「私だけのオーダーメイド・プログラム」

最近ご依頼が多いのは、オーダーメイドのプログラムづくり。参加されるグループ・家族ごと、視察に来る方それぞれの希望や思い出に沿って、プログラムを作っています。それができるのも、60人ものインストラクターがいるから。「○○だったらこの人に聞けばわかる」「こういうプログラムができないかあの人に相談してみよう」、という具合にそれぞれの得意技を組み合わせれば、そのグループだけの特別なプログラムがつくれます。

協会を発足した当時はグリーンツーリズムの受け入れをしている団体は中四国には他にありませんでしたが、自治体からの補助金なども活用して、似たようなグリーンツーリズムを実施する所が増えてきました。そうなると他との差別化が必要です。私たちの側からの差別化としては、「お客さんに寄り添う」ということ。そしてお客さんの側からは、「私のためだけのプログラムをしてくれる」ということが何よりもの差別化になります。私たちの事業には最少催行人数はありません。参加者が1人であっても実施します。1人の参加者に3人ものインストラクターがついたこともあります。それでも決して中止にはしない。それが「かのさとは裏切らない」という信頼につながり、参加者が他の人に薦め、次の回からは人を連れてきてくれるようになります。

かのさと体験観光協会が目指してきたのは、持続可能なしくみを作ること。「商い」は「飽きない営みの中でお金を得ること」だと思っています。「飽きない営み」とは持続可能なしくみそのもの。来てくれた人も楽しく、迎えた側も「今日はよかった」と思えること。そういう「喜びの共受」があってはじめて飽きのこない営みができるのです。グリーンツーリズムは単なる「体験」の場ではありません。体験を通じて、農山村でどんな暮らしがあるのか、この地域がこれからどうなっていくのか、語らいをして、その土地の人と想いを共有してほしい。そうしてその土地の暮らしを伝えていくことが私たちの役目だと思っています。

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