社会事業家100人インタビュー第66回レポート

開催概要

〇開催日:2023年6月14日(水) 18:30~20:00
〇開催手法:オンライン
〇ゲスト:(特)都岐沙羅パートナーズセンター 理事・事務局長 斎藤主税さん
※今回の「社会事業家100人インタビュー」は、小規模多機能自治推進ネットワーク会議主催の連続オンライン勉強会「初夏の陣」との共催で開催しました。

ゲストプロフィール

斎藤主税(さいとう ちから):1971年生まれ、新潟市江南区(旧亀田町)出身。1996年、新潟大学大学院工学研究科修士課程修了。同年(株)計画技術研究所に入社し、全国各地の都市計画及び参加型まちづくりのコンサルティング業務に従事。1999年より新潟県岩船地域においてコミュニティビジネスの育成と中間支援NPOの運営を実践。2001年に新潟にUターンし、新潟県内を主なフィールドに幅広い分野・領域の地域づくり事業のコーディネート活動を開始。2004年に(株)計画技術研究所を退社し、以後、NPOの立場から多様な地域づくり事業のプランニング・コーディネート・プロデュース活動に従事。

インタビューのポイント(川北秀人)

地域における市民活動支援は、地域のくらしの持続可能性を高め、よりよいものへと導くための支援を行うことが大前提だ。特に、県庁所在地市でない自治体において、行政から施設の指定管理料などを受けずに地域の市民活動支援を行う場合、その自治体だけでなく、広く他地域にも有効な支援技能を確立していることが必須となる。その先駆者である都岐沙羅パートナーズセンターから、地域に根差した支援者が持つべき姿勢や技能について学んでほしい。

※小規模多機能自治:自治会、町内会、区などの基礎的コミュニティの範域より広い範囲の概ね小学校区程度の範域で、その区域内に住み、又は活動する個人、地縁型・属性型・目的型などのあらゆる団体等により構成された地域共同体が、地域の実情及び地域の課題に応じて住民の福祉を増進するための取り組みを行うこと(小規模多機能自治推進ネットワーク会議の定義による。全国270以上の自治体が参加する「小規模多機能自治推進ネットワーク会議」については、リンク先参照。)

インタビューの内容

はじまりはコミュニティビジネス育成

都岐沙羅パートナーズセンターは、新潟県北部の村上地域(村上市、関川村、粟島浦村)で活動する中間支援組織です。事業内容は幅広く、住民活動の相談に応じる窓口の運営、地域ツーリズムの企画、林業体験など地域づくり事業のコーディネート、さらには商品開発や販路開拓の支援も行っています。

私たちが当団体を創設したのは1999年で、当時はコミュニティビジネスの育成事業を行っていました。今でこそ各地に公募型起業プランコンペがありますが、当時はまだ「コミュニティビジネスとはなんぞや?」という時代。全国でも先駆けと言える存在でした。官民一体となって取り組んだこの事業では、コミュニティビジネスへの資金助成と、支援機関による伴走支援を実施。加えて、地元金融機関に融資制度を創設してもらい、地域を上げてコミュニティビジネスを支援しました。

ただ、行政との連携による事業は永遠に続くわけではありません。当団体が特定非営利活動法人化した2002年から、その事業の終了を見越して準備を進めました。官民連携で取り組んだコミュニティビジネス支援は2005年に、行政事業としての支援は2007年に終了。以降は、行政からの運営費補助のない民設民営の中間支援組織として、様々な事業を展開しています。

「雲南ゼミ」の報告会を機に、小規模多機能自治に取り組む

私たちは、地域づくり事業の一環として、小規模多機能自治の推進に力を入れています。小規模多機能自治は、地域コミュニティによる地域経営に取り組み続けてきた私たちの考えと、重なっているからです。

私が小規模多機能自治に関わるようになったのは、ある研修会がきっかけでした。ファシリテーションを担当したその会で、小規模多機能自治を実践する島根県雲南市の方による講義がありました。話を聞いて衝撃を受けました。地域を支援している者として、雲南市の取り組みがどれだけ大変なことか、わかったからです。村上市では2012年に、行政主導で市内17のまちづくり協議会が発足し、私たちはその立ち上げを支援してきました。ただ立ち上がってみると、どの協議会も地域経営は難しく、イベントごとを行うばかり。雲南市の講義を聞いたのはちょうど、「これで良いのか」と思っていたころでした。

このときのご縁で、当団体の理事や県内他団体のまちづくり仲間とともに、雲南ゼミ(雲南市に地域自治を学ぶ会)に参加することに。雲南ゼミには「雲南ゼミ八則」という掟があるのですが、その一つに「雲南市などから学んだことを伝えること」とあります。私はこれを真に受け、新潟で報告会を企画。行政職員を含め20人ほどが集まった報告会を機に、小規模多機能自治に取り組んでいくことになったのです。

まずは自ら、地域を分析。その経験をまちづくり協議会の支援へ

まずは、将来の人口推計から始めました。川北さんのブログ(※)を参考に計算すると、あまりの数値にショックを受けました。また、地元の大学が中学生以上の全住民アンケートを行った地域があると知り、クロス集計をするとこれも衝撃的な結果に。ただ、人口推計と全住民アンケートだけで、地域経営が動き出すとは思えませんでした。あまりにも厳しい現実にやる気をなくしてしまうと考え、希望の種となる先進事例を調べて、蓄積していきました。そして、まちづくり協議会の地域ごとに「カルテ」も作成。まちづくり協議会ごとの人口や高齢者人口、高齢者世帯について過去20年と今後20年の推移をまとめ、Webサイトで公開しました。

これらの取り組みをまちづくり協議会の研修でお話すると、「全住民アンケートをやりたい」と手を挙げる協議会が出てきました。設問や集計方法、レポートの作り方などを試行錯誤し、まちづくり協議会による小規模多機能自治を支援するノウハウを蓄積していきました。

次第に事例が貯まってくると、小規模多機能自治推進ネットワーク会議主催の研修などで、全国の方に向けて事例を発表する機会が増えてきました。すると、県内外から「手伝ってほしい」という声が。お手伝いしながら事例を貯めつつ、小規模多機能自治を支援する人を増やそうと活動しています。

※のちにソシオ・マネジメント第3号・第6号に掲載

動かない地域に不足するのは「ワガコト化」と「問題の解像度」

これまでの取り組みを通じて、見えてきたことがあります。それは、研修を聞いて気づきを得ても、アクションを起こす人が少ないということです。このとき不足しているのは、「ワガコト化」。地域づくりには、ハート(当事者意識の醸成と向上)、ソフト(しくみ)、ハード(施設)の3つの要素がありますが、順番が大切です。ワガコト化を促すハートの取り組みから、順番に始めなければいけません。そして支援者は、小規模多機能「自治」を進めるために、住民が自ら考えて実行できるよう、判断材料や判断基準、参考例を適切なタイミングで提供し、後押しする必要があります。

また、「ワガコト化したあと何をしたら良い?」という地域が増えています。この場合、足りないのは、問題の解像度です。「お年寄りが買い物に困っています」ではなく、「車を運転できなくなったお年寄りが、買い物にはバスで行けるが、かさばるものを買えず困っている」程度まで明確にしていきます。解像度をあげるには、地域での対話の場が有効です。模造紙を広げたワークショップではなく「井戸端会議」がよいでしょう。ある集落では、「倒れたときに親族に連絡してもらえるか心配」との声が上がり、緊急連絡カードを作ることに。こういった事例を通じて私は、課題解決力は地域に確かにあると実感しています。村上市の場合、集落座談会という名の井戸端会議を繰り返してきました。今年度からは、まちづくり協議会からの資金補助が実現し、協議会が集落に対して座談会を広げていく動きが生まれています。

全国各地の支援者とともに支援力を磨きあう

私たちは、自ら実践して形にすることを大切にしてきました。実際にしくみを目にして初めて、人は「こういうのが欲しかった」と言うからです。例えば、移動支援の必要性が高まってきたので、住民ボランティアによる買い物送迎のしくみを過去3年にわたって実験しました。住民ボランティアが福祉施設の送迎用車両を無償でお借りして、送迎するしくみです。3年間、センターの自主財源から捻出して全額負担し、しくみを構築。今年度からは、まちづくり協議会から支出してもらえるようになりました。このように、やりたい事業があるときは、まずは助成金などを調達して実施し、ある程度形になったら、行政などの事業にできないか交渉しています。

こうしてこれまで、村上地域で自ら実験し、経験を踏まえて地域外を支援し、得た収入を村上地域に再投資してきました。地域内・地域外の収入バランスを強く意識し、どちらかがおろそかにならないように心がけています。各地での支援を通じて今、感じているのは、支援者の数を増やしていかないと“間に合わない”ということです。そのため、小規模多機能自治を早く社会に浸透させ、各地の支援者がこれを実践できる状況を作っていく必要があります。これからも積極的にノウハウを公開し、皆さんとお互いに支援力を磨き合っていきたいと思います。

(文責:近藤)

これまでのインタビューはこちらをご覧ください。

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