【レポート】社会事業家100人インタビュー (一社)グローバル人財サポート浜松 代表理事 堀 永乃氏

第41回 社会事業家100人インタビュー
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2015年7月13日(月) 19時~21時
於:(般社)ソーシャルビジネス・ネットワーク 会議室

多文化なまち浜松で、誰もが活躍できる社会をつくる

ゲスト:堀 永乃さん 一般社団法人グローバル人財サポート浜松 代表理事 

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<プロフィール>
1975年生まれ。企業勤務の傍ら浜松市の日本語教室等でボランティア活動、2003年より(公財)浜松国際交流協会にて日本語教育支援や国際交流等の事業を企画・運営。08年度「介護のための日本語教室」(文化庁委託事業)、「求職者のための日本語教室」(市委託事業)、「シャンセ!日本語教室」(厚生労働省・JICE日系人就労準備研修事業)で、職場体験を組み入れた研修を開発し、在住外国人のための日本語教育と就労支援に取り組む。その後、「グローバル人財サポート浜松」の立ち上げに参画し、在住外国人の支援として介護職員初任者研修や企業内日本語教育、大学生らの次世代育成を行う。12年9月より現職。全国市町村国際文化研修所多文化共生マネージャー養成コース講師(07年~)、自治体国際化協会(CLAIR)地域国際化推進アドバイザー(08年~)。
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
教える側の自己満足ではなく、教わる側の仕事やくらしの現場に役立つ日本語教室や資格取得のための研修を企画・運営するとともに、外国人など多様な文化を持つ住民が、一方的に支援されるのではなく、負担や役割を求めることで、効果も持続可能性も高めようとするチャレンジ。当事者にも担いうる役割や負担を、どうプログラムとして設定するか。新たなビジネスモデルの模索に学んでほしい。
 
外国人を労働力の調整弁に活用している
私たち日本社会
ものづくりのまち浜松では、1990年の入管法改正を機に自動車・輸送機器、電子部品、繊維、楽器など様々な製造業で外国人労働者を迎え入れ、ピーク時(2008年)には日系人を中心に3万3千人を超える外国人が市内で暮らしていました。日本で最もたくさんのブラジル人が住んでいる市としても知られる多文化なまちです。外国人は日本語ができないし、母国への送金でお金に余裕もないだろうからとボランティアが支える無料の日本語教室がある一方で、本当に仕事で使えるレベルの日本語を学べる場がなかったり、人手不足を補うために労働力として使っておきながら08年秋以降におとずれた不況の際にはお金で帰国を促したり、外国人を取り巻くモグラたたきのような状況に憤りを感じて「グローバル人財サポート浜松」の立ち上げに参画しました。
製造業で働く外国人の多くは、派遣会社に工場での仕事を手配してもらい、会社が借り上げたアパートに住み、マネープランもなく暮らしていたので、リーマンショックでの失業を契機に地域で自立していく力を失いました。その背景には、ボランティアの善意に頼って無料でサービスを提供していた日本語教室の影響もあり、「なんでも人がやってくれる」と思う外国人を、私たちの社会が育ててしまっていたのです。日本政府は外国人の失業者対策として、3年間の再入国禁止を条件に本人には30万円、家族には一人20万円を支給して帰国を促しましたが、結果的に帰国できたのは、大学を出ていたり、2、3か国語が堪能な優秀な人、つまり、母国でも就職する能力のある外国人たちでした。
近年、ブラジルにも中産階級が生まれていて、20年前とは異なり、出稼ぎにでなくてもブラジルで仕事ができれば中流の生活ができるようになっています。しかし、母国にもどっても単純労働しかできない下層階級となってしまう人たちは帰国しようとはしません。また、日本で育った子どもたちや高齢者も帰国することはできません。経済不況は日本に暮らす外国人を二分化し、生活保護を外国人にあっせんするブローカーまで現れ、秩序が大きく乱れました。地域には、「工場で働く」という他に選択肢を知らない、ただで与えられることに慣れ過ぎて、自分で自分の人生設計ができない外国人失業者であふれました。
 
外国人には日本語教育ではなく
「人材育成」が必要
このような状況下で、外国人への日本語教育の目的が従来のような国際交流や異文化理解のままでいいはずがありません。就職相談窓口に100人の失業した外国人が列をつくり、毎日のように、そこから自殺者がでるようなこともあったのです。市にかけあい、08年末には当時在職していた浜松国際交流協会で、全国に先駆けて「求職者のため日本語教室」を市の委託事業として開設しました。製造業での求人は皆無だったので、その他のサービス業に就けるよう履歴書の書き方や面接試験に必要な日本語など、それまで彼らの人生に必要なかったけれど日本で日本人に交じって就職活動するために必要な日本語を教えました。特に人材不足が顕著な介護業界での仕事にマッチングしようと「介護のための日本語教室」を実施したり、それまで外国人を雇用したことのない地元のサービス業の企業や施設に協力を求めて、外国人に職場体験をさせることで雇用する側の理解も求める等、国際交流協会としては前例のない研修を開発し、一定の成果を上げることはできました。
しかし、日本語教室から数十名の外国人を就労させることに成功して、全国から視察にきていただけた取り組みも、必要なときにだけ労働力として使い不況になれば帰らせるといった場当たり的な政策に翻弄されてきた外国人の課題の前では、全く不十分に感じていました。たとえば、求職者向けの事業を始める前に、ハローワークの前で100人の外国人にインタビュー調査をしたところ、多くの外国人がそもそも製造業以外の仕事を知らないことが課題だとわかりました。また、一部には助産師や看護師の資格を持っている人もいました。夜の仕事をしている女性からは年齢を重ねてもできる仕事に転職したいという悩みも聞きました。そこで、日本語教師の使命は、言語のしくみを教えたり文化を伝えることではなくて、日本語を運用してどのように生きるのかを支えることだと気が付いたのです。私は外国人を支援するのではなくて、社会をつくっていく人材に育成しなければいけないのだと考えました。
高齢の外国人からは、働きながら長年介護保険料を納めてきたのに、言葉が通じないために介護サービスを受けることができず、英語の通じるドクターのいる病院で死ぬしかないという諦めの言葉も聞いていました。何十年も日本で税金や保険料を納めているのに、私たちの社会の不備で彼らは福祉サービスが受けられないのです。それでは、私が外国人の介護人材を育てて、外国人が利用できる介護事業をするしかないと決意し、国際交流協会を退職。12年から現職の代表理事をつとめています。
一般社団法人グローバル人財サポート浜松
応益負担と応能負担を求めて
ビジネスモデルをつくる
グローバル人財サポート浜松では外国人の介護人材の育成を主幹事業としています。介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の一人当たりの受講料は13万円で、大手研修機関が日本人向けに提供している講座の2倍以上の金額です。それに見合うように、どんなに日本語がたどたどしくても、3か月の研修後には介護レポートが書ける水準の教育を提供しているため、目標をもった意欲的な外国人は受講します。わかりやすいと評判を呼び、隣県からも外国人受講生が来るようになりました。
最近は、ブラジル人の他、日本人の配偶者のフィリピン人も増えています。日本人と結婚していても母国の家族に送金するために夜の仕事を続けている女性が多いのですが、子どもが思春期になると母親の夜の仕事が親子関係に悪影響があるという理由だったり、子どもに誇れる仕事をしたいという理由で介護の仕事につきたいと考える外国人が来ています。さらに、介護の仕事の経験があって上位の資格を取得したい人に向けては、1レッスン1万円で介護福祉士国家試験対策講座を開設しています。介護福祉士の資格をとって、いつかはケアマネージャーになりたいとキャリアを思い描く外国人が15名ほど受講しています。
私たちにとっても、介護職員初任者研修1コースあたり6名以上の受講生を得られなければ赤字になるので、外国人のスタッフが様々な工夫をこらして広報し、受講生を集めようとしています。収益を考えることができる外国人スタッフの成長は目を見張るものがあり、応益負担を求めてビジネスとして事業を行うことは本当に重要だと思います。日本語教室も継続して開催しており、他の日本教室と比較して高額な1レッスン2000円の受講料を外国人から受け取っています。
しかし、外国人に負担を求める事業だけでは、やはり赤字になることもあるので、他の事業で収益をあげて補てんする仕組みを模索しています。介護職員初任者研修は100%の就職率を誇るプログラムで、外国人が介護の仕事で必要な全国の外国人支援に携わる方々から視察の希望が絶えませんが、お一人2500円の視察料を支払っていただいています。また、今年はようやくこれまでの外国人向け介護人材育成のノウハウまとめて書籍を出版しました。やさしい日本語とイラストで学べる書籍は、日本人の初学者にもわかりやすいと購入されているそうです。また、企業内日本語研修では受講料を1レッスン5千円に設定しており、こちらは応能負担で外国人を雇用する企業からいただいています。
中級以上の日本語レベルになると、「多文化コンシェルジュのための日本語講座」というプログラムもあります。私はもともと「水商売」が良くない仕事だとは思っていないし、夜の仕事を辞めたくてグローバル人財サポートにくる女性たちにも、いつか自分の生き様として子どもに伝えたり、後輩のフィリピン人たちにもその経験を伝えて、自分を肯定して欲しいと願っていました。外国人が母国のことを語り、誇りを持って自分の日本での生活や日本文化について語れることを狙って、受講生にSNSで発信をさせています。これが功を奏して、あるインドネシア人研修生は発信する力を評価されて、帰国後に浜松の企業のインドネシア支店でウェブサイトを更新する仕事に採用されたり、母国でピアニストだったけれども、言葉の壁で日本では思ったようにピアノを教える仕事につけなかったポーランド人の女性が、浜松市の文化振興財団に求められて音楽コンクールのスタッフになったりと、日本語力だけでなく、ひとりひとりの外国人が本来もっていた能力を開花させて自己実現につなげる事例もでてきました。
その他、次世代育成事業として地元の学生ボランティアを受け入れて外国人の子どもの学習支援をおこなったり、技能実習生との交流に取り組んだり、地域商業活性化のためのフェスタを開催しています。まだまだ途上ですが、地域に住む外国人と、その周りの住民のニーズに沿いながら、地域で必要とされる人材を育成するビジネスモデルの確立に挑んでいます。
 
文責:前川

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