第7回障がい者雇用研究会 イベントレポート
11月7日、アイエスエフネットサポートトレーニングセンターにおいて、「第7回障がい者雇用(20大雇用)研究会」~居場所と出番をもって現場で働く人の声を聞き、誰もが当たり前に働ける社会作りを考える~が開催されました。
第7回となる今回は前半に、埼玉県川口市で障がい者雇用を実践している山下朋和氏(社会福祉法人めだかすとりぃむ所長)にめだかすとりぃむの実施事業についてお話頂きました。また渡邉幸義氏(アイエスエフネットグループ代表)に先月回ってきたアジア訪問時に目の当たりにした障がい者雇用の現状と今後のアジアでの事業展開についてお話頂きました。
後半は、障がい者雇用研究会の今後のアクションとして「働くこと」「生きること」をテーマとしたメッセ「働き方メッセ(仮称)」の構想と実施に向けたコンテンツを考えるワークショップを行いました。
<前半:社会福祉法人 めだかすとりぃむ所長 山下朋和さんの講演>
「地域を耕そう」
山下さんは、子供、若者、お年寄り、ハンディがある人、誰もが主役でありのままでいれる、まちをつくるために活動されてきました。この活動は、ハンディがある山下さんの弟 純平さんに「せっかくまちにいるのだから、ハンディある人もない人も一緒に遊べるようさせてあげたい」と思ったことがきっかけとなったことなど、1983年スポーツクラブを設立してから、現在に至るまで30年に渡る自身の活動の歩みを振り返りました。
「訓練ではまく、まちの中での体験」
訓練で障がいを改善して初めてまちでの活動に参加出来るという、支援の在り方に疑問を感じた山下さんは、ハンディがある人もない人も皆が楽しめる企画を実行します。同年代の友達と旅行、カラオケ、プールなどで共に遊ぶことを通して、自分が本当に好きなことを余暇活動に選べるようにしました。今ではマラソンが大好きという純平さんの姿を見て山下さんは「訓練ではなく、まちの中での体験が生きる力になると実感した」と語りました。
「ひとつひとつまちの人たちと関わり、繋げていく」
働くということに関して、「ハンディがある人は能力が低いのだから給料が少なくて当たり前だ」という風潮を前向きに変えたいと思う山下さんと、「自分が作って誇りの持てる仕事をさせたい」という山下さんの両親の想いがありました。
そこで、山下さんのご両親は、障がい者の就労支援を行うNPO法人ぱれっとに活動の様子を見学しに行き、障がい者の働くことの価値を高めるというぱれっとの想いに感銘を受け、事業ノウハウを教えてもらいました。山下さんは、ぱれっとを目標として事業を少しずつ形にしていき、本物の商品を作るすいーつばたけが誕生します。
また、山下さんは地域のひとと関わっていく中で、ある人気ケーキ屋さんと知りあったことを話しました。実は、このケーキ屋さんのご兄弟にハンディがあるお子さんがいたのです。そのこともあり「ハンディがある人もいきいきと働けるようにしたい」という山下さんの想いにケーキ屋さんが共感して下さり、レシピを無償提供して下さったことを山下さんは嬉しそうに話しました。
山下さんがまちの人たちと関わり、ひとつひとつの出会いを大切にしたことで、年間2000万円以上の売上を誇るお菓子屋さんが誕生しました。
「まちの人とのつながりを大切にした」と山下さん
「すべての人が生きていく上で大切な三本柱」
めだかすとりぃむの三本柱は「自分らしく生活する」「いきいきと働く」「楽しく余暇を過ごす」です。この三本柱は、ハンディがあるなしに関わらず「全ての人が豊かに生きていく上で大切なこと」と山下さんは語りました。
特に、いきいきと働くために、めだかでは「施設ではなく、お店として価値を提供して、質の高い商品を作ること」を大切にしています。本物を作る職場がメンバーを育てるという考えの元、報告・連絡・相談はもちろん、挑戦したい仕事を言ってもらう、ことでメンバーを育てています。
今では、店舗は地元のマダムたちのたまり場になっていて「障がい者だから来てくれるのではなく、くつろげるからお茶をしたいとお客様に言ってもらいたい」山下さんは語りました。また店舗だけでなく、デパートでも販売して、有名店にも負けない商品作りに励んでいます。いいお店を作り丁寧な接客、元気な挨拶を通してお客様と繋がっていき、最近では、保育園で園児達にパン作りを教えるなど、仕事を通して自然にまちの一員となっています。
また、めだかすとりぃむでは、メンバーだけでなく、職員も共に努力することを大事にしていて、商品作りのプロを目指します。「そこで苦労した経験で、商品の価値の高さが分かり、一緒に汗水を流して働くことがメンバーの支援に繋がる」と山下さんは語ります。
「本人が幸せに働ける場所」
ハンディがある人は、特別支援学校を卒業すると施設に行くのが当たり前でした。しかし山下さんは、「私たちが色々な企業と面接して就職を決める様に、一番どこで働きたいかを大事にしていて、就職率100パーセントを目指すのではなく、本人が幸せに働ける場所を探すことを大切にしています」と語りました。そして、この街で幸せにいきていくために、ボランティアや安行の町会長、商店街の方々とのつながりを大切にしていると話しました。
<質疑応答>
参加者からの質問で、地域の人を巻き込む難しさや展開の仕方を尋ねられた山下さんは、「まちの人達に丁寧に足を運び関係を作り共感してもらう。無駄なことだと思わず、ひとつひとつ丁寧に行うことがまちづくりに繋がる」と話しました。
また、ハンディを持たない同年代の方が企画へ参加するためにどのような働きかけをしているのかという質問には、「ボランティアの人も楽しければ参加したいと思うので、そのことを意識している」と話しました。
続いて、渡邉幸義氏(アイエスエフネットグループ代表)が、インド、マレーシア、ベトナム、シンガポールに訪問した報告を行い、現地の障がい者雇用の現状と今後のアジア展開に関して話されました。
すべての人々がやりがいをもって働ける環境を実現すべく、ITを通して雇用の創造を行うアイエスエフネット。渡邉氏は、世界展開を目指して事業展開する中、「障がいに合った仕事を作っていくという」発想に変え、軸となるIT事業以外にも、喫茶店、貸しタオル等事業を展開する予定があることを話しました。また、福島でスタートした「匠cafe」を2012年11月 青山にオープンさせる上で、「青山で働けることで障がいを持つ人の親が喜ぶ」「障がいがある人は満足度が高い接客を行える」と今後の事業に関して語りました。
また、アジア訪問の報告では(日本ではベトちゃんドクちゃんとの愛称でお馴染み)ベトナムのグエン・ベト氏と障がい者雇用を手を取り合い共に進めていくことを話したことや、インドで開催される「アジア知的障害会議」で、インドでの展開を考える「匠cafe」の話をすることで、アジアの参加国が関心を持ち、「匠cafe」によって障がい者の居場所が全世界で出来ると力強く語りました。また、国と国とで障がい者雇用のエクスチェンジを目指すと語り、政治問題は関係なく障がい者雇用は世界共通の課題であると述べ、韓国と障がい者雇用において協力関係を作ったことを話しました。
アジアでの展望を語る谷口氏、渡邉氏
NPO法人ぱれっと理事 谷口奈保子氏は、インドでスラム街の貧困層の障がい児の教育に取り組む インド サマダン代表 プラミラ氏から「彼らが大人になった時に働ける場所を作って欲しい」とお願いされた際に、資金やノウハウの必要性を感じ、今回渡邉氏に協力をお願いしたことを語りました。インドでは貧富の差が激しく、現地ではサービス業が成功しないと思っているので、スラム街でカフェを作り、さらにお弁当販売を成功させることは「アジアの障がい者雇用に光を当てる」と語りました。
<後半:働き方メッセ(仮称)の構想と実施に向けたコンテンツを考えるワークショップ>
雇用は障がい者に限ったものではなく、インドのようにそもそも雇用が厳しい国もあれば、日本のように、新卒20万人が働き口があるが、働いていないというギャップがあります。このギャップを解消するためには、自分の有り方としてどう働きたいのか、仕事を通じてどう有りたいのかを考える機会が必要です。
今回、どんな働き方をしている人がいるか、どんな人を受け入れているかを見せる場所としての「働き方メッセ」というイベントの開催を提案しました。そこで、どういうプログラムや場所を作ったら、フリーター、障がいを持つ子の親御さん、障がいを持つ方、大学生、様々な立場の方に来てもらえるのかについて、参加者同士でグループを組みワークショップを行いました。
ワークショップでは様々なアイデアが挙がりました。
・障がい者雇用は工場勤務など、業種が限られているので、芸能やファッションなど、幅広い業種で可能性があることを示す
・働いていないからこそ、強みをどのように活かせるか自由に浮かぶアイデアがある。それを企業の人事に知ってもらうために、保護者、先生、本人が得意なことをアピールするアイデアコンテストを開催する
・キッザニアのように行動を通して人と人とが触れ合うもの。どんな人がいるのかお互いに分かりあえる場
・実際に企業の仕事が体験が出来るブース
・市内での職業体験
・当たり前(終身雇用)と言われる働き方以外の生き方・働き方を集める
・サラリーマン以外の働き方、時間や場所にとらわれない働き方
・こどもを対象としたお祭りの中のハローワークの中から、子供が選んで仕事をして、その対価として地域通貨を使える仕組み。それで、遊び、仕事体験、コミュニケーション能力を培っていく
・紙芝居を使って働く幸せを伝えるコミュニケーションアート
・人の役に立つことで、向上心が芽生え、誇りを持てることを伝える
・価値が適切に評価される仕事を伝える
・人と人とのつながりを大事にして活躍の場所を広げている会社に来てもらう
最後に、SBNとしてなぜ「働き方メッセ」を企画しようと考えたかについて説明しました。。
「人間は海に浮いてる島に例えられます。(西村佳哲さんの著書から引用)海から浮いて見えている島の部分は、仕事そのものやいい評価です。しかし、人の中にはその裏に深い考え方や価値観があり、さらに深いところに自分がどうありたいかという願いがあります。特に、この最も深いどう有りたいかの部分は、若い世代になればなるほど言葉になりにくいですし、見えている仕事だけでは海に沈んでいる部分が見えません。障害のある方の雇用を増やしていき、当たり前にしていくかの研究をもっと広くするにはどうしたらよいのかを、谷口さん、渡邉さんと共に考えています。この様に間口を広げて思い切った形を取ると、就労困難者や障がい者も含めた雇用問題を解決出来ると思います。」
本メッセは2013年5月の開催を目指し、これから実行メンバーを募り、一からイベントを作り上げて参ります。興味のある方は事務局までご連絡下さい。是非一緒にこのメッセを作りましょう。