【レポート】第59回 社会事業家100人インタビュー:(特)Co.to.hana 代表理事 西川 亮氏

社会事業家100人インタビュー第59回 先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2019年3月4日(月)19:00~21:00 於: Co.to.hana 東京オフィス

(特)Co.to.hana 代表理事 西川 亮さん

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プロフィール:

1986年大阪生まれ。神戸芸術工科大学を卒業後、(特)Co.to.hanaを設立。社会や地域の課題に対して、デザインが持つ「人に感動を与える力」、「ムーブメントを起こす力」、「人を幸せにする力」で解決をめざし活動。高校生のキャリア教育プログラム“いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)”やワークサポート施設“ハローライフ”でグッドデザイン賞。AERA/日本を突破する100人に選出。
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
課題が困難で多様であるほど、その解決に挑む事業に求められる専門性の多様さも必須であり、すでに生活支援をはじめとする福祉などでは、多職種の連携が前提として求められている。同様に、会計や法務をはじめとする多様な分野の専門家が、NPOや社会事業家の支援を通じて社会の課題に触れ、自らの専門性を活かして、事業の最前線に立つ人々も増えつつある。デザインやコミュニケーションも、その活躍が期待される分野のひとつだ。NPOや社会事業家を支援するとともに、自らプロジェクト組成や人材育成にまで拡げつつある西川さんのチャレンジの過程から、多様な専門性を持つ人々との連携の有効性や可能性を学んでほしい。
 
デザインで社会を変えたい
2010年の大学卒業後すぐに、就職せずにCo.to.hana(注)を設立しました(同年12月に特定非営利活動法人の認証取得)。2019年3月現在、拠点は大阪と東京、スタッフは19名(正職員14名+アルバイト5名)です。「デザインで社会を変える」というミッションのもと、「デザイン」、「プロジェクト」、「デザイン研修」という3つの事業を展開しています。事業規模は2014年度の2,478万円から17年度には10,784万円と推移しており、立ち上げから現在まで順調に見えるかもしれませんが、日々試行錯誤の積み重ねで10年目を迎えようとしています。
バブル崩壊の時に親が借金を背負ったため、私も中学生から新聞配達などアルバイト漬けの生活でした。生まれてきた環境や経済格差によって将来を選べないことへの絶望を感じていた高校生の時、建築家の安藤忠雄氏に会う機会がありました。意志の強さで逆境を切り開いてきた彼の生き方に衝撃を受け、私も、アイデアと行動によって自らを取り巻く環境を変えよう!と決心したのです。
それからは猛勉強し、大学に現役合格。アルバイトで月に20万円ほど稼いでいたので、入学金や当面の学費に充てることができました(現在も奨学金を返還中です)。入学後、勉強の一環として、有名な建築家が手がけた全国各地の建物を見て回ったのですが、利用者やそこで働く人たちから話を聞いてみると、「使い勝手が悪い」「メンテナンスがたいへん」などの不満が多く、とても驚きました。この体験から、「納品して終わり」ではなく、前後のプロセスこそ重要、つまり、使う側の人たちと一緒に考え、周辺環境や用途に適したデザインにし、完成後も継続的に改善にかかわるべきだと強く感じたのです。
最近でこそ「コミュニティデザイン」という言葉を聞くようになりましたが、当時はそういったことを手掛けるデザイン事務所はありませんでした。パイオニアである山崎亮さんの(株)studio-Lでインターンをさせてもらう機会があり、そのたいへんさはわかったものの、結局は自分でやるしかないと決意し、Co.to.hanaを立ち上げた訳です。
 
想いをカタチにするための支援を
最初は仕事が来ないので、日中はコンビニエンスストアで、深夜は居酒屋でアルバイトしつつ、街に出ては、「ここを変えたら使いやすくなるのでは?」、行政のウェブサイトをチェックしては、「こうしたら見やすくなりますよ」などと勝手に提案して、お手伝いするところからスタートしました。
そのうち地域の人たちとつながって事業を行うようになると、団体のデザイン周りのことについてNPOスタッフから相談を受けるようになりました。パンフレットやウェブサイトなど広報ツールの改善、オフィスの空間・イベント展示のデザインなど、どこに頼めばうまくいくのかわからなかったというのです。ほとんどは、団体内で知識と技術をもつスタッフが空き時間に手掛けていたり、ボランティアにお願いしたりという状況。外部のデザイナーに依頼した場合も、コミュニケーションがむずかしい場合があるようでした。
また、NPOの代表者の多くは、デザインについての優先順位が低く、「そんなことにお金を使うのはもったいない」と、日々の活動に注力しがちです。その結果、コミュニケーションツールが団体のビジョンとつながらず、外部に認知されにくくなってしまっています。「イベント告知しても伝わらなかったり、寄付が集まらなかったりという影響がありますから、デザインは経営に直結しているんですよ」と、強調してお伝えするようにしています。
(特)日本視覚障害者柔道連盟のブランディングをお手伝いしたときには、ロゴマーク、ウェブ、ガイドブック、名刺などのツールをつくるにあたって、まず、監督やコーチ、選手、事務局を交えたワークショップを実施しました。「そもそもこの団体は何をめざしているのか」というところから、普段あまり顔を合わせる機会がない人たちと一緒に考え、すり合わせる過程を経ると、自分の言葉で団体の活動とデザインの関係を説明できるようになります。
コミュニケーションツール改善のポイントは、「いかに削ぎ落とすか」です。たいていはメッセージを盛り込みすぎていて、何を伝えたいのかがぼやけてしまっています。「私たち」ではなく「顧客」を主語にして考え、本当に必要なことばだけ残してエッジ(切れ味)を出すよう、一緒に考えていきます。
 
社会課題にプロジェクトで取り組む
住宅地の中の空地・空き家を活用して、「農」を通して地域住民の交流を生み出す場づくりを行っています。2011年に始めた北加賀屋みんなのうえんでは、さまざまな世代や立場の人がかかわって、チームで野菜を育てています。収穫物を活用したケータリング、カフェ運営やイベントも開催されるようになりました。家賃や人件費も捻出できる事業モデルに成長したことで国土交通省も注目し、特定非営利活動法人や企業等の民間主体が空き地等を活用して公園と同等の空間を創出する取組に対して、固定資産税・都市計画税が軽減される「市民緑地認定制度」ができました。
ツムグバは、18年4月に尼崎市内に設立された地域拠点です。子ども・子育てにかかわる個人・団体が、高校生の不登校支援としての放課後カフェ、障がいがある子どもとその親のためのセミナー、子ども食堂、チャリティショップ、学習支援など、さまざまなプログラムを提供しています。事業としてはまだ赤字ですが、ゆるやかな連携・協働によって、子どもをめぐる課題への包括的な支援のチャレンジを始めています。自身の体験からも、子どもが周りのせいにして夢をあきらめてしまうことがないよう、小さな成功体験を地域でつくっていければと考えています。
コミュニティデザインには、参加者が徐々に運営に参画していけるように、楽しめるポイントやわくわくできるかかわりを含めることを心がけています。また、きっちり決め込むのではなく、参加者が自由に動ける余白を設けておくことも大事です。本人の納得と決意が主体性の原点。周りからの押し付けでは続きません。
そのためには次世代の巻き込みも重要です。Co.to.hanaでは随時インターンを募集し、若者に活動の場を提供しています。これからの社会を支える学生が、社会課題を解決するためのデザインの必要性を体感し、社会に出てから実践する担い手が増えたらと考えています。
 
コーディネーターとしてのデザイナー育成
デザイン事務所の社会貢献としてなら、プロボノのようなスタイルで外部から支援するのが普通ですが、私たちは自らのプロジェクト事業として、赤字でも事業運営に取り組んできました。その理由は、社会課題を解決するには、デザイナーやクリエイターの言葉とNPOの言葉の両方を理解するコーディネーターが必要だと実感しているからです。ただ、スタッフの志向・得意分野はそれぞれなので、全員が私の立ち位置をめざす必要はなく、お互いのスキルを活かしあい認め合う「チーム」であればいいと思っています。各プロジェクトと同じように、Co.to.hana内でもつなぐ役割は必要ですし、多様性があるからこそ成果が生まれています。
私たちのアウトプットは、グラフィック、建築・空間からコミュニティ、イベントまで幅広く、商業デザインからは得られない面白みがあるからでしょうか、まだ採用には至っていませんが、海外の方からの応募も増えており、注目度の高まりを実感しています。
 
可視化して、組織の方向性を再確認
当然ながら、組織内文化(意思決定のあり方など)が共有されていないと、外部との協働もうまく進みません。
Co.to.hanaのパンフレットの表紙には、空の写真を使っています。雲の中(もやもや)をくぐり抜けて青空に出るイメージです。実は、5年目までは自分がすべての事業にかかわり、相手の顔も見えていたのですが、スタッフの人数が増えてそれが難しくなり、行きづまったように感じた時期がありました。そこで、団体のパンフレットづくりを通して言語化したのです。それで見えてきたのは、デザイナーやクリエイターが誇りをもって地域の課題解決にかかわれるようにしたい、というグランドビジョンでした。
今はデザイン事業とプロジェクト事業、それぞれから得る知見を相互に生かすいい循環ができており、デザイン研修事業では、それらを整理して伝えています。NPO側がデザイナーの業務をよく知らないために、無理な発注をしたり、希望をうまく伝えられなかったりということも起きていますので、今後は、そういったことを防ぐためのプログラムも開発していきたいです。
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(注)Co.to.hana(コトハナ)という団体名は、Co:様々な人が集まって協力すること、to:社会へメッセージを届けること、hana:想いをカタチにすること、を表している。

(文責:棟朝)

 
今回の「社会事業家100人インタビュー」ご参加費合計のうち5,000円は、Co.to.hanaへ寄付させていただきました。

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