【レポート】社会事業家100人インタビュー特別企画 株式会社山形県自動車販売店リサイクルセンター 専務取締役 菅原 弘紀氏

社会事業家100人インタビュー特別企画
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2015年10月25日(日)

菅原 弘紀氏

ゲスト:菅原 弘紀さん 
株式会社山形県自動車販売店リサイクルセンター 専務取締役
特定非営利活動法人山形県自動車公益センター 専務理事
<プロフィール>
1966年トヨタカローラ山形(株)へ途中入社。74年より所長職。以後・各地域を担当、2001年2月の本社営業本部地区長を最終とし、同年2月(般社)日本自動車販売協会連合会山形県支部常務理事として出向。翌年、専務理事就任。05年9月、同支部会員のメーカーディーラー全社の出資により、(株)山形県自動車販売店リサイクルセンターを設立。09年1月には、同支部の公益活動を基に、新たな取り組みをスタートさせるため、(特)山形県自動車公益センターを設立。山形県内自動車販売業界が一丸となって、環境に配慮した取り組み、エコドライブ推進、エコカー普及、環境マイスター認定制度支援、エコ整備(法定定期点検)推進、交通安全推進の他、循環型社会の構築にむけた開発研究等(再利用、再商品化、再資源化)、効率的な作業を行っている。
 
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<今回のインタビューのポイント>(川北)
自動車の販売に永く携わり続けてきたからこそ、自動車が販売された後に、ドライバーによって運転され、廃車されるまでのライフサイクルを通じて発生する社会課題に挑み続ける菅原さん。同じ課題に向かう行政やNPOと連携しながら、具体的な手法を試し続けているところに学んでほしい。
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自動車販売業界の社会的責任に、協働で挑む

 
自動車を「社会悪」としないために、パートナーシップを組む
山形県において、自動車とは生活になくてはならない必需品です。
今から30年程前のバブル経済・まっただ中のとき、私は自動車販売会社の米沢営業所に勤めておりました。
当時は「交通戦争・交通地獄」と言われるほど多発交通事故が深刻な社会問題となり、悲惨な事故がおこるたびに、消費者団体や婦人団体から怒りの声があがるなど、私自身、自動車販売に携わる者として、いたたまれない思いが続く日々でした。山形県警に勤める友人に、「交通事故のない社会をつくりたい」と交通安全キャンペーンの開催を相談したところ、「良いことだから米沢市だけでなく県内で一斉にやるべきだ」と後押しされました。
その為、山形県警と(般社)日本自動車販売協会連合会山形県支部(以下、自販連山形県支部)との連携により、自動車メーカーディーラー全社の拠店長が山形市内ホテルへ一同に集まり、交通事故を防止し、安心安全で暮らせる交通社会の実現に向けた組織を結成、山形県自動車販売店交通安全対策推進協議会がスタートしました。その翌年には全国に広がり、(般社)日本自動車販売協会連合会交通安全対策協議会が発足し、全国各地域においてそれぞれのやり方で交通安全対策を推進しています。
1997年の地球温暖化防止京都会議(COP3)で京都議定書が採択され、日本ではCO2の約2割を自動車等の運輸業が排出しているということを知り、ショックを受けました。自動車の排ガスは、ユーザーが車の乗り方を変えることによって低減できます。車間距離をとって急ブレーキを避ける運転は、安全運転でもあります。これまでの活動と同じ仕組みで、地球温暖化も防止できると考えました。
経済活動と環境保全は両立できるし、両立できなければ長続きしません。安全運転で事故を減らすとユーザーは保険料が下がり、排ガスを抑える乗り方でガソリン代も節約できます。ちょうどその頃、低公害車(エコカー)の普及推進が始まり、県庁と協働で取り組むことになりました。県庁の駐車場を借りて、県内のメーカーディーラーから低公害車を集めて展示会を開催。「民間団体に県庁の駐車場を貸すとは何事か」とのクレームもありましたが、地球温暖化の防止という目的は行政と共通しており、県庁の担当者ががんばってくださいました。
その後も行政とは10年間以上継続して協働していますが、行政と業界団体が長期にわたって協働する環境の取り組みは世界的にも珍しいと注目され、14年10月には国連本部(ニューヨーク)にて開催された国連エコドライブカンファレンスの事例発表には日本から他の2団体とともに私ども自販連山形県支部・(特)山形県自動車公益センターが招かれプレゼンをする事ができました。自動車を生業とするものとして、自動車を社会悪だと言い訳したくはありません。環境問題も交通安全推進も、話し合い・理解が深まれば行政はバックアップしてくれます。
 
環境マイスター認定制度を山形に立ち上げる
地球温暖化については、当時、自動車を販売する私たちに十分な知識がなかった事から、3,000名以上いる山形県内の自動車販売スタッフ全員に学ばせるための資金を得ようと、05年に「先駆的省資源・省エネルギー実践活動等推進事業」という内閣府の公募事業に応募、結果は次点で採用されませんでしたが、環境市民(京都府)というNPO法人と出会うきっかけとなりました。環境市民は「環境に配慮した買い物(グリーン購入)」の普及をめざして、消費者に環境配慮型製品について適切な情報が伝えられる販売スタッフを増やすことに取り組んでいました。そこで、山形県では環境市民と私たち自販連、サッシ・ガラス協同組合、家電の販売組合等が協働して、地球温暖化防止、省エネルギー、グリーン購入等の知識を学び試験を突破した販売スタッフを「環境マイスター」に認定する制度を始めました。
認定を受けた販売スタッフは、エコカーやエコ運転がいかに節約になるかということもしっかり説明するなど、地球温暖化防止と経済的なメリットの両方を伝え、交通事故削減にも貢献できます。販売スタッフが自信をもって接客できることで、販売店のモチベーションも上がるなど、環境マイスターが増えることは、自動車販売業界全体のステータス向上へと繋がります。
翌年、同公募事業に再度チャレンジし、その時に認められた予算では、私たちだけが知識を得るにとどめず、エコ安全運転を広く呼び掛ける「YBCやまがたドライビングエコ」というラジオ番組をスタートし、その後も10年にわたり継続して放送しています。
山形県では環境マイスターが900人を超えました。環境マイスターによるエコ安全運転の啓発活動は10年間で750回を数えます。更なるエコ安全運転の普及推進のために、今年からは小学校5年生の子どもたちに地球温暖化を伝え、その対策としてのエコ安全運転を早期教育する「こどもエコドライブ推進事業」を始めました。修了後に子どもライセンスを発行すると、子どもたちは喜んで親にドライブマナーを伝えたり、子どもの目線で「エコでないドライブ」を指摘するなど、子どもたちを巻き込みながら社会を変えるプログラムです。
山形県自動車公益センター
使用済み自動車の適正処理事業への挑戦
日本では年間約360万台の自動車が廃車になっています。鉄やアルミ等の金属部分以外はリサイクルされず廃棄されることが多く、時に不法投棄という問題も発生します。その対策のために、自動車リサイクル法が05年に施行されましたが、その直前に、県内で過去最大規模の不法投棄事件がありました。倒産した廃棄業者が6,000台もの廃車を山間部に放置したのです。撤去するためには、一台ずつ、元の持ち主であるお客様と連絡を取る必要がありました。そこで、お客様は私たちを信じて買い取り(下取り)を頼んでくださっているので、自分たちにも責任の一端があると気づかされました。
当時、県内には廃棄・解体業者が4団体、54事業所があり、このような不法投棄が2度とないよう県内組織を作り、どこかが倒産したときは、業界として責任を持つようにして欲しいとの話し合いを何度も行いましたが、どうしても話し合いが付かず、やむえず、私ども県内全メーカーディーラーの総意として解体業をやる事になりました。
コンセプトは「新車の販売から使用済みの適正処理まで一貫して責任を持つ体制」です。
新しい解体業の立ち上げについては、検討委員会、準備委員会を作り、当時、私は自販連の山形県支部の専務理事を務めていたため、事務方責任者として(株)自動車販売店会館の分社という初めての手法で新会社を立ち上げ、持ち株会社が誕生しました。そして山形日産自動車(株)が経営していた前北部産業を従業員数10名と一緒に譲り受けましたが、予測される規模に備えるためには、設備投資だけで3億円が必要でした。銀行との交渉の結果、借り入れが叶い、当初借入資金は返済を終え、その後の庄内事業所等追加投資分の一部を現在返済中です。
11年からは、海外への自動車部品等輸出事業を開始、リサイクル部品の流通に向けた連携先は、マレーシア、ドバイを通じて中近東、タンザニア、UAE、などに広がりました。近年、海外と仕事をするなかで、日本人が物を大事にしなくなったことを痛感しています。タンザニアでは、少ないものを分け合って素朴に生活しています。でも、東南アジアでは物があふれてきていて、高度成長時代の日本と同じだと感じます。世界に影響を与えうるからこそ、今、私たち日本人は3R(リサイクル・リユース・リデュース)+リスペクト(物を大切にする心)を伝えたいとの考えで、シートベルトやエアバッグをリサイクルした商品を各販売店店舗棟で展示しています。設立10周年記念で若いデザイナーの力を借り、新たな商品のリサイクルバッグをつくってみたら、大変大きな反響がありました。山形に新しい雇用をつくりながら、リサイクル商品をつくりたいというのが、長年の想いです。日本の20年、30年前の状況を繰り返さないよう、日本はリサイクル技術も海外に示していかなければなりません。
今取り組んでいるのは、古タイヤの農業用の暖房資源への転用です。ヘッドライトを水耕栽培用のライトに、バッテリーをソーラーパネルで発電した電気の蓄電に使うなどの活用を実験的におこなっています。省エネとエコ安全運転には経済的なインセンティブがありますが、課題はリサイクルです。自動車販売業界としては、廃車までのライフサイクルを通じて環境負荷の少ない車を、製造過程より考慮してもらいたいと願っています。
(取材日:2015年10月22日)
 
(文責:前川)

第46回「社会事業家100人インタビュー」(12/1@(株)クレアン東京本社(目黒))参加者募集

『社会事業家100人インタビュー』(12/1)
ゲストは(株)クレアン 代表取締役 薗田綾子さん
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社会事業家の先輩にビジネスモデルを学ぶ!
社会事業家100人インタビュー 第46回
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社会と企業の持続可能性の向上に、
ビジネスを通じて挑戦する
(株)クレアン 代表取締役 薗田綾子さん
薗田さん トップ画面
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2015年12月1日(火)19:00~21:00
@(株)クレアン東京本社(目黒)
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先輩社会事業家からビジネスモデルを学ぶための本企画。
SBN理事・IIHOE代表川北秀人がインタープリターとなり、
直接先輩事業家に学び、質問することができる対話型講座です。
今回のゲストは、(株)クレアン 代表取締役 薗田綾子さん。
女性の活躍推進から環境ビジネスへ、そしてCSR推進、サステナビリティ経営
への転換の後押しと、次々と事業を展開しながら、持続可能な社会を実現
するためのインパクトを与え続ける薗田綾子さんに、これまでのビジネスの成り立ちを伺います。
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● 開催概要
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日時:2015年12月1日(火)19:00~21:00場所:株式会社クレアン 東京本社 会議室
東京都港区白金台3丁目19-6 白金台ビル5階
(JR山手線 目黒駅から約7分)
http://www.cre-en.jp/company/access/定員:約20名
対象:社会事業家として事業を始めている方、これから始めようとされている方
ビジネスモデルの作り方を先輩社会事業家から学びたい方

参加費:
SBN会員: 1,500円
SBN非会員: 2,500円

https://socialbusiness-net.com/guide
※うち500円は、ゲストの指定する寄付先に寄付させていただきます。
※希望者の方は終了後に1時間程度懇親会にご参加いただけます。
(同会場にて。事前申し込み制。懇親会参加費2,000円)
※12月より、社会事業家100人インタビューの参加費受付は、
事前精算のチケット購入「Peatix」にて受付させていただきます。
事前にクレジットカードかコンビニ決済によって入金いただく形になります
ので、お手数ですが事前にこちら→ http://peatix.com/event/125900
から申込みをお願いします。
なお、事情によりどうしても事前申込が行えない場合は、問い合わせ先までご連絡ください。
主催:一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク(SBN)、
IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所]

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株式会社クレアン 紹介
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1988年、女性を中心にしたマーケティング会社として始まった(株)クレアン
女性が活躍できる職場をつくりたい、との想いから女性就職情報誌「Salida」の
創刊や、日本初のインターネットマガジン「ベンチャーマガジン」の創刊などを
手がける。
同時期に環境問題にも関心を持ち、地球村 代表 高木善之監修の「地球は今」
シリーズ全10巻の出版や、NECと共同でスタートした環境情報マガジン
「エコロジーシンフォニー」、など、環境コミュニケーションビジネスを次々
と展開。2000年からは、社会を変革していくためには社会的に影響力の大きな
企業が変わることが重要という考えから、企業の環境報告書・CSRレポートを
はじめとした情報開示およびステークホルダーコミュニケーションの支援、
CSRマネジメントの推進を一貫して進め、これまで支援してきた企業の数は延べ
600社を超える。
「2020年に向けて、事業を通じて地域、国という枠組みを越えた地球と人、
人と人とがつながるサステナブルな社会を実現します」という2020年ビジョン
を掲げ、次は2030年ゴールに向けて新しいビジネスモデルのスタートを準備する
(株)クレアン
本業に加えて(特)社会的責任投資フォーラムの理事やGRIガイドラインをはじめ
とする国際的フレームワークの普及を行う(特)サステナビリティ日本フォーラム
の事務局長なども務める薗田さん。
女性の活躍推進から環境コミュニケーションビジネスへ、そして本格的なCSR推進、
サステナビリティ経営への転換を推奨する(株)クレアン 薗田さんのビジネスモデル
の変遷を伺います。
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● ゲストプロフィール
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薗田 綾子(そのだ あやこ)さん
株式会社クレアン 代表取締役
特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム 事務局長

兵庫県西宮市生まれ。甲南大学文学部社会学科卒業。
1988年、女性を中心にしたマーケティング会社クレアンを設立。
1995年、日本初のインターネットウィークリーマガジン「ベンチャーマガジン」
を立ち上げ、編集長となる。
そのころから、環境・CSRビジネスをスタート。
現在は、大阪ガス(株)、(株)セブン&アイ・ホールディングス、日本たばこ
産業(株)、明治ホールディングス(株)、ユニ・チャーム(株)、横浜ゴム(株)
など延べ約600社のCSRコンサルティングやCSR報告書の企画制作を支援。
特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム事務局長、
特定非営利活動法人社会的責任投資フォーラム理事、
環境省チャレンジ25キャンペーン関連事業推進委員会委員、
内閣府「暮らしの質」向上検討会委員、日経ソーシャルイニシアティブ大賞審査員、
また次世代への教育活動として東北大学大学院および大阪府立大学大学院の非常勤講師
などを務める。
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● プログラム
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◇ ゲストのご紹介、趣旨説明
◇ ゲストご自身からビジネスモデルの紹介
◇ インタビュー
インタビュアー:ソーシャルビジネス・ネットワーク理事、
IIHOE代表者 川北秀人
◇ 参加者からの質疑応答
・参加者からの質疑応答の時間を設けますので、
ご参加いただく方は1人1回はご質問ください。
・ゲストの事業についてご理解いただくために、事前資料をお送りします。
(参加申込いただいた方にご連絡します。)
・希望者の方は終了後に1時間程度懇親会にご参加いただけます。
(同会場にて。事前申し込み制。懇親会参加費2000円)
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● 申込みについて
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2015年12月より、社会事業家100人インタビューは、事前精算のチケット購入
「Peatix」にて申込み受付させていただきます。
事前にクレジットカードかコンビニ決済によって入金いただく形になりますので、
お手数ですが事前にこちら↓
http://peatix.com/event/125900
から申込みをお願いします。

申込締切:11月30日(月)
*定員になり次第、締切らせていただきますので、お早目にお申込みください。
*なお、事情によりどうしても事前精算・申込が行えない場合は、問い合わせ先までご連絡ください。
*当日急遽参加になった場合は、会場にて対応いたしますので、受付スタッフにご相談ください。
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【お問い合わせ先】
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一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク
TEL:03-6820-6300
FAX:03-5775-7671
e-mail:100info@socialbusiness-net.com
@の部分は半角に変換して、お送りください。
◇本プロジェクトのfacebookページ
http://www.facebook.com/100JapaneseSocialEntrepreneurs

【レポート】社会事業家100人インタビュー (特)3keys 代表理事 森山誉恵氏

社会事業家100人インタビュー第43回 
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2015年10月21日(水)19時~21時
於:ETIC.ソーシャルベンチャー・ハビタット

ゲスト:森山誉恵さん 特定非営利活動法人3keys 代表理事

(特)3keys 森山誉恵氏

 
<プロフィール>
大学時代から子どもの教育・福祉にまつわる活動を続け、(特)3keysの代表理事として、虐待や貧困のもとで暮らす子どもたちや、児童養護施設などで保護されて暮らす子どもたちのサポートを行っている。東京都生活文化局主催「共助社会づくり検討会」の委員。現代ビジネスで「いつか親になるために」を連載中。
◇受賞・表彰歴
2011年社会貢献者表彰 社会貢献部門受賞/2011年ロハス大賞「ヒト」部門ノミネート/ウーマンオブザイヤー2014にて若手リーダーとして紹介/AERA「2020年 主役の50人」にて選出
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
あまりにも大きいニーズに対して、現段階での同会の働きかけは、質・量とも不足している状況。しかし、対象を明確に設定し、課題へのアクションを急速に積み重ねてきた結果、当事者がおかれている状況を明確に代弁できる力を持つようになってきた。自分たちが直接現場を運営するだけでなく、周りを巻き込んで動かす影響力をさらに高めるためにどのような取り組みが求められるか。現在進行形の事例としてお聞きいただきたい。
 
民間の立場から、社会的養護下にある子どもたちに手を差し伸べる
3keysは、親や家庭の状況(貧困、虐待、親自身の地域社会からの孤立など)によらず、すべての子どもたちが、社会から孤立することなく安心・安全に暮らしていけることをめざして活動しています。
いま日本では、「社会的養護」(乳児院・児童養護施設・情緒障害児短期治療施設・児童自立支援施設・母子生活支援施設・自立援助ホーム)のもとで暮らす子どもたちは全国に約5万人、東京都内には約4千人おり、18歳で施設を出てからも(注)、自立した生活を送るにはさまざまな困難が伴います。このような子どもたちを取りまく問題を改善するには、行政や各家庭に任せるには無理があり、民間の立場からの柔軟で継続的な取り組みがどうしても必要です。
ひとつの団体ができることには限りがありますが、3keysでは、施設入所中の子どもたちへの「学習支援」、親を頼れない子どもたちからの「相談受付」、子どもたちの現状を社会に伝え、一人ひとりがかかわる方法を伝える「啓発」という、3つの事業を行っています。常勤スタッフ2名、運営に関わるボランティアが約50名 活動にかかわる登録ボランティアが約250名という体制です。
(注)日本は諸外国と比べ里親委託率がたいへん低く、ほとんどの子どもは18歳まで施設を出られない。
 
一人ひとりの状況に寄り添い、継続的に学習を支援する
2011年から開始した学習支援事業は、施設に「学習支援ボランティア」を派遣して行う、主に中高生を対象とした個別指導です。2014年度は、都にある約100の施設のうち19施設で約120名の子どもが利用し、参加ボランティア数は約80名でした。
マンツーマンで継続的な指導を行う理由は、他の子と比較されることなく、その子の目的にそったきめ細やかな支援が可能だからです。大人がそばにいるだけで、落ち着いて勉強に取り組める子もいますし、本人も気づかなかった得意分野やつまずきやすい部分を発見できるメリットもあります。
施設は24時間体制の運営で、体力的にも精神的にもきつい業務のため、離職率が高く常に人手不足です。また施設に対しては、住民から偏見を持たれがちで、地域とのつながりが希薄なこともあります。このため、子どもたちの学習支援に取り組む余裕や、外部からの支援はほとんどありません。学校もまた、教師は常に業務過多で、一人ひとりの生徒に向き合う時間はないのが現実。結果、子どもたちの学習の遅れや悩みは放置されざるを得ません。
このような状況下で、施設のこどもたちは、両親や職員、教師のような大人に対してどこか距離を置いてしまうことが多く、本当は高校や大学に行きたくても自分が言ったら笑われる・怒られると思ったり、わからないことをわからないと表明できないまま学年を重ね、あっという間に自力では勉強の遅れを取り戻せない状態になってしまうことも少なくありません。
学習支援を希望する子どもと施設と3keysは、最初の面談で覚書を交わし、「いつまでに何を目的としてどんな学習をするのか」を確認しあいます。学習の目的は、日ごろの学習サポートや受験、高卒認定試験対策や高校再入学・卒業のための勉強、外国籍の子どもの日本語学習、公務員試験対策までさまざまです。
 
ボランティアがボランティアを統括する
学習支援ボランティアを希望する人には、まず登録会に参加してもらいます。登録後の研修では、教え方の技術をお伝えするのではなく、私たちと子どもたちのおかれている環境とのギャップを知ってもらうことに重点をおいています。また、ケーススタディーで指導のイメージをつかんでもらいます。その後、その方のボランティア上の条件や技能などと子どものマッチングが完了したら派遣、という流れです。
相性という観点では、たとえば、兄弟差別を受けていた子は年の近い大人が苦手、祖父母から虐待を受けていた子は年の離れた大人が苦手など、子どもの背景や年齢によっても変わってきます。また、子どもと相性がよいからといって必ずしもいいわけでもなく、仲がよすぎても、子どもから依存されてしまったり、ボランティアもそれに応えようと頑張りすぎてしまう危険性等もはらんでいます。
ボランティア期間中は、お互いの意見交換や悩み共有の機会を設けています。また、報告書を毎週提出していただきますが、何か問題が起こると、提出されなくなったり、逆に思いがこもりすぎた長い文になったりするなどの兆候が見られます。そんな時は早めに面談し、施設にも確認するなどの対策をとっています。
ただ、週1回の支援では大幅な学習の遅れを取り戻すのは難しいこと、施設からのニーズは非常に大きいにもかかわらず、実際に支援できているのはわずかな子どもたちのみであること、生活や心の安定を保てるような支援を並行して行わないと学習支援の成果が出にくいこと、などの課題は認識しています。
 
子どもから直接相談を受け、解決にむけたサポートを行う
近年報道にもあるように、貧困や虐待といった家庭の問題は、世代を超えて連鎖する傾向がみられ、子どもが抱える問題の背景には、複数の原因が絡んでいることもよくあります。親に頼れない子どもたちは、虐待・学習の遅れ・望まない妊娠や売春、借金・麻薬などさまざまなトラブルに巻き込まれる可能性が高いです。そこで3keysでは、2014年から子どもたちが直接相談できる窓口を設け、問題解決に向けた情報提供のほか、関連した専門機関への橋渡しを行っています。
面談・電話よりも、メールでのコミュニケーションが圧倒的に多い(約1700件)のが特徴です。何回も何回もショートメールが届いたり、深夜に電話があったりなど、相談対応体制や支援ボリュームの想定が困難で、現段階では1件ごとの対応となっていますが、今後は、もっと迅速に対応できる体制や仕組みづくりが必要だと感じています。ただ、相談の多くは、すでに支援できる団体があるのに知らないだけということもわかってきました。このため、今後は支援団体の情報を集約して共有し、ウェブサイト上でも公開したいと考えています。複数機関で継続的な支援が必要な深刻なケースは、その都度専門家の協力を得たり、議論したりしています。
 
まずは、身近な子どもとかかわりを深めてほしい
3keysでの活動を始めてから、子どもたちのおかれている状況を社会に発信し、積極的な支援をお願いする重要性に気づきました。2013年度からは、企業や自治体での研修・講演依頼、原稿執筆等を積極的にお受けしています。これがきっかけとなって3keysへの寄付を継続してくださる個人の方や、社員ボランティア・プログラムとして採用してくださる企業もでてきました。特に外資系企業は、平日の業務時間内にも取り組んでいただけることがあり、不登校支援や放課後の活動にかかわってもらいやすいので、ありがたく感じています。個人のボランティアを束ねるのはたいへんなことも少なくないですが、企業の場合、共通言語やルールがあるのでスムーズで助かります。
研修・講演では、もし「子どもたちのために何かしたい」と思ってくださるなら、親戚の子の相談相手になるなど、まずは身近な子どもとかかわってください、と強くお願いしています。多様な立場・世代が関与する環境が子どもを育てるからです。子ども関係のボランティア活動を希望される方で、まだ不安が多い方には、3keysでのボランティアは特殊な環境で育った子どもたちへのサポートで、かなりハードルが高い活動だと思うので、最初は、プレーパークやキャンプなどの活動を行う団体のボランティアをお勧めしています。「Yahoo!ボランティア」や東京ボランティア・市民活動センターの「ボラ市民ウェブ」で、「子ども・ボランティア」をキーワード検索する等で見つけることもできます。もちろん、そのような団体への寄付・募金、活動への参加も立派な支援です。
特定非営利活動法人3keys 図
 
予防的な取り組みにむけて、徐々に立ち位置を変えていく
大学2年生のときに周りの人に声をかけたりインターネットで募集したりして、任意団体3keysを立ち上げ、6つの施設に飛び込み営業してスタートさせた活動ですが、やればやるほど「できていないことの大きさ」に気付かされます。専門家や行政だけでなく、近年増えてきた民間他団体との連携も必須なのですが、団体の代表者はそれぞれの思いが強く、ちょっとした違いで折り合えないことがあり、がっちり協働するのはなかなかむずかしいこともあります。
地域のつながりが希薄になり、隣家で虐待や殺人があっても気づかれなかったり、という世の中です。昔は地域でボランタリーに担われていた「子どもの育成」は、有償の仕事や市民活動にだんだんと置き換えられてきています。持続可能性がない、サービスを提供する人・される人の単純分化を防ぐためにも、川北さんのいう「子どもの時から周りの人たちとかかわりを深め、周りの人の力をポジティブに引き出す力」をはぐくむような予防的な取り組みを視野に入れ、将来的には、子どもと接する人の育成や、公教育改善の提言にも取り組んでいけたらと考えています。
(文責:棟朝)

「社会事業家100人インタビュー」での寄付額・寄付先のご報告

「社会事業家100人インタビュー」では、
参加者からいただく参加費のうちお1人500円分については、
ゲストの指定する団体への寄付を行っています。
これまでの寄付先と金額について、下記のとおりご報告します。
ご協力いただいた参加者のみなさま、本当にありがとうございました!
寄付総額: 382,100円
(2020年4月9日時点)
【寄付先リスト】(2020年4月9日時点)
*寄付をした日付順に掲載
3000円 特定非営利活動法人チャイルドケモハウス
2500円 特定非営利活動法人D&P
5500円 一般社団法人健診弱者を救う会
(現・一般社団法人 みんなの健康
5000円 スリオンパク
3500円 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン
5000円 特定非営利活動法人わははネット
6000円 特定非営利活動法人食の絆を育む会
4500円 港南台タウンカフェ
4500円 東海若手起業塾 実行委員会
12000円 株式会社西粟倉・森の学校
7000円 社会福祉法人むそう
5500円 公益財団法人京都地域創造基金
5500円 特定非営利活動法人ビッグイシュー基金
2000円 一般社団法人RQ災害教育センター
7500円 ミンナDEカオウヤショップ (ノベルティ購入)
12000円 一般財団法人みんなでつくる財団おかやま
6000円 特定非営利活動法人かものはしプロジェクト
8000円 東海若手起業塾 実行委員会
10500円 株式会社大地を守る会
3500円 海の学校
5000円 特定非営利活動法人ぱれっと
12500円 マドレ基金
6000円 特定非営利活動法人日本ホームスクール支援協会
3000円 特定非営利活動法人ジェイシーアイ・テレワーカーズ・ネットワーク
4000円 「にこまる食堂」プロジェクト
5000円 特定非営利活動法人RIVER
2500円 特定非営利活動法人北見NPOサポートセンター
4000円 フリースペースつなぎ
1500円 沖縄リサイクル運動市民の会
5000円 認定特定非営利活動法人ぐるーぷ藤
12000円 特定非営利活動法人Homedoor
9500円 特定非営利活動法人エンド・ゴール
7500円 特定非営利活動法人100万回のサアーたいへん
14000円 特定非営利活動法人 TENOHASI
11000円 特定非営利活動法人やまがた育児サークルランド
8600円 有限会社エコカレッジ
3500円 三陸ひとつなぎ自然学校
3000円 特定非営利活動法人ADDS
14000円 公益社団法人セカンドハンド
11500円 株式会社御祓川
4500円 一般社団法人グローバル人財サポート浜松
2000円 北海道エネルギーチェンジ100ネットワーク
6000円 特定非営利活動法人3keys
1500円 ねおす共有ファンド
11000円 特定非営利活動法人!-style
2500円 サステナビリティ日本フォーラム
9000円 特定非営利活動法人プレーパークせたがや
5500円 一般社団法人りぷらす
1000円 いわて生活者サポートセンター
21500円 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン
5000円 特定非営利活動法人自立支援センターおおいた
5000円 郡上里山株式会社
3500円 特定非営利活動法人自然体験活動推進協議会
4000円 NPO法人ORGAN
3500円 特定非営利活動法人秋田県南NPOセンター
3500円 認定NPO法人夢職人
2000円 フェリシモ わんにゃん基金
5000円 NPO法人Co.to.hana
8000円 はとりきっずぴあ
4500円 NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 
1500円 公益財団法人共用品推進機構
3500円 認定NPO法人育て上げネット
2000円 特定非営利活動法人まちづくり学校
4500円 特定非営利活動法人HELLOlife

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