「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」
第5回「『社会事業家100人インタビュー』
ゲスト:能島 裕介さん
(特)ブレーンヒューマニティー 理事長
<プロフィール>
1975年神戸生まれ。関西学院大学入学後、友人らとともに家庭教師サークルとして「関学学習指導会」を設立。95年の阪神・淡路大震災を契機に、同会において被災児童への支援活動を展開。98年に同大学を卒業し、株式会社住友銀行(現・三井住友銀行)入行。99年に「関学学習指導会」の法人化に向けて、同行を退職。2000年に同会を改組して(特)ブレーンヒューマニティーを設立し、理事長に就任。現在、関西学院大学非常勤講師、西宮市市民交流センターセンター長なども務める。
<今回のインタビューのポイント>
・事業のマネジメントも、組織のガバナンスも、大学生が担う
現場で活動するだけではなく、部門や組織の経営への関与も要求し、多様な人材が多角的に活躍できる機会を提供している。
・多様な大学生を募集し、すばやく育成する
大学生も顧客と位置付け、4年間という限られた時間の中で、妥協のない人材育成、ルールに基づく権限移譲を行う。
・今後は、資源を集中し、時間生産性をさらに高める
大学生の時間をさらに有効に活用できるよう、若さや体力頼みの活動ではなく、時間生産性をさらに高めるためのしくみや工夫に注力していく。
事業のマネジメントも、組織のガバナンスも、大学生が担う
(特)ブレーンヒューマニティー(以下BH)は、大学生が主体となって、青少年向けの野外活動、海外でのワークキャンプ、不登校支援、補習教室、家庭教師派遣などの事業を展開しています。現在、約750名の大学生ボランティアが活動しており、その男女比はおよそ3:7です。
BHの特徴は、現場の活動だけでなく、事業のマネジメントや組織のガバナンスも、大学生が担っていることです。本部専従職員は3名だけで、言わばコーチ・監督の役割。そのため、大学生にとってはかなりシビアな事業や組織のマネジメントに直面することになります。たとえば、「給与算定委員会」は、専従職員の給与を学生が査定しますし、「財務統括委員会」は、1年間組織を維持するためのコストを算出し、どれくらい利益を生み出す必要があるかを予測して、7つの事業部門に割り当てるという業務を担当します。
BHの主な収益源は、海外でのイベントや不登校支援などからの事業収入です。行政からの委託事業もかなりの割合を占めていますが、補助金は現在受けていません。また、人件費がほとんどかからないため、新規事業(注)は基本的に「やってまえ!」です。たとえ最初は収益が見込めないと判断されても、ニーズ・アセスメントの結果、「必要だ」となれば、その部門への大胆な人材配置も行います。
(注)障碍のある子どもたちを支援するため、(特)み・らいずとの共同出資により2010年に設立した(株)YEVISや、保護者が生活保護を受給しているなど、経済的な理由によって、塾や自然体験活動などの学校外教育を十分に受けることができない子どもたちに対してバウチャーを提供する活動を、東日本大震災で被災した子どもたちに対しても広げるため、2011年6月にBHから独立した(般社)チャンス・フォー・チルドレン(以下CFC)など、スピンアウトした新規事業もある。
多様な大学生を募集し、すばやく育成する
BHに参画する大学生を集めるために、4月の新歓シーズンには、9種のチラシ計10万枚を関西地域の大学に一斉に配布します。このチラシは、「不登校」「国際協力」「家庭教師」などそれぞれアピールポイントやキーワードが異なっていて、デザインも変えて、わざとまるで違う団体のチラシのように作っています。関西圏は大学の密度が高く、それぞれのスクールカラーが際立っており、複数の大学から多様な人材を集めることは、BHの新規事業を生み育てるにあたっての重要なファクターとなるからです。
例年、おおよそ500人からアプローチがありますが、花見から始まり鍋パーティーや1泊2日のキャンプなど、新入生向けのイベントを矢継ぎ早に実施し、お互いの交流を深めるだけでなく、BHのミッションや事業内容を早い段階で深く理解してもらいます。
BHにおける基本的なキャリアパスは、各部門でのイベントスタッフ→イベントコアスタッフ→企画責任者→企画管理者→役員ですが、中には最初から経営層志望の大学生もいるので、理事選挙を経て、早い段階で理事に就任する場合もあります。事業が多岐にわたること、青天井でチャレンジできる場を提供していることがBHの魅力でしょう。
定例会議は毎週1回、最低2~3時間実施していて、理事はこの会議によって経営の視点を学んでいきます。また、組織・事業運営におけるルールづくりを徹底し、文書化することで明確な権限移譲を行っています。BHにとっては大学生も顧客であり、育成についての妥協はしません。4年間という期限があるからこそスピードが重要で、組織のポジティブな循環を生んでいるのです。
また、2泊3日で全事業部門のマネジメントを担う学生スタッフ約100名が集まるトップ・マネジメント研修も行います。近年は関西地域の他団体と合同で実施していますが、前回は、仙台のCFC事務局から大学生スタッフが参加し、たいへん刺激を受けたようでした。この研修は、各部門の日々の現場に埋没し、ともすれば保守的になりがちな大学生スタッフが、「他の部門にポジティブに貢献せよ」「他の部門の工夫に敏感になれ」と講師から繰り返し言われることで、俯瞰的な視点を得て、新たな展開へのヒントを得る場となっています。
今後は、資源を集中し、時間生産性をさらに高める
人件費がかからないからといって、また若く体力があるからといって大学生の時間を無駄に使うことは、許されません。今後は、資源の集中と時間生産性の向上が、いっそう問われてくると思います。短い時間でよりよい成果を出すにはどうしたらよいか、新規事業を早く立ち上げるには何が必要か、各人・各部門がそのためのしくみをつくり、工夫を積み重ねることに注力すべきでしょう。
たとえば、不登校の子どもむけの家庭教師事業は収益が伸びているのですが、かかっている時間を測ってみたところ、最初の段階での保護者との調整に時間を取られすぎていることが判明しました。つまり時間生産性は低かったということです。そこで、保護者の方がBHに最初にコンタクトしていただく前に記入していただく自己診断ツールを開発し、「子どもさんの同意は得られましたか?」など、重要な設問をクリアした方とだけ、本格的な調整に入れるようにするなどの試みを進めているところです。
(文責:棟朝)